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【リーガで働く日本人】史上初めてバルセロナの現場で働いた日本人の物語②

2016.05.14

 サッカー大国スペインにして、唯一無二の存在であり、世界のサッカーシーンを先駆するバルセロナ。選手ならずとも、サッカーに係る人間の多くがその地に憧れ、学びを求めて海を渡る。その道を切り開いた一人の男、それが村松尚登だ。サッカー留学=ドイツが主流だった当時、村松が選んだスペイン・バルセロナへの武者修行。日本人としては初のバルセロナスクールコーチとして活躍した。「練習メニューがバルセロナっぽいわけではなく、そのメニューをいかにバルセロナっぽくプレーさせるかなんです」。サッカーが日常に溶け込むバルセロナの空気に、強さの真髄を見た。時は流れ、今は母国日本で指導者として活躍する村松だが、その礎にはバルセロナの情熱的な血液が脈々と流れている。「日本人の身体動作を掘り下げる価値意識には、世界を驚かせるヒントが十分隠されている」。バルセロナに学び、日本で新たな挑戦を続ける村松は今、何を想うのか。

その後の指導者人生を方向付ける、ある「理論」との出会い

――その出会いがその後の人生を左右していく訳ですね。簡単に説明するとどういったものなのでしょうか。

村松尚登 正直に言えば今も探求中で僕自身が彷徨い続けている理論です。でも出会ったときから今に至るまで、分からないことが楽しくて仕方ない。バルセロナのプレースタイルとか、選手育成というのは、サッカーの本質をうまく捉えた方法論、メソッドなんです。サッカーの本質は何なのかを理解するのに、戦術的ピリオダイゼーションが自分の拠り所になっています。

バルセロナのサッカー、選手育成がなぜうまくいっているのか。そのバックボーンにあるサッカーの捉え方は、戦術的ピリオダイゼーションの理論を通すと理解できる。練習メニューの統一化もそうです。

プレースタイルをより多くの選手に浸透させる時、外しちゃいけないポイントがある。サッカーの本質から外れちゃだめだよね、サッカーの本質ってなんだろ…という時に立ち戻れる理論なんです。それはバルセロナのメソッドに立ち戻ってもわからない。それはメソッド、方法論でしかないから。バルセロナのメソッドは、戦術的ピリオダイゼーション理論をベースにしているわけじゃないんだけど、それまでの経験がサッカーの本質とうまく噛み合っているから良いものになっているんですね。

――その後、バルセロナスクール福岡校立ち上げで日本に戻って来たんですよね?

村松尚登 そうですね。福岡校には3年半いました。結構苦労したことを覚えています。「日本にいてバルセロナを味わえる」がコンセプトだから、もちろんバルセロナと同じ練習メニューをやらなきゃいけないんだけど、それがなかなか上手くいかない。

――技術的な話ですか?日本の子ども達は技術的には世界的にも上の方だと聞きますが。

村松尚登 わかりやすいのはサッカー文化の違い。ボール回しをするにもバルセロナっぽくならない。なぜならバルセロナを見ていないから。同じ練習メニューで一生懸命バルセロナっぽいものを伝えようとするんだけど、子どもたちに落ちない。やろうとしているプレーが映像として、頭に再現できていないからだと思いますね。

――感覚的な何か、ということですかね。

村松尚登 難しいですね。ボール回しのリズムなんかも、俺が全部知っている訳ではないけど、バルセロナの試合をたくさん見た後に「ちょっと違うね」という言葉にできない何かがある。そもそもバルセロナのプレーを見ていないと、バルセロナっぽくというのが分からない。ちょっと見てわかるかというと、そうでもない。でも、バルセロナでは指導者も保護者のヤジもバルセロナっぽくなる。

――やっぱり歴史というか礎みたいなものが影響しているんでしょうね。

村松尚登 そうそう。とはいえ、実際に福岡のバルセロナスクールでもそれをやらなきゃいけないし、バルセロナっぽくしないといけない。練習メニューがバルセロナっぽいというのはもちろんあるんだけど、子どもたちが表現するプレーもバルセロナっぽくならないといけない。

