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【コラム】ファンの強烈皮肉で迎えられた“チャイナ・ミラン”…再建の鍵はイタリア人コンビにあり

2017.04.17

ついに誕生した“チャイナ・ミラン”。新オーナー就任がクラブをどう変えていくのだろうか [写真]=AC Milan via Getty Images

 キックオフ直前からダービーは始まっている。7万8328人の大観衆で埋まったサン・シーロ・スタジアム。“ミラノ・ダービー”のお決まりと言えば、それぞれのクルヴァ・スッド(ゴール裏)に掲げられる横断幕だ。

15日の“ミラノ・ダービー”で両サポーターが掲げた横断幕。上がミラン、下がインテル [写真]=Getty Images

 今回はインテル主催の試合だったが、この横断幕戦はミランの勝利となった。最初のメルヘンチックな横断幕が閉じられた後、クルヴァ・スッドには、黄色人種とみられる手がお箸で食べ物を持って、金髪碧眼の男性が何かを食べさせられようとしている絵が浮かんだ。そこに「ALL YOU CAN EAT 12:30」と書き込まれている。いったい何のこと? と一瞬戸惑ったものの、すぐに理解できた。それは熱狂的なミラニスタからの中国企業グループ、そして新しい幹部たちに対する強烈な皮肉だったのだ。

ミラニスタが“食べ放題”の風刺画でクラブ幹部に皮肉を送った [写真]=赤星敬子 

 イタリアでは中国人経営のレストランでの「オール・ユー・キャン・イート」方法が大流行している。20ユーロ(約2300円)弱でお寿司や春巻きなどが食べ放題というシステムだ。この横断幕には「イタリア人が中国人に操られるまま、されるままだ」という怒りがこもっていた。そこに、セリエAで前代未聞となる現地時間で昼の12時30分キックオフという異例の事態とランチをひっかけ「金があれば何だってできるんだ」と強烈な嫌味を風刺画にした。つまり、今回のクラブ譲渡を快く思っているミラニスタは少ないのだろう。

 ミランの新体制はリー・ヨンホン会長、同会長の右腕とされるハン・リー氏ら中国人起業家4人と、マルコ・ファッソーネCEO(最高経営責任者)ら4人のイタリア人で構成されている。スポーツ・ディレクター(SD)にはマッシミリアーノ・ミラベッリ氏が就任した。ファッソーネCEOが中国側とのフィクサーとして動いた功績は高く評価されるものだ。同取締がいなければ、今回の売却合意はありえなかっただろう。というのも、同会長とリー氏は、サッカーもしくはスポーツ経営に関しての知識はほぼゼロだ。これがインテルの前オーナーであるインドネシア出身のエリック・トヒル氏とは全く違うところだ。

ハン・リー

“ミラノ・ダービー”を観戦に訪れたハン・リー氏 [写真]=Getty Images

 リー・ヨンホン会長は広州出身で不動産業、包装企業などのオーナーで同市に48階建の超高層ビルを建設したことで知られている。またリー氏はボストン大学卒業でワンダ・グループという不動産業界で活躍していた。中国の高度成長期の建設ラッシュでの大成功に関わっている。ミランの近い将来でプラスに働くとみられるのは、その資金源だ。ミラン買収に合計6億1000万ユーロ(約703億円)を費やしたとされている。来シーズンに向けてカリム・ベンゼマ(レアル・マドリード)やステファン・デ・フライ(ラツィオ)、セスク・ファブレガス(チェルシー)らが獲得候補に挙がっている。またスポンサー面でも中国資本が多く参入してくるのは間違いない。

 一方、彼らのデメリットは“サッカーを知らないこと”だとはっきり言わせてもらおう。同じく中国人オーナーとなったインテルがロベルト・マンチーニ氏からフランク・デ・ブール氏へ、そして現在のステファノ・ピオリ監督になるまでのドタバタ騒動を思い出してもらいたい。ジャンフランコ・ゾラ氏ら4人もの候補者に声をかける無様さはこっけいだった。

 そこで、ユヴェントス、ナポリ、インテルとクラブ経験の豊富なファッソーネ氏と、もともとスカウトマンとして活躍したミラベッリSDの出番だ。2人は2012年からインテルに所属していた。ファッソーネ氏はマッシモ・モラッティ氏にサッカービジネスの腕を買われ、また同SDは選手の見極め能力を評価された。マンチーニ時代にイヴァン・ペリシッチ、マルセロ・ブロゾヴィッチ、ジェイソン・ムリージョらをインテルに迎え入れた。コゼンツァ、テルナーナなどのリーグ昇格に貢献し、イングランドのサンダーランドで働いたという国際経験もある。これは新体制の中で大きな強みとなるだろう。この2人がミランの黄金時代を築いたアドリアーノ・ガッリアーニ氏&アリエド・ブライダ氏(現バルセロナSD)のような名コンビになれるかが、ミラン再建のカギを握る。

黄金時代再建を託されたファッソーネCEO(左)とミラベッリSD(右) [写真]=Getty Images

 新戦力だけではない。若きGKジャンルイジ・ドンナルンマの引き留めやスソとの契約更新をうまくまとめるなど課題は山積みだ。新シーズンの構想として、ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督がヨーロッパリーグ出場権を獲得したら、続投となる可能性が高い。残念ながら、今シーズン限りで契約満了となる日本代表FW本田圭佑はこのままチームを去るだろう。

 最後にミランの歴代OBたちの声を取り上げておく。ジェンナーロ・ガットゥーゾ氏は「(シルヴィオ・)ベルルスコーニ前会長は完璧な作品を生み出した。タイトル獲得だけではなく、最良の方法で組織をつくり上げた。その足跡は忘れてはならないもの。ガッリアーニ氏も苦しんだだろう。彼の熱意と情熱、意思でプロジェクトをやり遂げたのだから。彼のような人はもう現れないだろう」と思いやった。そしてミランのレジェンド、フランコ・バレージ氏は「ミラン伝説が終わった。あの時代を再び繰り返すのは難しい」と静かに言い残した。

文=赤星敬子

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