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【コラム】首位通過も不満続出…イエロ率いるスペイン代表、「進むべき道のり」を示せるか

2018.06.27

急遽スペイン代表監督に就任したイエロ [写真]=Getty Images

 不満が吹き荒れている。

 スペイン代表は25日に行われた2018 FIFAワールドカップ ロシア・グループステージ最終戦、イアゴ・アスパスの終了間際の得点でモロッコ代表との一戦を何とか引き分けに持ち込んだ。値千金の同点弾は一度オフサイドと判定されたが、その後VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で見直され、ゴールが認められた。テレビ解説を務めていた元スペイン代表監督カマーチョ氏はビデオ判定に否定的だったが、「今日はVARが好きだ」と冗談を言っていた。それもそのはず。同時間帯で行われていたイラン代表対ポルトガル代表の一戦でも、後半アディショナルタイムにビデオ判定によりイランにPKが与えられ、試合は引き分けに終わったからだ。ポルトガルは同点に追いつかれ、スペインが同点に追いついたことで、後者がグループBを首位で突破し前者は2位通過となった。VARで明暗が分かれ、明るい光がスペインにもたらされたのだが、同国のメディアや国民は嬉しそうではない。それどころか1位通過にも関わらず、誰もが不満を抱えていた。なぜならモロッコ戦のパフォーマンスが、あまりにもお粗末だったからだ。

 ラジオ番組『エル・ラルゲーロ』では、現地で取材するスペイン人記者や元スペイン代表GKサンティアゴ・カニサレスらがモロッコ戦について議論していた。彼らが指摘していた点は、他のメディアも声を挙げて、問題視、もしくは提言していることと一致している。

ダビド・デ・ヘア

デ・ヘアは本来のパフォーマンスを発揮できず [写真]=Getty Images

「デ・ヘアはビックセーブもあったが、チームから彼に対する信頼も感じなければ、彼自身も心配を抱えていることを伝播させている。かと言って、まだA代表で経験がないケパを決勝トーナメント1回戦で抜擢するのは現実的ではない」

「ジエゴ・コスタとイスコを除いて、どの選手も普段のパフォーマンスからほど遠い。スタメンを代えるべきだ。こんな状態のチームにあって、サウールにまだ出場機会がないなんて……。チアゴに代えて、サウール。ほとんどが攻撃が出来ていなかった右サイドは、カルバハルに代えてナチョ、シルバに代えてイアゴ・アスパスを入れるべきだ」

「フォーメーションも変更すべきだ。今のチームは攻撃に深さがない。さらにパスも奪われるし、かつてほどボールを回せていない。それであれば、4-5-1ではなく、4-4-2にした方がいいのではないか」

「予選の時はディフェンスのやり方が明確であり、前線からのプレスでかつての強度を取り戻していた。だが、ロシアにいる代表はどこでボールを奪うのか。全く戦略的な意図が分からない。プレスも中途半端で突破されている」

 地元メディアや国民にとって最も不満なのは、スペインが欧州予選や親善試合で示していたパフォーマンスを見せていないことだ。大会前、国内では代表チームに対する期待は大きかった。ブラジル大会はグループステージ敗退、フランスでの欧州選手権はイタリア代表にベスト16で敗れ、復権までに時間がかかると思われたが、予想に反してフレン・ロペテギが就任した後はスムーズに再建に成功した。予選を通じて、メジャー大会3連覇の経験者と年代別の代表で欧州制覇をなし遂げてきたイスコ、コケらの新たな世代が融合し、かつピッチではこれまでタイトルを獲得してきたスペインのフィロソフィーをしっかり貫き、結果もついてきた。今大会の優勝候補の一つと堂々と誇れるパフォーマンスを披露していた。

 しかし、いざワールドカップが始まると、予選で示していた魅力的かつ力強いプレーが出来ていない。

 様々な要因が考えられるが、やはり主因はワールドカップ開幕2日前の監督交代劇だろう。今までチームを作ってきた張本人から、2部チームを率いた経験しかないフェルナンド・イエロにバトンが渡されたことを考えれば、物事がうまく運ばないのは必然だ。むしろよく開幕の2日前に監督を交代し、グループステージを首位で突破できたものだ。イエロはスポーツディレクターとしてかつての指揮官とディスカッションを繰り返し、もちろん意見もしただろうが、23名のメンバーを自分で選んだわけではない。材料もレシピも知っているが、その素材をどんな火加減で、どのタイミングで鍋を振って調理するのか。イエロは当然ながら知らないのだ。もしロペテギが指揮を執り続けていれば、自身が選んだ23名を駆使し、実際に欧州予選でやっていたよう試合ごとに、もしくは戦況ごとに人員や配置を代えていたことだろう。

フレン・ロペテギ

ロペテギは開幕直前にレアルと契約を結び解任された [写真]=Getty Images

 とはいえ、これまで会見の場でワールドカップに集中するよう各選手へのクラブに関する質問をロペテギは嫌っていた。そんな指揮官が突如、大会直前にレアル・マドリードの監督に就任するしたことで、選手に対して今までと同じ求心力を維持できるかは疑問だが。

 幸いなのは、指揮官も選手も全員が自分たちのパフォーマンスが低調だと自覚していることだ。イエロは「私たちは自己批判をしなければいけない。これは進むべき道のりではない」と話している。

 スペインはモロッコ戦を25日に終え、7月1日に決勝トーナメント1回戦で開催国のロシア代表と対戦する。イエロにとって、監督に就任してから初めて5日間の準備期間を次のゲームに向けて手にした。指揮官はこの時間でいかにチームを修正するのか。スペインの誰もが今のパフォーマンスのままでは強国と対戦した時、真っ先に負けるだろうと考えている。

文=座間健司

By 座間健司

フリーライター&フォトグラファー。フットサルとサッカーを中心にスペインで活動中。

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