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【アジア最前線:タイ #7】首都をラッピング列車が走る光景は、「アジア戦略」の成果の現れ

2020.12.31

[写真]=J.LEAGUE

J1全クラブの選手が描かれたバンコクの高架鉄道

 11月7日から12月20日にかけて、連日、バンコクの街をJリーグのラッピング列車が走行した。Jリーグが推進する「アジア戦略」の一環として、タイの首都を走る主要交通機関であるバンコク・スカイトレイン(BTS)の車体に「2020明治安田生命Jリーグ」のプロモーション仕様のデザインが施されたのだ。

 車体には「Global Icons, Local Heroes, This is J.LEAGUE.」というプロモーションコンセプトに沿って選出されたJ1リーグ全18クラブの選手が描かれている。チャナティップ、カウィン(北海道コンサドーレ札幌)、ティーラトン(横浜F・マリノス)、ティーラシン・デーンダー(清水エスパルス)という2020年のJ1リーグでプレーしたタイ人選手をはじめ、イニエスタ(ヴィッセル神戸)、オルンガ(柏レイソル)、中村俊輔(横浜FC)など他のクラブからも1名ずつが選出されている。

 通常、BTSの車体はタイ国旗を連想させる白、赤、青の3色でデザインされているが、この期間はJリーガーたちが4両編成の車両全体をカラフルに彩った。1999年の開業以来、運行区間の拡張を続けてバンコクの郊外まで伸びる路線となっているBTS。タイの急速な発展を象徴する存在でもある高架鉄道の様変わりしたボディは、バンコクの人たちにかなりのインパクトを与えたに違いない。

 車両にはJリーガーたちの姿とともにタイ語で「アジアNo.1のリーグを見よう」というキャッチコピーが添えられ、現在タイにおけるJリーグ放映権を持つ「SIAM SPORT」と「MCOT」の宣伝もされている。実際、チャナティップやティーラトンをはじめとするタイ人Jリーガーたちの活躍によってタイでのJリーグ視聴率は急上昇中で、徐々にJリーグそのものへの関心も高まってきている。BTSのラッピング列車は、そんな追い風をさらに加速させるための大々的なプロモーションとなった。

タイは「アジア戦略」の重要なパートナー

 Jリーグが実施している調査によれば、Jリーグに関心のあるタイ人の割合は「アジア戦略」がスタートした直後の2013年には19パーセントほどだった。それが2020年12月の最新の調査では57パーセントまで上昇しており、半数以上のタイ人がJリーグに関心を持っている状況だ。東南アジアで圧倒的な人気を誇るプレミアリーグと自国のタイリーグは別格だが、Jリーグへの関心度は今やセリエAやリーグ・アンを上回り、ラ・リーガやブンデスリーガにも迫る勢いとなっている。

 筆者は2011年、Jリーグの「アジア戦略」がスタートする前年にタイに移住した。当時はまだタイリーグが本格的なプロリーグとしては黎明期にあったため、タイのサッカーファンの関心はほぼプレミアリーグ一色。タイ人に好きなサッカーチームを問えば、100パーセントに近い確率でリヴァプールやマンチェスター・ユナイテッドをはじめとするプレミアリーグのクラブ名が返ってくる時代だった。かなりマニアックなファンでなければ、Jリーグのクラブ名を簡単に挙げることはできなかった。

 タイという国には一般に「親日」のイメージがあると思うが、実際、日本に対して好意的な印象を持ってくれている人が多いのは事実。サッカーにおいてもJリーグの誕生によって劇的な成長を遂げた日本を手本とする意識があり、ワールドカップ本大会になれば当たり前のように日本代表に声援を送ってくれる。そんな国柄でありながら、これまでJリーグが十分に認知されていなかったのは、単純にプロモーション不足の面もあっただろう。

 近年は札幌や横浜FMなどタイ人選手が活躍するチームを中心に、Jリーグクラブのユニフォームを着るタイ人の姿を目にする機会が増えた。「Jリーグへの関心度57パーセント」という調査結果を実感する現象だ。年間100万人を超える観光客が日本を訪れる水準まで成長した経済力、足元の技術に優れた好選手を輩出し続けられる土壌、そして高い親日度。Jリーグが積極的なアプローチを続ければ、タイはこの先も「アジア戦略」の重要なパートナーであり続けるはずだ。

文=本多辰成

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