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最優先はタイトル 大金投じたバルサ、カンテラ出身者減も若返りに成功

2016.09.04

今夏、リーガ勢で最も多額の資金を移籍市場に投じたバルセロナ [写真]=Getty Images

 今夏の移籍マーケットにおいて、スペインで最もお金を費やしたのはバルセロナだった。スペイン紙『エル・パイス』の報道によれば、バルセロナは6選手の補強に1億2280万ユーロ(約142億円)を投資した。2014年夏の補強費1億6720万ユーロ(約193億円)に次いで、クラブ史上2番目の高額だ。

 選挙でソシオの投票によって選ばれたジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は初夏に、「私たちは補強費として6000万ユーロ(約69億円)持っている」と公言したが、最近では「トップチームは他の契約が必要で、クラブは完璧に補強費を増やせた」と大幅な増資の正当性を強調した。「3000万ユーロ(約34億円)を使って、パコ・アルカセルを獲得する必要があるのか? ムニル(・エル・アダディ)でいいじゃないか」というソシオの不満をけん制するため、彼は政治家のようにそう言わなければならない。とはいえ、タイトルを獲得すれば、みんな膨大な補強費など忘れてしまう。

 補強の目的は若返りだった。若返りと言っても、単純に若い選手を獲得すればいいわけではない。現在世界最高のチームの1つであるバルセロナにとって必要なのは即戦力かつ若い選手だ。コストがかかるのは、必然だった。

 33歳のダニエウ・アウヴェスとクラウディオ・ブラボ、31歳のアドリアーノ・コレイア、30歳のトーマス・ヴェルマーレンらベテラン、そして21歳のムニルとサンドロ・ラミレス、25歳のマルク・バルトラを放出。やって来たのは27歳ヤスパー・シレセン、22歳のアンドレ・ゴメス、デニス・スアレス、サミュエル・ウムティティ、リュカ・ディニュ、そして23歳のパコ・アルカセルだ。シレセンを除けば、全員23歳以下。結果、昨シーズンのメンバーの平均年齢は28.30歳だったが、今シーズンのリーガ・エスパニョーラ第2節、アスレティック・ビルバオ戦スタメンの平均年齢は26.45歳だった。補強の成否を問うの時期尚早だが、若く全員代表歴がある新加入選手を揃えた。チームを強化させながら、若返りを図るというプロジェクトはいい形でスタートを切ったと言えるだろう。

 そんなバルセロナに対して、マドリード寄りのメディアが噛みつく。スペイン紙『マルカ』は「バルセロナの新しいモデルは、ラ・マシア(下部組織)を忘れた」という見出しでこう伝える。バルセロナは、最近3シーズンで3億4300万ユーロ(約398億円)を使い、15選手を獲得した。一方で下部組織からトップチームに昇格したのは、GKのジョルディ・マシップだけ。その彼も最近2シーズンで360分しか公式戦に出場していない。昨シーズンはトップチームに下部組織出身者が11人いたが、ムニル、バルトラ、サンドロが抜けた今シーズンは8人と、2007-08シーズン以来最もカンテラ出身が少ない。数字を並べ、クレが自慢気に言うカンテラを大事にするというクラブの哲学に疑問を呈している。

 こうなると反論が始まる。バルセロナ寄りのスペイン紙『ムンド・デポルティーボ』は主張する。バルセロナは、欧州のビッククラブの中で今シーズン最もカンテラ出身者が多い。バルセロナは8人、レアル・マドリードは6人、アトレティコ・マドリード、バイエルン、アーセナルは4人、ドルトムント、パリ・サンジェルマン、ユヴェントスは2人、マンチェスター・C、チェルシーは1人。比較することで、バルセロナの哲学の健在を強調しているのだ。

 バルセロナは今や毎シーズン、チャンピオンズリーグで優勝を狙わなければならないビッククラブとなった。現会長バルトメウは2015年夏の会長選挙で勝利したが、その年の2月頃はバルトメウの失脚が大方の予想で、元会長ジョアン・ラポルタ氏の当選が有力視されていた。しかし、ルイス・エンリケ監督が率いるチームが3冠を達成すると風向きは変わり、バルトメウが圧勝。ピッチ外ではネイマールの移籍に関する裁判、未成年の国際移籍違反による補強禁止など問題が続出していたが、投票するソシオにとって何よりも重要なのは、サッカーのトップチームの結果であることが実証された。その後、バルトメウが会長の座を揺るぎないものにするために強化を推し進めるのは当たり前だった。よってチームのメンバーは、世界選抜と言っても差し支えないくらい豪華になる。そんなチームに経験が貧しいカンテラ上がりの選手が入る余地があるだろうか。毎試合勝利を要求される現場に若手を使う余裕があるだろうか。

 今いるカンテラ出身者でリオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケツ、セルジ・ロベルト以外は皆レンタル移籍で経験を積んでいる。ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバは買い戻された選手だ。後に取り止めになったが、メッシも2005年夏にエスパニョールへのレンタル移籍がほぼ決まっていた。カンテラからストレートにトップチームに定着するのはそれほど難しい。今はトップチームにいるカンテラ出身者の数が減っているが、デニス・スアレスのように他クラブでしっかり結果を残せば、ムニルやバルトラらが戻ってきて、カンテラ出身の数もまた増えるだろう。

 何よりも重要なのは、トップチームにいるカンテラの数よりもタイトルだ。メディアを賑わす天文学的な数字に文句を言いながらも、王者になり続けるために出費が必要なのは、ソシオも心の奥底では容認している。

文=座間健司

By 座間健司

フリーライター&フォトグラファー。フットサルとサッカーを中心にスペインで活動中。

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