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試合を決めた富山第一・城山のロングスロー 実はチームメートも知らない秘密兵器だった

2014.01.13

[写真]=大木 雄介

文=川端暁彦

 10分ハーフの延長後半も残りわずかとなった109分、国立が震えた。

 富山第一の右SB城山典が投げたロングスロー。ゴール前へと飛んだボールに敵味方共に反応し損ない、こぼれたところで待っていたのは交代出場のMF村井和樹。左足でミートしたボールがゴールネットを揺らし、これが92回目の高校サッカー選手権におけるウイニングゴールとなった。

 この瞬間、筆者の脳裏に浮かんでいたのは、実を言うとクエスチョンマークである。今大会、ずっと富山第一を取材していたにもかかわらず、城山がロングスローを投げていた覚えはまるでなかった。「まさかこの瞬間まで温存していた秘密兵器? この展開になるまで隠し続けられるものなのか?」。セットプレーに独自のこだわりを持つ富山第一とはいえ、驚きでしかなかった。

 だが実のところ、クエスチョンマークが浮かんでいたのはピッチ上の選手たちも同じ。試合が終わった後、城山に対してチームメイトが投げかけた言葉は「お前、ロングスローなんて持っていたの?」というものだった。

「『えっ?』という感じだった」とFW渡辺仁史朗はその場面を振り返る。ゴールを決めた村井も「投げた瞬間は本当にビックリした」と率直に語る。実を言えば、このロングスローは何と人生初の投てき。近くの味方にマークが付いていて投げられず、やむを得ずゴール前へと投げたボールが思ってもいなかった飛距離を記録してしまったのだという。

 攻める側の富山第一の選手たちも驚いていたのだから、星稜DFの対応が遅れてしまったのは仕方なかった。今大会初どころか、人生初のロングスロー。人間の脳は限界状態で肉体のリミッターを外すことがあるという。限界まで高まっていた国立のムードが未知の力を引き出してしまったということかもしれない。伝統あるこの地で幾度もその力を見せてきた「国立の魔物」は、最蹴章となった今大会も、なお健在だった。

文=川端暁彦

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