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”負けない”流通経済大、悲願のインカレ初制覇…トーナメントに照準、緻密な準備がもたらした優勝

2014.12.22

悲願のインカレ初制覇を果たした流通経済大 [写真]=内藤悠史

 第63回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)決勝が21日に味の素フィールド西が丘で開催。流通経済大学(総理大臣杯優勝枠)が関西学院大学(関西第3代表)を1-0で破り、初優勝を果たした。流通経済大は総理大臣杯との二冠達成となった。

 5回目の準決勝挑戦で、ようやくたどり着いた決勝の舞台。満員の観客が見つめる中、流通経済大の選手たちは90分を通して高い集中力を保ち、球際で戦い続けた。0-0のまま終盤に突入する紙一重の展開の先に、待っていたのは87分の決勝弾。FW江坂任(4年・神戸広陵高校出身)がペナルティーエリア手前から左足を振り抜くと、グラウンダーのシュートがゴールネットを揺らした。

 殊勲の江坂は、「ほっとしています。優勝しないと意味がないと言っていたので、勝てて良かったです」と安堵の表情を見せた後、値千金の得点については「迷いはなかった。あの位置からでも自分はシュートを打てるという自信があったので」と事も無げに言った。スコアレスで迎えた終了間際、当時の心境を問うと「延長戦も頭には入っていた。走り負けない自信はあった」という。「『延長戦になっても良い、失点ゼロで進めていこう』という話は試合前にしていた」。90分間で勝てなくても、負けなければ良い――。そんな心理的余裕を生んだのは、トーナメントを制するための緻密な準備。とりわけ、PK戦への絶対的な自信が裏付けとして存在していた。

 今シーズン、流通経済大は8月に行われた総理大臣杯で2連覇を達成し、インカレ出場権を獲得。夏の段階で全国大会への切符を掴んだことで、先を見据えたチーム作りをしやすい状況となった。リーグ戦では前期日程を終えて8位に沈み、9月6日に後期開幕を迎える。その重要な初戦、明治大に0-1と敗れてリーグ制覇が難しくなった。これがターニングポイントになったと中野監督は言う。「ポイントとなる試合を落としたことで、インカレで戦うための様々なチャレンジをリーグの中でやっていった。リーグを諦めたわけではないですがね」。最後の7試合は2勝5分けと無敗。引き分けの数が際立つが、トーナメント戦で必要な“負けない”戦い方を備えたチームへと変貌していた。単調な展開になろうが割りきったプレーを選択することを厭わず、ロングボールを多用する試合も少なくなかった。主将DF鈴木翔登(4年・流通経済大附属柏高校出身)は「負けなければ勝ち点は増えていく。そこに気を使っていた。守備にどんな観点を置いていくか、それを大切にしたシーズンだったと今振り返れば思う」と述懐する。

“トーナメント仕様”のチームとなり、満を持して臨んだ今大会。1回戦(九州産業大戦)こそ90分間で快勝したが、2回戦(東海学園大戦)は延長戦で2得点を奪って勝利を収め、準々決勝(大阪体育大戦)ではPK戦を制した。「今大会も(関東リーグと)同じ。2回戦も準々決勝も延長戦に入ったわけだから、リーグ戦であれば引き分け。勝率は変わっていない」とは中野監督の弁。90分で勝ちきる力を持ち合わせていないとも言えるが、指揮官は「トーナメント戦では延長戦やPK戦であっても勝ち上がれば良い」と話す。特に自信を持っているのが、「負けない方法を実践してきた」PK戦だ。

 運の要素が多分に作用すると考えられがちなPK戦。しかし中野監督は「PK戦はしっかりとした勝負。絶対に勝つという方法を考えるべきだ」と力説する。かくいう指揮官も以前は、90分や延長戦で決着をつけられなかったことをネガティブに捉えながらPK戦に臨んでいたそうだ。とはいえ今は「トーナメントで勝つコツを指導者が持たないといけない」と考えている。「PK戦で勝てるという自信があれば、試合の進め方にも余裕ができる。こちらがバランスを崩さなくても、相手が無理をして前へ出てくることもある。その駆け引きをできるようになった」。詳細な方法論こそ明かしてはくれなかったが、GK陣に対しては確率論に基づく説明を施し、相手のキックの成功率を下げる理論を浸透させたという。キッカー陣には相当量の練習を指示し、自信を植え付けた。結果、最近2年間で経験した7回のPK戦で、負けることはなかった。失敗したキッカーはわずかに1人、枠を外したシュートはゼロだという。今大会準々決勝の大阪体育大戦でも5人全員が成功。驚異的な勝率が裏付けとなって、心理的余裕が生まれたのだ。

 もう一つ、指揮官は今大会制覇へのこだわりを明かしてくれた。1回戦から決勝まで、11日間で5試合に臨む日程を前に、「それが決まっている以上は、どうやって決勝で勝つか逆算をした」結果、「実は、東京に丸2週間泊まっている。うちは茨城なので、帰ろうと思えば帰れるんですけどね」と、集中合宿で試合に備えることを決めた。「優勝するための準備がどこよりもできていたのかもしれない」と、中野監督は胸を張る。優勝決定弾を挙げたFW江坂が負傷から復帰したのは2回戦の前日練習。常にチームスタッフが回復状況を把握できる体制でなければ、今大会には間に合わなかったかもしれない。総力を挙げた準備が、あの決勝点を生んだと言っても過言ではないだろう。トーナメント、PK戦、コンディション――。あらゆる要素に対策を施す努力の先に手にした、悲願のタイトルだ。

(取材・文=内藤悠史)

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