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22歳でブラジル歴代5位の40得点…ネイマール、王国復権の旗手

2014.10.16

王国の中でも、存在感は抜群だった [写真]=Getty Images

 20世紀を代表するボクサーを形容した言葉は、21世紀を生きるフットボーラーにも、そのまま当てはまりそうだ。

「蝶のように舞い、蜂のように刺す」

 かつて、モハメド・アリは重量級とは思えないような軽快で華麗なステップワークと鋭く的確なパンチを武器に、ボクシングでヘビー級王者まで上り詰めた。

 もちろん、競技や体格、影響力は異なる。しかし、ボクシングの枠を超えたカリスマのスタイルは、時代を超えてブラジル出身のスーパースターを想起させる。

 最前線やサイドに顔を出したかと思えば、ボールと戯れるために自陣に戻って最終ライン付近にもフラリと現れる。守備はと言えば、脇を固めるオスカルやウィリアンに任せっきり。自身の思うままにプレーしているようにも見えるため、持ち場をセカンドトップやトップ下、ウイングなどと表現するのは難しい。敢えて言うならば、「ネイマール」というポジションになるだろうか。

 ところが、定位置という概念を超えてフラフラと動き回るプレーは、相手からすれば実に厄介だ。国際Aマッチ初出場で対峙することになった田口泰士は、「自分の両サイドをうまく突かれ、アプローチが遅れたことで、自由に前を向かれてドリブルで仕掛けられるシーンが多かった」と振り返る。「技術がしっかりしているので飛び込めないし、周りを使うプレーもうまいので、一枚も二枚も上を行かれていた」という言葉からは、捕まえようとすればヒラリとかわされてしまうもどかしさが、どこか滲み出てくる。

 もちろん、ピッチ上を舞っているばかりではない。一気に抜け出す圧倒的なスピードを維持しながら、一発で急所を打ち抜く鋭利な針も併せ持つ。

 2012年と2013年に対戦した際にも出場していた川島永嗣が、今回の試合前々日に語っていた言葉が象徴的だ。

「状況によってシュートの打ち方も違うし、常に彼が一対一でシュートを打っているわけではない。ただ、決めないといけない瞬間の中、自分が狙ったところにどれだけ打てるかという正確性は、やはり他の選手とは違う」

 日本代表戦では、自身初となる国際Aマッチで4ゴールを記録。本人も「素晴らしい気分。とても幸せだし、満足している」という一気の固め打ちで、通算得点は40ゴールまで積み上がった。既にベベットやリヴァウド、ロナウジーニョといったセレソンを彩ってきた名手を抜いて、歴代単独5位に立っている。彼の上を行くのは、ペレ、ジーコ、ロナウド、ロマーリオだけ。文字通り歴史に名を刻んだアタッカーが居並ぶが、「僕は自分の限界がどこなのかわからない」という言葉と、22歳という年齢を考えれば、王国が誇るレジェンド達に並ぶことも、もはや時間の問題か。

 チームを束ねるドゥンガ監督も、日本戦での大活躍を「大変素晴らしかった」と褒めちぎったが、実は2人には因縁もある。

 今から4年前の2010年、気鋭の新星としてサントスで活躍し出していたこともあり、南アフリカ・ワールドカップに向けて、国民からもメンバー入りを待望されていた。ところが、当時第一次政権にあった指揮官は、経験の少なさを理由に最後までメンバーリストに期待の若手を加えることはなかったのだ。大舞台からのメンバー漏れは、18歳の少年にとって失意だったに違いないが、4年間で押しも押されもせぬ大黒柱に成長したことによって、当時とは状況も関係もすっかり様変わりした。

「彼の能力は今も向上していると思うし、キャプテンという新しい任務を与えたが、それもそつなくこなしていた。全体を通して、サッカーを楽しんで、まるで友達とプレーするように活躍していた」

 指揮官も、かつて自身も担った王国のキャプテンという重責を任せるなど、今では全幅の信頼を寄せている。

 ちなみに冒頭のモハメド・アリだが、試合前には対戦相手を激しく罵ることで自身を奮い立たせていたりもする。口角泡を飛ばしながら挑発する姿とともに、周囲もその言葉を楽しんでいた。スポーツ選手という枠組みを超えた存在という似通った点も少なくない両者だが、発言自体がエンターテインメントとなっていることも、どこか共通しているようだ。

 ただし、発言内容まで一緒、とはならなかったようだ。

「ゴールを狙っているけれど、それは、僕個人の成功のためではない。チームメートやブラジル代表を助けたいんだ」

 自身は準々決勝に負った腰椎骨折という重傷により欠場を余儀なくされ、チームも優勝を義務付けられた母国開催のワールドカップでまさかの4位。未来永劫拭い去ることのできないような大惨敗から3カ月が経った。

 エースとキャプテンを務めるネイマールは今、名実ともに旗手として、王国復権にまい進している。

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