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【コラム】香川真司の挑戦は続く…W杯モードから一転、ドルトムントで新たな戦いへ

2018.07.31

ドルトムントでの新シーズンに臨む香川真司 [写真]=Getty Images

「監督が誰であろうと、新しい監督であろうと、自分にとってはすごく意味のあること。新たな経験や刺激を受けられると思うので、貪欲にやっていきたい。この年齢なので責任も感じながら、もうちょっと高い意識を持ってやっていきたいと思います」

 自身通算7年目となるドルトムントでの新シーズンに挑むべく、香川真司は意気込み新たにドイツへ戻った。かつてボルシアMGで成功を収めたルシアン・ファブレ新監督体制で始動しているチームはアメリカツアーから帰国したばかり。8月1日からはスイスのバートラガーツで8日間の合宿に突入する。香川もここから本格合流するが、まずは新指揮官の信頼を掴むところからスタートしなければいけない。

 ボルシアMG時代の教え子であるマルコ・ロイスやマフムド・ダフードらはファブレ監督の考え方や戦術を熟知しているだろうが、香川にとってはこれが初めて。本人は前述の通り、全てを前向きに捉えているが、ユルゲン・クロップ監督以降のトーマス・トゥヘル監督、ピーター・ボス監督、ペーター・シュテーガー監督と3人の指揮官の扱いを見ても、評価されたりされなかったりが続いた。ファブレ監督は香川がドイツで最も得点を奪っていた11-12シーズンにボルシアダービーの相手指揮官として戦った経験があり、どんな特徴を持つタレントかはよく理解しているはずだが、今シーズンの起用方法はまだ見えてこない。

 中盤がボックス型の4-4-2をベースにしたボルシアMG時代と同じなら、香川にとって最適なトップ下のポジションがなくなってしまう。これまでも4-3-3のインサイドハーフやサイドなどでプレーする機会はあったものの、やはりロシアワールドカップでもそうだったように香川はトップ下でプレーした時が一番輝く。その役割を任せてもらえるか否か。まずはそこが一つの見どころになるだろう。

香川真司

ロシアW杯ではトップ下で躍動 [写真]=Getty Images

 こうした不確定要素は多々あるが、今の香川はこれまでと違う。本大会直前に日本代表落選危機に瀕し、崖っぷちに追い込まれながら、メンタル的に開き直って成功を掴んだ。その経験が大きな自信となり、何事もポジティブに捉えられる状態になっているのだ。もともとメンタル面が一番の課題と言われた香川が強靭な精神力を手に入れたのだから、もう怖いものはない。オーストリアでの直前合宿あたりから彼は笑顔を見せることが多くなり、ピッチに立っても焦りや苦しさをにじませることがなくなった。そのいい状態を今シーズンのドルトムントでも維持できれば、新指揮官は必ず信頼を寄せるはず。自らアクションを起こし、そういった方向に監督の心理を導くことが、29歳とベテランの領域に入りつつある香川に強く求められることなのだ。

「とことん自分自身と向き合い、自分のプレースタイルと向き合ってトライしていきたい。僕は攻撃の選手ですけど、どれだけリスクを冒してやり続けられるか。その原点に返ってもう1回やっていきたいと思います」と本人も語気を強めている。それは決勝トーナメント1回戦のベルギー戦で対峙したエデン・アザール(チェルシー)から痛感させられたこと。大会MVPの呼び声も高かったアザールは敵が目の前に何人いても自身の武器であるドリブルで突破を挑み、実際に数多くの決定機を作っていた。

「アザールはボールを持つたびに仕掛けていたし、そういう姿勢を常に持ち続けてトライし続けないと成長しない。日本人はそういうところでどうしてもバランスを取る。『チームのために』という言葉が前に出ますけど、結局は個の力を自分自身が信じて出し切れるか。僕はもっともっとトライしていかないといけないですし、それは今回痛感したこと。ネイマール(パリ・サンジェルマン)もそうですけど、最後まで自分の力を出し切るメンタリティを身に付けることが本当に大事ですね」とベルギーに悔しい逆転負けを喫した後もしみじみと語っていた。

 その気持ちを忘れることなく、「自分を出す」という原点に戻ってドルトムントでプレーし続けることができれば、トルコ移籍という話にはならないだろう。トルコの名門・ガラタサライやベシクタシュが香川に強い関心を抱いているという報道は連日のように出ているが、本人はドルトムントでの成功を何よりも強く描いている。欧州でキャリアをスタートさせた8年前のような強いドルトムントを取り戻すことこそ彼の望みだ。

香川真司

21歳の若さでドルトムントに入団 [写真]=Getty Images

 当時はまだ21歳の若手選手で年長者についていけば良かったが、今は立場が全く違う。昨シーズン限りで37歳のローマン・ヴァイデンフェラーが現役を引退。30代のゴンサロ・カストロがシュトゥットガルトへ、ソクラティス・パパスタソプーロスがアーセナルへ移籍した今シーズン、30歳も近くなってきた香川に課せられる役割は多い。自分の武器を磨き、名門再建のリーダーになること。それができれば、彼のキャリアもさらに華やかなものになる。ロシアの地でワンランク成長した香川ならば、そういった成功街道を突き進めるはずだ。

 8月27日の18-19シーズン開幕節、ライプツィヒ戦まであと約1カ月。まずは新体制のドルトムントで自らの地位を確立させるべく、持てる力の全てを注いでほしい。日本のファンタジスタの新たな一歩が楽しみである。

文=元川悦子

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