じゃないと偽物になってしまう。現地の練習メニューをそのままやっても。それはメソッドの部分だけであって、バックボーンが違うと同じメニューでも違うものになってしまう。コーチやスタッフ含めいろいろ試行錯誤しました。

完全に変えるのではなく、ちょこっと変える。伝えたいことが伝わるようにアレンジしていく感じで。そのお陰で少しずつ伝わる頻度・割合が高くなっていった。それが最初の頃で、充実感はもちろんあったけど、思い通りにいかない歯がゆさもありました。

――その経験を経て、今は水戸ホーリーホックでスクールコーチをされていると。

村松尚登 水戸に入ったのは2013年ですね。福岡校ではある程度良い仕事ができたと思うし、やり切った感があって、他を探しているときに水戸に出会いました。中学生を2年間担当して、今はスクールを教えています。

これまで自分が学んだことを配信することが、ライフワークになってきた。向こうで経験したことをより多くの人に知ってもらう。誰かの役に立ってもらえれば嬉しい。

――これまで培ってきたものを水戸の子ども達に注いでいる訳ですね。

村松尚登 正直、まだそこまではいけていないかな。いろいろ試行錯誤をしています。上手いやつはさらに上手くなる。普通のやつもどんどん上手くなる。下手なやつもそれなりに上手くなる。サッカーを理解するということで、状況判断だったりポジション取りだったり。日本ではあまりやっていないから、それを習得すればレベルアップする。

戦術的ピリオダイゼーションとも繋がるのは、中学生年代でチームの完成度を高めたら、勝てる確率は高まるし、チームの完成度を高めたらその中で選手はもちろん成長する。でも、その中で伸びた選手がワンランク上のチームに行った時に、本当に評価されるかが課題です。同じスタイルの枠組みの中でしか活躍できないのでは、バルセロナのように一貫した組織が無い限り選手にとって難しい局面が待つことにもなります。

――メソッドだけを投下しても基盤が整備されないと難しいことがあると。

村松尚登 チームの完成度を高めた監督と一緒に上のカテゴリーに上れば、ワンランク上で活躍できる。ただ、ある特定のチームスタイルの中でのみ活躍できる選手を育てちゃうと、潰しが効かない。チームとしての成長と同時に、個々を成長させて、異なるスタイルでも対応できるようにしなければいけない。水戸の子ども達が鹿島アントラーズでもレギュラーになれるように育てる必要があると。

チームの完成度だけで勝負すると違うチームに行っても本当に個でも活躍できるのか?というのが今の課題だし、そういう場面に遭遇することがあります。

――なるほど。そういった点を踏まえて、スペインで学んだことを日本に落とし込んでいく上で描いているビジョンなどあるのでしょうか。

村松尚登 両方を融合させて、より良い選手育成のメソッドとまでは言わないけど、一つの形を作りたいというのはある。バルセロナモードがあるように、日本モードがあるんじゃないかって。スペインやブラジルが日本に学びにくるような。

いま興味を持って取り組んでいることの一つが、テクニック系を掘り下げていくことです。実際にテクニックを掘り下げる街クラブにも出会ったので、参考にしているのはそこかな。彼らは街クラブで、その地域で2番手3番手の子ども達が集まる集団でありながら、戦術度外視とまではいかないにせよ、ストイックにボールに触ることで成長していく。僕らがチームとしては優れていても個の育成で負けるという逆転現象が起きると。もう一つはテクニックの前段階として、自分の身体を自由に操れるか。そういうところのトレーニングもしないとより良い選手育成にはならない。ボールを自由に扱えることは身体を自由に操れるということでもあり、バルセロナのサッカーを小さい頃からやっていたら身体を自由に操れるかというと、そうではない。

――身体動作とは、テクニックを向上させる為の基盤になるわけですね。

村松尚登 メッシは来た時点でメッシだし、ルイス・スアレスもネイマールもペドロもシャビもイニエスタもセルヒオ・ブスケツもそう。バルセロナで活躍している選手は、最初の段階で自分の身体は自由に使えている。

それでこそ、バルセロナのメソッドは効果を最大限に発揮する。チームとしての完成度、戦術的な状況判断うんぬんというのが、サッカーでは大切。それがないと良いサッカーにならない。一方で身体を上手く操れるからこそパス、ドリブル、トラップにしろボールを上手く扱えるんです。

戦術は戦術で掘り下げる。身体動作に加えてテクニックの部分も掘り下げる。スペインでの経験、水戸での経験での学びは、身体の動きと、チームとしての完成度、戦術、テクニックの違いに気づけたことですね。

バルセロナは「至福の場所」と話す村松氏。夢は「スペインを倒すこと」

――スペインでの経験が今の村松さんの土台になっているのだと思います。改めてリーガ・エスパニョーラと村松さんの“繋がり”を振り返っていただけますか?

