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【コラム】疲弊したルイス・エンリケ…世界最高峰のクラブを率いる責務と重圧

2017.03.05

今季限りでバルセロナの監督を退任することが決定しているルイス・エンリケ [写真]=Getty Images

 ルイス・エンリケ監督が、3月1日のスポルティング・ヒホン戦後の記者会見で、今シーズン限りでバルセロナの指揮官を退任することを発表した。退任理由については「自分の仕事は解決策を探すもので、少ししか休む時間がない。自分には休息が必要で、それが最大の動機だ」とコメントした。

 地元テレビでは、就任会見と退任会見の写真を並べ、この3年間で彼の顔がどのように変容したかを表した。白髪や、顔のしわが増えた。次にその画像の横には、同じく「休息が必要」という動機で退任したジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・C)のバルセロナ就任時と退任時の写真も並べられた。グアルディオラ監督も4年間で急激に老けたように見え、バルセロナという世界最高峰のクラブを率いる責務、重圧が4枚の写真から見て取れる。

 グアルディオラ監督は4シーズンで14タイトルを獲得し、エンリケ監督は今日までに8タイトルを獲得した。実績があっても、常勝が義務つけられたチームは、仮に1試合でも惨敗すれば解任の噂がすぐに広がる。パリ・サンジェルマン相手に惨めな敗北を喫した直後のレガネス戦では、カンプ・ノウのスタンドからエンリケ監督への野次が飛んだ。情報が一瞬にして世界中に広まる現代において、実績はすぐに忘れさられてしまうのだろう。

 1992年から2006年まで2度目の欧州王者になるのに14年もかかったクラブは、いつしか毎シーズン欧州王者になることを求められ、ソシオもかつてほど我慢強くはなくなった。バルセロナの監督というのは、世界中の監督が夢見る最も魅力的なポストである一方、最も過酷な職務だ。次期指揮官として、アスレティック・ビルバオのエルネスト・バルベルデ監督、セビージャのホルヘ・サンパオリ監督、エヴァートンのロナルド・クーマン監督の3人が有力候補だとメディアが報じている。仮に彼らの内1人が就任したとして、何年持つのだろうか。監督も選手同様に消耗品だ。

 エンリケ監督の疲弊した原因の1つに、メディアとの関係もあったに違いない。彼は気の利いたコメントを返す、好感をもたれる監督ではない。むしろ、プレスを敵と捉えている節がある。ほぼ毎日テレビに映る会見でのやり取りは親密なものではなく、選手の移籍やパフォーマンスに関しては時にノーコメントと返答した。負ければ「敗戦の責任はすべて私にある」とお決まりのフレーズを全面に押し出す。そんな彼を「キザな奴」という単語で表現するバルセロナニスタも多い。パリ・サンジェルマンとの敗戦後のテレビ記者のインタビューで「勝った時にも(敗戦時のように)そういう扱いをしてくれたらいいね」と明らかに怒った顔で皮肉を交えて、返答した。記者の質問は、ごく一般的なもので指揮官を挑発する態度も意図も全くなかった。だが、大敗後のナーバスな彼には、すべてが敵に見ていたのかもしれない。選手ならばまだ許される態度だったかもしれないが、今や記者会見も重要な職務の1つとなっている監督としては受け入れがたい姿勢だった。エンリケ監督が言う“疲弊”が見て取れたシーンだった。

 エンリケ監督の同胞で、幼少時代からの親友にアベラルド・フェルナンデス氏がいる。彼らはバルセロナと、スペイン代表でもチームメイトだった。A・フェルナンデス氏は故郷のスポルティング・ヒホンの監督を務めていたが、今シーズンは戦績不振で、1月に退任した。彼も職を離れる少し前の記者会見で、我を忘れて口論してしまい、その態度に大きな批判が集まった。彼らのキャラクターは似ている。単なる偶然だろうが、エンリケ監督が、自身も育った故郷のチームとのゲームの後に退任を発表したことも運命だったのかもしれない。

文=座間健司

By 座間健司

フリーライター&フォトグラファー。フットサルとサッカーを中心にスペインで活動中。

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