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“アジア2位”の悔しさを胸に…吉田麻也が追い求める長谷部誠とは異なるキャプテン像

2019.02.04

ロシアW杯後、最大の目標に掲げてきたアジア王者を逃した [写真]=Getty Images

 序盤から思わぬ方向へと進んでいった。8年ぶり5度目のアジア王者の座を賭けた大一番。日本代表は1日、AFCアジアカップUAE2019・決勝戦でカタール代表と対戦した。試合間隔が中3日と相手より休養日が1日長い上に、スタメン全員が海外リーグを経験している日本が優位と目される中始まったゲームだったのだが……。

 カタールが採ってきた5-3-2の布陣とミスマッチが起き、前線からのプレスがはまらない。後手に回った開始12分、カタールのエースFWアルモエズ・アリに華麗なバイシクル弾を決められ先制を許した。15分後の27分にはアブデルアジズ・ハティムのミドルシュートが決まって、2点目を奪われた。

 キャプテンマークを巻いて初の国際大会に臨んだ吉田麻也はこの2失点に直接的に絡んでしまった。1失点目はアリがシュートを放った瞬間に体を寄せることができず、2失点目もハティムへのマークが甘くなった。

「19番(アリ)とうまく入れ替わりながらボランチの脇に来る11番(アクラム・アフィフ)を誰がつかむのか。そこで1点目も2点目も起点を作られたし、臨機応変さが足りなかった。前節のイラン戦ですごくいいパフォーマンスを出してこの試合に臨んで、『この流れで行けるだろう』っていう油断や隙みたいなものを僕自身がチームの中で少し感じていたにも関わらず、律することができなくて、勝ちに導くことができなかった。自分自身がすごい不甲斐ないです」と吉田は肩を落とした。

 さらに後半には自らのハンドでPKを献上。3点目を失った。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による判定であったため、やむを得ない部分があるにせよ、新生ジャパンのリーダーたる男が全3失点に絡んだことは悔しさばかりが残っているはずだ。

再び突き付けられた大きな課題

前半から相手の攻撃に対応できず、後手に回る展開に [写真]=Getty Images


 約半年前のロシア・ワールドカップを最後に、8年間キャプテンを務めた長谷部誠が代表を引退。当時から吉田はこのアジアカップにフォーカスしてきた。

「『勝って当たり前』という期待やプレッシャーの中で戦うときの日本はあまり力を発揮できないと感じている。前回のアジアカップもブラジルW杯も期待されてる中でコケて、ベルギー戦も予選リーグがよくて『行けるんじゃないか?』というところでコケた。ハングリーさを出せるのは日本人のいいところだろうけど、強いチームは期待されてる中で結果を出す。僕たちが次に克服しなきゃいけないのは精神的強さかなと思います」と自戒の念を口にするとともに、アジア王者奪還に向けて集中力を高めてきた。

 プレミアリーグの過密日程の影響で合流がギリギリになったこともあり、大会序盤は暑さ対策が不十分でミスも目立った。それでも、決勝トーナメントに入ってからは復調し、持ち前の冷静さで無失点勝利に貢献。20歳の冨安健洋との連携にも磨きがかかっていった。

 準決勝・イラン戦で披露した圧巻のパフォーマンスを継続できれば、決勝戦でもカタール攻撃陣を完封できるはずだった。しかし、相手の勢いと迫力は吉田の想像をはるかに上回り、チームを落ち着かせることができなかった。吉田自身が指摘した日本が抱えるメンタル面の問題をクリアできなかったことは、新キャプテンに突き付けられた大きな課題と言えるのではないか。

チームとともに成長し、影響力あるリーダーに

優勝を逃し肩を落としたが、チームも吉田もさらなる成長を目指す [写真]=Getty Images


 想定外の混乱に陥ったとき、長谷部ならどうしていただろう……。かつては合宿で集合時間に遅刻してきた若手に容赦なく苦言を呈したリ、選手をミーティング漬けにしたヴァイッド・ハリルホジッチ監督に改善を要求するなど、前任者は状況を見ながら大胆行動に打って出てきた。川島永嗣も「マコ(長谷部)はピッチ内外で厳しい男。ああいうキャプテンはなかなかいない」と話していた。長谷部ならチームが上手くいかない状況を見兼ねて、より激しく周りを叱咤激励していたかもしれない。

 一方、今大会の吉田はそこまで強引なアプローチは控えていたように映った。「若い選手たちを後押ししながら、いい雰囲気を作ろう」と考え、調和や統一感を重んじたのではないだろうか。そうした考えがプラスに働いた部分も少なくなかったが、カタール戦のような修羅場を潜り抜けるためには、前任者のような強引さを見せてもよかったかもしれない。ロシアW杯後に「自分はどうあがいても長谷部誠にはなれない」と何度か語っているが、キャプテンには時として厳しさが求められる。「自分の未熟さをすごく悔いている」と口にしたのも、そんな後悔からだろう。

 だが、吉田には過去の代表キャプテンたちを凌ぐ国際感覚とインテリジェンス、コミュニケーション力、人間性がある。カタール戦前日会見でフェアプレーの重要性を英語で話し、各国メディアから拍手喝采を受けた。森保一監督就任後、新体制初のタイトルを逃したが、チームはまだまだ発展途上だ。吉田もキャプテンとしてチームとともに成長していけば、より影響力のあるリーダーになれる。そこは前任者の長谷部も太鼓判を押している点だ。

 理想像に近付くためにも、まずはあの3失点をしっかり分析し、失敗を繰り返さないことが肝心だ。ピッチ上のパフォーマンスが安定していれば、チームを統率する仕事にも余裕が生まれる。センターバックは1つのミスが致命傷になりかねない。失点の危険性を未然に防ぎながらチームをまとめることは容易ではないが、吉田ならきっと困難を乗り越えていけるに違いない。

 今大会で急成長した冨安の一挙手一投足を目の当たりにして、センターバックとしての危機感も強まったはず。それもいい刺激にして、最高のキャプテン像を貪欲に追い求めてもらいたい。森保ジャパンがさらなる高みへ上り詰めることはできるのか。それはこの男の今後にかかっていると言っても過言ではない。

文=元川悦子

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