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【アジア最前線:タイ #4】群雄割拠の時代が到来…近年のタイリーグをリードしてきたのは?

2020.09.30

選手に話しかけるブリーラム・ユナイテッドの“ワンマンオーナー”ネーウィン氏 [写真]=Getty Images

100を超えるクラブが存在するタイリーグ

 チャナティップをはじめとするタイ人選手たちがJリーグで活躍し、タイ代表もアジアの上位争いに顔を出すことが増えてきた。近年、アジアのサッカー界における存在感を確実に高めているタイの躍進は、この10年でプロリーグとして一気に成熟した国内リーグに支えられている。

 現在のタイリーグの原型となったのは、1996年に18チームが参加して開幕した「タイランド・サッカーリーグ」だ。その後、チーム数やリーグの名称を変えながら、2007年に地方クラブのリーグだったプロヴィンシャルリーグを吸収する形で全国規模のリーグが誕生。これが本格的なプロリーグとしてのスタートとなった。

 プロリーグとして歩み始めた当初は「タイプレミアリーグ」と呼ばれ、2010年代に入ると日本人選手も増加。その頃になると、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でブリーラム・ユナイテッドが存在感を示し始め、日本にもタイサッカーの変化が徐々に伝わるようになっていった。

 2016年からは「タイリーグ」と改称し、T1からT4までの4部リーグ制が確立した。そして今シーズン、新型コロナウイルスの感染拡大による長期中断期間中にリーグの再編成が敢行され、T3とT4が統合される形でT1からT3までの3部制となった。秋春制へと移行された2020-21シーズンのリーグ構成は、T1が16チーム、T2が18チーム、T3が6地区計72チーム。タイリーグは現在、合わせて106ものクラブが参戦する大規模なリーグとなっている。

「ワンマンクラブ」と「大企業のクラブ」が混在

 タイリーグに100以上のクラブが存在するという事実に驚く人も多いだろう。タイには77の県があり、ほとんどの県がプロクラブを有している。その意味では、Jリーグが掲げる「百年構想」を一足先に実現しているとも言える。

 とはいえ、もちろんすべてのクラブで健全な経営が行われているわけではない。多くのクラブの実情は、政治家や実業家、大学の学長などといったその地の有力者がチームを所有し、半ばオーナーのポケットマネーによって成り立っている。リーグが発展を遂げる過程で、サッカークラブを所有することが一つのステータスとなり、ワンマンオーナーたちが強い存在感を放つタイ特有のサッカー文化が形成されていった。

 この10年のタイリーグを引っ張ってきたブリーラム・ユナイテッドは、ワンマンオーナーが存在感を見せるクラブの典型でもある。2009年、ブリーラム県出身の大物政治家であるネーウィン・チッチョープ氏が、当時、アユタヤ県に本拠を置いていたPEA FC(タイ電力公社FC)を買収。ホームを地元のブリーラム県に移し、私財を投じてタイ屈指の強豪クラブを築き上げた。

 ブリーラム・ユナイテッドはタイリーグの発展に大きな役割を果たしたが、ネーウィン氏による「ワンマンスタイル」がタイ特有のサッカー文化の形成に大きな影響を与えたことも否めない。

 一方で、ブリーラム・ユナイテッドとともに近年のタイリーグをリードしてきたムアントン・ユナイテッドは、タイの大手メディア「サイアムスポーツ」が経営権を握る。トップクラブの中にはほかにも大企業がバックアップするクラブがいくつかあり、タイの大手通信事業者である「トゥルー・コーポレーション」がオーナーを務めるバンコク・ユナイテッド、「シンハービール」で有名な「ブンロート・ブリュワリー社」が母体となるBGパトゥム・ユナイテッドなどがその代表だ。

 これら大企業がバックアップするクラブに加えて、「ワンマンスタイル」の系譜に連なるポートFCやチェンライ・ユナイテッドといったクラブも、近年は潤沢な資金力でチーム強化を進めている。その結果、ブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドによる「2強時代」は幕を閉じ、複数のクラブがタイトルを狙える群雄割拠の時代が到来した。

 大きな躍進を遂げた2010年代を経て、タイリーグは次の10年でどんな進化を見せてくれるだろうか。

文=本多辰成

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