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【ユーヴェ目線のCL決勝展望】アッレグリ体制3年目、抜群の完成度を誇るチームに隙は見当たらない

2017.06.02

ユヴェントスは通算3回目の欧州制覇を目指す [写真]=Getty Images

 ユヴェントス視点で展望するなら、今回ばかりは、勝てる気“しか”しない。

 バルセロナと対戦した2年前のチャンピオンズリーグ決勝は、むしろ負ける気しかしなかった。当時のジャンルイジ・ブッフォンは“まだ”37歳。ジョルジョ・キエッリーニは欠場したものの、最終ラインにはレオナルド・ボヌッチとアンドレア・バルザーリもいた。司令塔は“あの”アンドレア・ピルロだ。その脇にはポール・ポグバとアルトゥーロ・ビダルがいて、カルロス・テベスが最前線で10番を背負った。それでも、バルセロナを目の前にしてはほんの少しの勝機さえ見いだすことができなかった。

 あれから2年。ユヴェントスは再び欧州頂上決戦に駒を進めたが、今シーズンのチームにはピルロもポグバもビダルもテベスもいない。それでも、負ける気がしない。なぜなら、アッレグリ体制で3年目を迎えたチームの完成度が、あの頃と比較して飛躍的に向上しているからである。

 特効薬は、アッレグリのひらめきにあった。

 1トップにゴンサロ・イグアイン、2列目の左にマリオ・マンジュキッチ、右にフアン・クアドラード、トップ下にパウロ・ディバラを置く「4-2-3-1」はそれまでの停滞感を打ち破る会心の一手となり、ユヴェントスは圧倒的な強さをもって国内2冠を達成した。チャンピオンズリーグではバルセロナを圧倒し、モナコを慎重に退けてファイナルへと駒を進めた。

マンジュキッチの献身性がチームに一体感を生み、戦術の進化をもたらした [写真]=Getty Images

 最大の功労者はマンジュキッチだ。それまで“生粋のストライカー”だったはずの彼は左サイドを主戦場とするチャンスメーカーの任を受け入れ、ピッチ内では誰よりも献身的に走り、ゴール前ではチームのための選択に徹した。その姿勢はチーム内の隅々まで派生し、イグアインやクアドラード、ディバラの中に残っていた独善性を完全に消した。

 攻撃陣の献身性と一体感は、かねてからの武器である守備の一層の強化を促した。攻撃時の「4-2-3-1」は守備時のみ「4-4-2」に変形。人と人の間にできる四角形に相手を追い込み、巧みに“ハメ”てボールを奪う。ガムシャラに追わない省エネスタイルのグループ戦術は、個々の献身性によって成り立っている。

 シーズン開幕当初、攻撃面では遅攻なら右サイドに流れるディバラのキープ力、速攻なら後方から飛び込むサミ・ケディラの機動力が生命線だったが、ここにきてバリエーションも増えつつある。不動の左サイドバック、アレックス・サンドロの攻撃面でのポテンシャルを一気に引き出したのは、タッチライン際で見せるマンジュキッチのポストワーク。右はサイドバックにバルザーリを起用し、中盤にクアドラード、ダニエウ・アウヴェス、ステファン・リヒトシュタイナーという3つの選択肢をちらつかせる。

 特に右サイドの充実ぶりは特筆に値する。ケガでシーズン前半戦の大半を棒に振ったD・アウヴェスには体力面の不安がなく、ここにきて絶好調。右サイドに流れるディバラとのコンビネーションは抜群で、中へ、外へ、縦へと自由に動いて攻撃の変調を促す。クアドラードの武器は縦への突破力。攻守のバランス感覚ならリヒトシュタイナー。アッレグリは見事な手綱さばきでそれぞれのモチベーションをコントロールし、相手や試合の状況に応じて3つの選択肢を使い分けてきた。

 4-2-3-1システムで手にした結果と自信は、3バックシステムにもポジティブな影響をもたらした。バルザーリをスタメンに組み込めば、最終ラインの「4」と「3」を自由に行き来できる。そうしてアッレグリは完成度の高い2つのシステムを手に入れた。

 レアル・マドリードがイスコをスタメン起用する4-4-2を採用するなら、ユヴェントスは3バックで臨むだろう。ギャレス・ベイルが3トップの一角を担う4-3-3なら、バルザーリを右サイドに置く4バックが濃厚だ。攻撃面での強化が必要なら、D・アウヴェスを最終ラインに下げてクアドラードを入れればいい。レアル・マドリードがどんなメンバーを選択しても、チームは即座にシフトチェンジすることができる。

2年前の決勝でバルセロナに屈したユーヴェだが、今回のチームは完成度が飛躍的に高まっており、96年以来のビッグイヤー獲得の期待が高まる [写真]=Getty Images

 不安を挙げるならイスコの存在にある。ユヴェントスの“囲い込む守備”はキープ力がある上に球離れが良く、フリーランニングを得意とする選手に弱い。セリエAではナポリのドリース・メルテンス、アタランタのアレハンドロ・ゴメスの2人に手を焼いた。彼らと同様、イスコには急所に飛び込むポジショニングセンスと駆け引きの妙がある。怖いのはストライカー仕様のクリスティアーノ・ロナウドではなく、ボヌッチやキエッリーニの強靭なメンタリティーに揺さぶりをかけるイスコの頭脳だ。

 先制点が試合の流れを左右することは間違いないが、両指揮官は120分の総力戦を見越したプランを思い描いてこの試合に臨むだろう。1995-96シーズンの欧州制覇以来、ユヴェントスは4度決勝の舞台に立ち、いずれもビッグイヤーを掲げることはできなかった。クラブの一員としてそのうち2度を経験しているのは、39歳になった守護神ブッフォンと今は副会長を務めるパヴェル・ネドヴェドである。ジネディーヌ・ジダンに勝って涙するブッフォンとネドヴェドの姿を見ることができれば、オールドファンにとってそれ以上の喜びはない。

文=細江克弥

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