村松尚登 当時スペインに行こうと思ったきっかけは、画面で見るバルセロナのプレーが美的感覚として好きだな、かっこいいな、美しいなと思ったから。やってみたい・指導してみたいという理屈じゃなく、感情論としてバルセロナのサッカーが好きだったからです。

元々アヤックスが好きだったけど彼らは日本人と違って身体が大きい。日本人みたいに小さい選手がたくさんいるバルセロナが表現していたサッカーに憧れというか、共感できる部分が多々あった。柔よく剛を制すじゃないけど、そういう感じで表現していることに、美しいな好きだなというのがあった。

それは今も変わらず。あとは多くの日本人がリーガ・エスパニョーラにしろバルセロナにしろそれを好きと思うのは、バルセロナがプレーで表現する美的感覚に日本人の多くが共鳴するからだと思う。

身体が小さいということもあるし、個人プレーだけじゃないチームプレーがベースとなっているし、攻撃的だし献身的だし謙虚だし。選手の言動とかもトータルな面で日本人の美的感覚とすごいリンクする、フィーリングの合うプレースタイルなのかな。

だからこそ、日本人として表現するのもあのサッカーというのは一つの雛形としてありなのかなと思う。単純に試合内容だけでなく、日本人の特徴を踏まえるとより良い試合結果を出すための手段として、あのサッカーというのは多いに参考にする価値がある。

――実際にバルセロナスクールで働いた経験や、現在日本で指導する中で、そういったビジョンの実現が可能だと感じられているわけですね。

村松尚登 きちんと育成年代で表現するには、スペインで学んだメソッドだけでは足りないということをリアルに感じている。でも、そこに日本っぽさを加えて、憧れとしてはバルセロナっぽいサッカーにしていきたいなと。そこにたどり着くプロセス、アプローチの仕方、メソッドは、足りない部分があるけど、それは日本にもヒントがたくさん落ちている。それがうまく噛み合えば、バルセロナの指導者が参考になるものになるのかな。

――日本がスペインやバルセロナを超える日も来ると。

村松尚登 日本人の方が指導者だけじゃないけど、長いスパンで農耕民族的にコツコツとどうにかしてあげようという気持ちがあるし、繊細なところを掘り下げてどうにかしようとする感覚がある。身体動作の部分でも上手く色々な人が掘り下げているし、そういった細部にこだわる価値観は、スペインにはない美的感覚。スペインは狩猟民族として良いものを取ってくる方が大きい。全体的には磨くけど個人的には日本の方が磨けているのかなって思っています。

――スペインに行って幸せでしたか?

村松尚登 機会があればまた帰りたいよね(笑)。長くいられたことも幸せだったし、サッカー文化がそこにはあって、窓を開けてカンプ・ノウが見えるところに住んでいたことも幸せだった。サッカーに携わる者としてはきっと至福の場所だと思う。

――今後の夢は?

村松尚登 日本人としては日本の指導にこだわりを持ちたいし、日本人としてのこだわりを持ちたい。日本人の身体動作を掘り下げる価値意識には、世界を驚かせるヒントが十分隠されている。そしていつか、スペインやバルセロナに勝ちたいですね。

――ありがとうございました!

村松尚登(むらまつ・なおと)

大学卒業後単身スペインに渡り、街クラブで指導しながら、バルセロナのスクールコーチに就任。その時戦術的ピリオダイゼーションに出会い衝撃を受け、それをコーチとして活かす決意をする。その後、バルセロナスクール福岡校の立ち上げに携わるため、日本に帰国。2012年、水戸のジュニアユースのコーチに就任。2015シーズンは同チームのスクールを担当。

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