2016.02.22

レスターは続くことができるか…歴史上“ミラクル”を起こした欧州の伏兵クラブ

長谷部誠
2009年、ヴォルフスブルクでブンデスリーガを制した長谷部誠 [写真]=Bongarts/Getty Images
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 今シーズン最大の驚きといえば、やはりプレミアリーグのレスター。アーセナル戦こそ敗戦してしまったが、現時点で堂々たるプレミアリーグ首位をキープしており、(優勝を争う他クラブを除く)世界中のサッカーファンが”ミラクル優勝”の達成を期待していると言って過言ではない。

 チームの主力はプレミアリーグの連続ゴール記録を打ち立てたイングランド代表FWジェイミー・ヴァーディと、アルジェリア代表MFリヤド・マフレズ。もちろん、日本代表FW岡崎慎司も確かな存在感を発揮しており、元ドイツ代表DFロベルト・フート、MFエンゴロ・カンテ、MFダニー・ドリンクウォーターらと共に世界的な知名度が向上している。

 さて、そんなレスターが狙う”ミラクル優勝”を既に達成したチームが無いか調査してみたのでご紹介しよう。

■ヴォルフスブルク(2008-09)

 日本代表MF長谷部誠も主力として貢献した2008-09シーズンのヴォルフスブルクは「ミラクル優勝」を達成したチームといって過言ではない。

 世界的な自動車メーカーであるフォルクスワーゲンをスポンサーに持ち、現在はドイツ国内の上位クラブであるヴォルフスブルクだが、クラブ史上初のタイトルが2008-09シーズンであった。

 きっかけは2007-08シーズンに指揮官に就任したフェリックス・マガト。シュトゥットガルトやバイエルンで実績を残した“鬼軍曹”の着任により変貌を遂げる。ブンデスリーガ中位以下のクラブであったヴォルフスブルクが、クラブ史上最高の5位でフィニッシュしたのだ。

 翌2008-09シーズン、ヴォルフスブルクは奇跡を具現化する。攻撃の中心はグラフィッチ、エディン・ジェコ、そしてズヴェズダン・ミシモヴィッチ。守備陣には2006年のワールドカップを制覇したイタリア代表のメンバーであるアンドレア・バルザーリとクリスティアン・ザッカルドが在籍していた。4月にバイエルンに圧勝して首位に立つと、そのまま優勝。長谷部は主力として25試合に出場し、2009年の1月に加入した大久保嘉人は9試合に出場した。

 ヴォルフスブルクは1945年にクラブが創設されたが、1部に昇格したのは1997年のこと。半世紀以上かけて昇格して以来、2部落ちは経験していない。しかし、順位はボトムハーフが基本であり、幾度も降格の危機にさらされた。

 2007-08シーズンの5位の前の最高位フィニッシュは1998-99シーズンの6位。2008-09シーズンのヴォルフスブルクがマイスターシャーレを獲得したことは「ミラクル優勝」と言って過言ではないだろう。

■ヴェローナ(1984-85)

 イタリアで「ミラクル優勝」を成し遂げたのは、北部の街、ヴェローナを本拠地とするエラス・ヴェローナだ。

「ミラクル」といえば、「ミラクル・キエーヴォ」で有名な同じ街のキエーヴォ・ヴェローナを思い浮かべるファンも多いと思うが、本当のミラクルを達成したのはキエーヴォではなくエラスの方である。

 ヴェローナは1984-85シーズンにたった一度だけの優勝を果たしているのだが、今と同じように決して強豪チームではなかった。

●エラス・ヴェローナの過去の成績

1973-74 セリエA 13位 降格
1974-75 セリエB 3位 昇格
1975-76 セリエA 11位
1976-77 セリエA 9位
1977-78 セリエA 10位
1978-79 セリエA 16位 降格
1979-80 セリエB 13位
1980-81 セリエB 16位
1981-82 セリエB 1位 昇格
1982-83 セリエA 4位
1983-84 セリエA 6位
1984-85 セリエA 1位 優勝

 ご覧頂ければわかるだろう。典型的な中位クラブであり、昇降格を繰り返してきたチームだ。優勝の3シーズン前までは2部であるセリエBで戦っており、この点は現在のレスターによく似ている。

 当時の指揮官はオスヴァルド・バニョーリ。選手としてはウィンガーであり、ミランでプロデビューしたが、現役時代はそれほど大きな実績を残せなかった。指導者となってからは、大きな実績もなく、チェゼーナをセリエA昇格に近づけたくらいであった。レスター・シティのクラウディオ・ラニエリが世界のクラブを渡り歩いた事を考えると、バニョーリが成し遂げたことはとてつもないことかもしれない。

「ミラクル・エラス」の主力はイタリア代表FWだったジュゼッペ・ガルデリシだ。11ゴールを奪い、チーム内得点王に輝いている。彼は現役の晩年、創生期のアメリカMLS(メジャーリーグ・サッカー)に参戦しており、現在は指導者の道に進んでいる。

