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【コラム】なぜ、スター選手がMLSに参戦するのか? “お金だけじゃない”魅力とは

2016.10.26

スター選手が次々と参戦するMLSの魅力とは一体何なのか [写真]=Getty Images

■なぜ、ビッグネームがMLSに参戦するのか?

 MFカカにMFスティーヴン・ジェラード、FWロビー・キーンからMFアンドレア・ピルロまで、名だたるスター選手たちが、「MLS(メジャー・リーグ・サッカー)は競争力が高く、実力伯仲だ」、「思っていたよりもはるかにレベルが高い」、「とてもタフなリーグ」と口をそろえる。サッカー不毛の地。そんな古いイメージでアメリカを語ることは、もうできない。

 1994年のワールドカップ招致でプロリーグ創設の機運が高まり、20年前の96年よりスタートしたMLSの歴史は、たしかに順風満帆ではなかった。90年代後半はなかなか軌道に乗ることができず、観客動員数は伸び悩み、02年にはクラブ数が12から10に減ったこともあった。

 しかし、07年にMFデイヴィッド・ベッカムがLAギャラクシーと契約するタイミングで、選手の年俸やチームの年俸総額にリーグが上限を定める「サラリーキャップ制」の例外を認める「特別指定選手」枠を設けたことが、大きな契機となった。この通称“ベッカム・ルール”が続いてFWティエリ・アンリやDFアレッサンドロ・ネスタを呼び込こんだのだ。

デイヴィッド・ベッカム

2007年にLAギャラクシーに加入したベッカム。背番号はレアル・マドリード時代と同じ「23」を選んだ [写真]=Getty Images

 さらに自国開催の94年ワールドカップで初めてベスト16に進出したアメリカ代表がその後も4年に一度の大舞台に立ち続け、02年に8強、さらに10年、14年大会も16強に進出するなど強豪国の仲間入りを果たしたことも手伝い、徐々に潮目が変わっていく。10年前は1試合平均1万5000人程度だったMLSの観客動員数は、昨年はついに2万人を越えるまでに伸びた。

 これはスター選手の存在や競技レベルの向上だけでなく、リーグが長期的視野に立って行なってきた施策の賜物でもある。元々、4大プロスポーツ(MLB、NFL、NBA、NHL)のノウハウを持つ国だ。スタジアムの利便性や娯楽性に対する配慮は細やかで華やか。それでいて4大スポーツと被らない若い世代にターゲットを絞り、ソーシャルメディアをフル活用してうまくファンベースを拡大。加えてリーグの出資で創設したナショナルセールスセンター(NSC)で“チケットを売るプロ”を育成して各クラブに就職させるユニークな取り組みも奏功し、一度サッカーに興味を持ったファンを手放さず、加速度的に支持を広げていく策が実を結んだ。

 そうして確立されたのが、こんな好循環だ。

「選手のクオリティー向上」→「観客動員数増加」→「チケットを買えないファンにTV放送の需要が高まる」→「放映権料の高騰」→「露出増でスポンサーも増加」→「リーグとクラブの予算増加」→「さらなる大物選手獲得」→ ……

 今やMLSは、競技力と人気を世界に誇れるレベルで兼ね備えた立派なビッグリーグに育った。だからこそ、本場ヨーロッパから海を渡ってくるビッグネームがリーグの成長に比例して増えているのは必然なのだ。加えて、近年ではそんな母国の活況を見て“里帰り”を決める自国のスターも増えた。トロントFCのMFマイケル・ブラッドリーやFWジョジー・アルティドール、シアトル・サウンダーズのFWクリント・デンプシーや、コロラド・ラピッズのGKティム・ハワードらがそうだ。

 もちろん、これまでMLSを揶揄する常套句とされてきた「年金リーグ」の側面が、少しもないとは言わない。リーグの“中央集権的管理”によって各クラブの運営は総じて安定しており、サラリーも悪くない。今年5月にリーグが公表した年俸リストによれば、現リーグで最も稼いでいるのはオーランド・シティのカカで716万ドル(約7.5億円)。FWセバスティアン・ジョヴィンコ&ブラッドリーのトロント・コンビを挟んで、LAギャラクシーのジェラード、そしてNYシティのMFフランク・ランパード、ピルロ、ビジャがこれに続き、彼らも6億円前後の年俸を受け取っている。彼らが欧州トップクラブで全盛期に稼いでいた額と比べればやや下がるものの、十分に遜色のない給与レベルと言えるだろう。

 待遇面だけでなく、世界一の経済大国にしてエンターテインメントの本場たるアメリカでの優雅かつ快適な暮らしに対する憧憬もあるだろう。サッカーの世界で頂点を極めた男たちが、いち競技の枠組みを越えたスポーツ大国の空気を吸ってみたいと思うのも、十分に理解できる。

