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70%増で3年約1兆円…青天井のプレミア放映権は「道徳的破綻」か

2015.02.28

試合後、選手の表情をピッチでおさえるカメラマン [写真]=Getty Images

文=藤井重隆

「プレミアリーグはもはやスポーツではない」

 そう述べるのはイギリス紙『デイリーメール』のジェフ・パウエル氏だ。同氏はこう続ける。

「1試合で1000万ポンド(約18億4000万円)の放映料を獲得する同リーグは道徳的に破綻している」

 Jリーグ創設時の日本もそうだったように、どの国のファンも世界の一流選手のプレーを見たいというのが大前提としてあるが、プレミアリーグのそれは新境地に達しているようだ。2016年から3シーズンで51億3600万ポンド(約9500億円)という放映額は現契約から70%増加することになる。『デイリーメール』によると国外の放映収入や広告収入などを合わせると、同期間の年間収益は29億3300万ポンド(推定約5426億円)にも上る見込みであるとされる。

 パウエル氏が「道徳破綻」とまで言うのは、この放映料高騰で恩恵を受けるのが配当金をリーグから受け取るプレミアリーグの20クラブ、選手含むクラブの首脳陣、選手の代理人らであり、逆に直接的打撃を受けるのが、比例して高騰するチケットや視聴料を支払う消費者側のファンであるからだ。一般の地元ファンはスタジアム入場がより困難となり、観光客や富裕層が観客席を埋めることになる。

『スカイスポーツ』が年間126試合、『BTスポーツ』が年間42試合を放映することが決まり、2016年からは新たに金曜にも試合が行われることとなり、月曜の試合数も増加する。

 これを受けて『スカイスポーツ』の解説者でイングランド代表コーチを兼任するギャリー・ネヴィル氏は自身のツイッターで「私はこの放映契約により、チケット価格が見直されること、草の根レベルのサッカー界が恩恵を受けることを願っている。これは大きな問題だ」と語った。

 プレミアリーグが創設された1992年からこれまでの年間放映収益は当時のレート計算で下記のようになっている。

1992年~97年:5070万ポンド(約124億円=1ポンド245円)
1997年~01年:2億1200万ポンド(約498億円=1ポンド235円)
2001年~04年:5億2000万ポンド(約962億円=1ポンド185円)
2004年~07年:4億8500万ポンド(約970億円=1ポンド200円)
2007年~10年:8億4300万ポンド(約2023億円=1ポンド240円)
2010年~13年:11億2700万ポンド(約1521億円=1ポンド135円)
2013年~16年:19億6600万ポンド(約2949億円=1ポンド150円)
2016年~19年:29億3300万ポンド(推定約5426億円=1ポンド185円)

 一方、1992年からのプレミアリーグの年間平均給与(チーム関係者すべてを含む)は以下のように高騰している。

1992年:12万ポンド(約2940万円)
1997年:26万ポンド(約6110万円)
2001年:68万ポンド(約1億2580万円)
2004年:98万ポンド(約1億9600万円)
2007年:117万ポンド(約2億8080万円)
2010年:174万ポンド(約2億3490万円)
2013年:215万ポンド(約3億2250万円)
2015年:270万ポンド(約4億9950万円)

 この平均給与は2020年には500万ポンド(推定約9億2500万円)に達すると予測されており、プレミアリーグはさらなる高騰を続ける見込みだ。

 UEFA(欧州サッカー連盟)のリーグランキングでは、スペインのラ・リーガに次ぐ二番目に位置するものの、世界中で約10億人以上に視聴されているプレミアリーグ。その視聴者数は全世界のスポーツリーグにおいて最大を記録しており、日本企業のトップ100に入る額の売上高でも2位ドイツのブンデスリーガを大きく引き離している。

 ドイツではプレミアリーグの放映料高騰を受けて、ブンデスリーガのクリスティアン・ザイファート代表取締役が「我々もファンが好まない選択肢を考えねばならなくなるかも…」と発言したことで、バイエルンのサポーターが「ここはプレミアリーグじゃない。イギリス式にノーを」と書かれた横断幕を掲げて抗議したばかり。ブンデスリーガの現在の契約は2017年夏に更新される予定になっているが、ドイツもプレミアリーグに倣うことになれば、欧州サッカー界は高騰の一途を辿り、さらなる新境地に達することになりそうだ。

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