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【コラム】森保氏がA代表監督に就任、五輪監督兼任の「メリット」「デメリット」を考える

2018.07.27

就任会見では「覚悟と感謝の気持ちを持って職責を全うしたい」と意気込みを語った [写真]=Getty Images

 7月26日、森保一氏の日本代表監督就任が発表された。重要なのは単なる日本代表(以下、A代表)監督ではなく、「東京五輪代表」との兼任監督であるという点だ。五輪がU-23の大会になった1992年のバルセロナ五輪以降、日本がこの施策を採用したのは2000年のシドニー五輪におけるフィリップ・トルシエ監督が唯一無二。中南米諸国など各国で例のあることとはいえ、挑戦的な試みであることは間違いない。

「なぜ兼任監督なのか?」という根本的な問題を論じるためにも、この試みのメリット・デメリットを整理してみたい。

 メリットとして第一に挙げられるのは、東京五輪に向けた「スムーズな選手選考」である。田嶋幸三会長が「これまでは2つの代表で選手の取り合いもあった」と振り返ったように、過去の五輪代表ではA代表との兼ね合いから呼びたい選手を呼べない、あるいはその逆にA代表監督が招集を希望する選手が五輪代表の日程優先で呼べなくなるという事態が起きがちだった。特にこの影響が顕著に出るのがオーバーエイジ選手の人選で、2年前のリオ五輪では「W杯予選にエントリー予定のないJリーガー」というかなり狭い幅の人選を強いられることになった。

 当然ながら、A代表監督がA代表の利益を最優先するのは普通のこと。ただ、東京五輪で結果を出すことを意識するなら、A代表監督と五輪代表監督を同一にすることで、選手選考の利益相反を解消しておくのは分かりやすいやり方だ。日本サッカー協会はこの大会について「男女で金メダル」というマックスの目標を掲げているが、現実的にも「メダル」は十分に狙える大会である。国内のサッカー人気に点火して、サッカー少年少女を増やしていくという長期的視点からも、やはり結果の欲しい大会には違いない。そしてこれは「地元開催でボロ負けでもしようものなら……」という恐怖感の裏返しでもある。過去の五輪のデータを観ても、メダル獲得国はオーバーエイジ枠を活用していた国ばかりで、結果が欲しいならオーバーエイジ選手の活用は必須である。

 そもそも「東京五輪はオーバーエイジ枠を使いやすい」という点もある。従来の五輪は予選突破を果たし、そこからオーバーエイジの人選と、それに伴う対外的交渉と対内的調整に入るという流れだったのだが、今回は開催国なので予選敗退のリスクはゼロ。オーバーエイジ選手を組み込んだ前提で準備を進めていくことが可能だ。兼任監督にすることで、A代表の国際Aマッチを実質的な五輪に向けた準備機会、オーバーエイジ選手の選考の場として活用することもできる。

「世代を超えたシームレスなチーム作り」が可能になる点もメリットとして挙げられる。監督が違えば選ばれる選手も違ってくるのはサッカーの世界で普通のことだが、これは「五輪→A代表」というつながりを弱める側面もある。戦術的にも五輪代表とA代表に大きな差違が出てくるケースもあるが、兼任監督ならばこうした心配はない。共通のサッカー観、戦術の下でプレーしているので、五輪代表の選手がA代表へ引き上げられても違和感なくプレーできるし、逆にA代表の選手をオーバーエイジで起用したときに戦術理解で不安があるということはなくなる。ベテラン中心だったロシアW杯を経て世代交代、世代融合を図っていく必要がある状況下を考えても、五輪代表とA代表の垣根が低くなるのは明確な利点だろう。

 もう一つ無視できない3つ目のメリットは、「監督とスタッフの経験値向上」だ。地元開催の五輪という大きなプレッシャーを受ける舞台を経験することは、W杯に向けたシミュレーションとして格好の機会になる。またオーバーエイジ選手を含めた選手たちと監督が「修羅場」を共有することで生まれる連帯感も、大きな武器になる可能性がある。

 一方、デメリットも当然ある。裏返して考えると、3つ目のメリットは東京五輪で失敗してしまったケースにおいて、そのままデメリットとなる。監督としての求心力低下を招きかねず、契約を打ち切るにしても「A代表の結果以外でA代表を解任する」という少し奇妙な事態になりかねない。

 そうしたリスクを考えないにしても、単純にスケジュール面での負担が大きい。A代表も五輪代表も、その強化活動は国際Aマッチウィークを利用して行うことになるだろうし、スケジュールがバッティングしてくることは大いにあり得る。8月14日に始まるアジア競技大会には五輪代表で参加する予定だが、9月7日にはA代表が新体制で臨む最初の国際Aマッチが組まれている。本来であれば、大事な初戦へ全力を傾注して準備したいところだが、それが難しくなるのは確実だ。来年1月にアジアカップが控えていることを思っても、これは簡単ではない。

 さらに東京五輪の直後からW杯予選も始まると思われるだけに、「五輪→A代表」の移行がどこまでスムーズに進むかは問題だ。これらのデメリットを緩和し、メリットを最大化していくためには、森保監督一人に丸投げするのではなく、サッカー観を共有した「分身」として選手選考・対戦相手の分析に当たれる人物をさらに登用するなど、サポート体制を充実していく必要があるだろう。

文=川端暁彦

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