カカ

高額年俸を受け取っているカカ(右)。今年5月にはブラジル代表に復帰したが、負傷のため自身初となるコパ・アメリカ出場は叶わなかった [写真]=Getty Images

 それでも、彼らはいくら生活が満たされようとも、ファンの熱気がないスタジアムに立ち、“牙”を研がずとも活躍できるようなレベルの中でサッカーライフを送りたいと思うはずがないのだ。

 トロントで“第二の春”を謳歌するアズーリ戦士のジョヴィンコは「スポーツがお祭りのように見られていて、雰囲気が素晴らしいんだ」とスタジアムのポジティブな空気感について言及する。これについては、モントリオール・インパクトのFWディディエ・ドログバも「ファンの熱気が素晴らしい」と同意見だ。

 またNYシティのビジャは、「フィジカルコンディションを整えなければ活躍は不可能だ」とプレーレベルの高さを証言。セリエAきっての知性派として知られた同僚のピルロは、戦術的レベルに関してはまだ「向上の余地あり」と前置きするが、ビジャと同様に「フィジカルレベルが高く、かなり走力が必要とされる」と話し、選手個々のスキルレベルも水準以上だとリーグの印象を語る。

 他にも、プレミアリーグで活躍してきたドログバは「アウェーの遠征が本当にハード」と国土が広大なアメリカならではの難しさを明かしているし、さらにキーンは「僕らのような“特別指定選手”には常に大きな重圧がある」と、スターだからこそ常に高次元の活躍が求められるプレッシャーがあることも認めている。

 MLSは、決してキャリア晩年を優雅に楽しめるような環境ではない。一筋縄ではいかないリーグなのだ――。こうした声は、間違いなくアメリカに視線を送る欧州の選手たちに伝わっている。彼らはその評判を知った上で、人生における新たなチャレンジに胸を躍らせて、この地を踏んでいる。

■年間王者の座はどのクラブに?! MLS最大のイベントが始まる

ポートランド・ティンバーズ

昨季のMLSカップを制したポートランド・ティンバーズには、かつて鈴木隆行や西村卓朗が在籍した [写真]=Getty Images

 そんなスターたちの頂点を決める戦いが、いよいよ幕を開ける。

 MLSは在籍20クラブが10チームずつ東西のカンファレンスに分かれてレギュラーシーズンを戦い(交流戦もあり)、各地区で「6位以上」のチームがプレーオフに進出する。東西に分かれたままトーナメント戦が実施され、それを勝ち抜いたカンファレンス王者同士が、一発勝負の決勝戦となる「MLSカップ」で、真のシーズンチャンピオンの座を争う。21回目のポストシーズンは来たる10月26日に幕を開け、12月10日のMLSカップでクライマックスを迎える。

 ポストシーズンの面白いところは、レギュラーシーズンの結果が必ずしも結果に反映されないところだろう。MLSでは、レギュラーシーズンで両地区合わせて最多勝ち点を獲得したクラブに「サポーターズ・シールド」という賞が与えられるが、この称号を手に入れた“年間首位”チームがそのままMLSカップを制したケースは、過去20年でわずか5例のみ。最近では11年のLAギャラクシーを最後に、年間最多勝ち点のチームは年間王者に輝いていない。

MLS

優勝争いはもちろん、名だたるスター選手たちのプレーからも目が放せない [写真]=Getty Images

 今季のサポーターズ・シールドは、西地区首位のFCダラス。元コロンビア代表のオスカル・パレハ監督の下、名の知れた大物選手こそいないが、質の高い南米系選手をそろえた強豪で、初の年間王者を目指す。ダラスと並んで優勝候補と目されるのは、東地区首位のNYレッドブルズか。かつてアンリが在籍した名門には懐かしのショーン&ブラッドリーのライト・フィリップス兄弟がいるが、弟ブラッドリーは今やリーグ最高の点取り屋と名高く、今季もレギュラーシーズン最多の24得点を挙げている。

 さらには、今夏エヴァートンから母国へ戻ったアメリカ代表GKハワードがゴールにカギをかけるコロラド・ラピッズ(西地区2位)、ランパード、ピルロ、ビジャのトリオをパトリック・ヴィエラ監督が指揮するNYシティ(東地区2位)、さらに今年限りで退団が噂されるジェラードやキーンに加え、メキシコ代表FWジオバニ・ドス・サントスを擁する攻撃自慢のLAギャラクシー(東地区3位)あたりも、十分に王者の器だ。

 その他、ジョヴィンコに加えて日本人MF遠藤翼のプレーも楽しみなトロント(東地区3位)、監督に反旗を翻したドログバの去就に注目が集まるモントリオール(東地区5位)、不整脈の主砲デンプシーを欠くもののMLSきっての人気クラブであるシアトル(西地区4位)など、注目クラブは尽きない。

(記事/Footmedia)

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