 またガルデリシとコンビを組んで暴れたのは元デンマーク代表FWのプレーベン・エルケア・ラルセンだ。エルケアは1980年代のデンマーク代表の躍進に貢献した選手であり、後に「ダニッシュ・ダイナマイト」としてユーロ優勝を果たした代表チームの礎といえる存在。1984年にエルケアが加入するとファンはすぐに彼の虜になったという。また、優勝を決めた1985年5月12日にゴールを決めている。

 そんなヴェローナだが、優勝後は10位、4位、10位、11位と成績が安定しない。1989-90シーズンには16位でセリエBに降格しており、その後も典型的なエレベータークラブと化してしまった。キエーヴォ・ヴェローナの躍進の影で成績を落とし、2009-10シーズンは3部リーグを経験、と直近は苦しい状況が続いている。しかし、2013-14シーズンからは再びセリエAを舞台に戦っており、古豪としての存在感を発揮している。

■モンペリエ(2011-12)

 2000年代、リヨンが不滅の7連覇を記録したリーグ・アン。近年リーグを沸かせているのはカタールの石油資本のバックアップを受けて3連覇を達成し、現在は欧州のビッグクラブとして名を轟かすパリ・サンジェルマンだ。そんな両クラブの黄金期の狭間で初優勝を飾ったクラブが2011-12シーズンのモンペリエだ。

 1919年に創設されたモンペリエは、クープ・ドゥ・フランス制覇こそ2度経験しているものの決して強豪チームではなく、2000年台はほぼ2部で過ごしていた。転機が訪れたのは2009年のリーグ・アン昇格だ。

 ひさびさの1部リーグでレネ・ジラール監督は若手を積極起用。アフリカ系の選手たちの成長につなげ、1部リーグ復帰初年度の2009-10シーズンを5位で終えることに成功した。しかし、翌2010-11シーズンは14位と低迷。年間予算がわずか3500万ユーロのチームはそのまま2部に戻るかと思われた。

 だが、ジラール監督はチームを再生させた。2011-12シーズン、下部組織出身の選手とベテランを見事に融合させることに成功。開幕3連勝で首位に立つと、その後も2位以内をキープ。PSGとの優勝争いは最終節までもつれたが、ジョン・ウタカ(サンフレッチェ広島FWピーター・ウタカの兄)の2ゴールで逆転勝利して優勝を決めた。エースのオリヴィエ・ジルーは21得点を奪って得点王に輝き、マプ・ヤンガ・エムビワらの守備陣はリーグ最少失点を達成。まさに「ミラクル」にふさわしい結末となった。

 モンペリエについても直近の成績をご覧頂きたい。

●モンペリエの過去の成績

2000-01 ディヴィジョン・ドゥ 3位 昇格
2001-02 ディヴィジョン・アン 13位
2002-03 リーグ・アン 16位
2003-04 リーグ・アン 20位 降格
2004-05 リーグ・ドゥ 8位
2005-06 リーグ・ドゥ 12位
2006-07 リーグ・ドゥ 15位
2007-08 リーグ・ドゥ 8位
2008-09 リーグ・ドゥ 2位 昇格
2009-10 リーグ・アン 5位
2010-11 リーグ・アン 14位
2011-12 リーグ・アン 1位 優勝
2012-13 リーグ・アン 9位
2013-14 リーグ・アン 15位
2014-15 リーグ・アン 7位

 リーグ・アンで上位成績を残したのは2009-10シーズンの5位と優勝した2011-12シーズンのみである。彼らがどれだけの「ミラクル」を成し遂げたか理解することができる。

■その他のノミネート候補チーム

 他に候補となるチームがいくつか存在したので軽く触れたいと思う。

 例えば、歴史に名高い、1997-98シーズンのカイザースラウテルン。彼らは前シーズンをブンデスリーガ2部で過ごし、優勝して昇格。その勢いのままにブンデスリーガを制覇したのだ。しかし、ブンデスリーガ制覇回数は4回。1990-01シーズンにも優勝を達成しており、「ミラクル」と呼ぶにはふさわしくなかった。

 1999-00シーズンにリーガ・エスパニョーラを初制覇したデポルティボも候補クラブの1つだった。しかし、直近の成績は良好なことから見送っている。

 また、ポルトガルのボアヴィスタ(2000-01)も候補クラブの1つだった。ポルトガルはポルト、ベンフィカ、スポルティングの3強以外の優勝が非常に厳しいというイメージだが、前シーズンが4位、その前が2位と、着実に力をつけたことをふまえて外させてもらっている。

 今シーズンのレスター・シティが狙う「ミラクル」は、かつてない偉業であると感じている。ボスマン判決以降、サッカー界は大きく変動してきた。資金力やブランドのあるクラブとそれらを有していないクラブの間に以前よりも大きな溝ができたからだ。

 アーセナル、チェルシー、マンチェスター・C、マンチェスター・U、そしてリヴァプール。彼らの抱えるワールドクラスの選手たちに太刀打ちするのは非常に困難なのだ。昨シーズンもサウサンプトンが優勝戦線で奮闘した。しかし、自力で勝るビッグクラブには勝てず、トップ4入りすら達成できなかったのだ。

 プレミアリーグは残り12試合。レスターとクラウディオ・ラニエリ監督には大いに奇跡を楽しんでもらい、我々に感動を与えて欲しいものだ。

(記事提供:Qoly)

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