2018.05.16

【インタビュー】酒井宏樹が語るマルセイユでの成長、W杯への想い、そして未来とは(前編)

酒井宏樹
海沿いのカフェでインタビューに応じてくれた酒井 [写真]=小川由紀子
パリを拠点に、フランスリーグを中心とした欧州サッカーやその他スポーツなど、幅広く取材・執筆活動中

 フランスのサッカーファンで、マルセイユのDFサカイを知らない人はいない。昨シーズンは入団初年度にして、フィールドプレーヤーでナンバーワンの出場時間を記録。2年目の今シーズンは、負傷者が多発した左サイドバックも任されるなど、リュディ・ガルシア監督から絶大な信頼を受け、酒井宏樹はフランスで最もプレッシャーが厳しいと言われるこのクラブで、たくましく“マルセイユ戦士”として成長を続けている。

 ロシア・ワールドカップ開幕を2カ月後に控えたこの日は、奇しくもヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任が発表された翌日だった。

 ちょっと複雑な思いを胸に約束の場所に現れた酒井は、このタイミングに戸惑いつつも、いつもながら誠実に、率直な思いを語ってくれた。(編集部注:インタビューは2018年4月10日に実施)

インタビュー・文=小川由紀子
写真=小川由紀子、ゲッティ イメージズ

マルセイユで気づいた「一対一」の本当の意味

――W杯のグループリーグで日本が対戦する相手は、サイドアタッカーが強いチームが多いです。日頃から速くて強いサイドアタッカーを相手にプレーしている酒井選手は自信があるのでは?
予測はしやすいですね。今でも自信はありませんけど。

――自信はないと言いつつも、マルセイユに入団する2年前と比べて手ごたえはあるのではないでしょうか。
少しずつ変わってきているのは自分でも感じます。移籍した当初はあっぷあっぷでしたし、常に全力で走っていないといけないという感じでやっていました。でも、今シーズンの途中から、プレーや走る速度をかなり下げてみたんです。もちろん判断は速く。

それによって、味方との距離感やFWとの関係がうまくいくようになりました。細かく「タタタタ」と運ぶより、「ポン、ポン、ポン」とやったほうが、(受け手にとって)出てくるタイミングが読みやすいようで、変えてみたら結構うまくいくようになったんです。特に守備の時は、連係も含めて、90分の中でかなり心の乱れがなくなってきました。どんなに悪い状況の中でも、落ち着いてプレーできるようになりましたね。

――2年目は周りとの連係も取れてきて、自分のプレーをよりコントロールできるようになってきたと。
そうですね。でも、もっとコントロールできるようになれば、右サイドが常に安定している状況に持ち込めると思う。チームに安心を与えられるといいですよね。

――監督との相性は選手にとってすごく大事だと思います。昨シーズンの途中からリュディ・ガルシア監督に代わったことは、酒井選手にとって大きかったのではないでしょうか。
すごく大きいですね。出会ったことのないサッカーをするガルシア監督はすごく新鮮でした。

――というと?
より細かいですし、常に考えさせてくれる人だと思いました。サッカーはボールを持っている時に自分のプレーをすればいいと思っていたんですが、ボールを持っていない時のほうが90パーセント大事で、残りの10パーセントはそのさらに前に勝負が決まっているんだということを知りました。ボールが(自分のところに)来た時にはもう勝負は決まっていて、その前の駆け引きに負けていれば、その後の一対一は地獄……。止められない一対一になってしまうんです。チャレンジできる一対一か、負けないための一対一をするのか、というのはまったく別のものですね。

――それはどこでボールを受けるかということですか?
守備でも攻撃でも、ボールをもらう場所を含めて準備が大事ですね。攻撃の時に良い状態でパスをもらえるということは、その前の予備動作が良かったということ。スペースをうまく使えていて、かつ味方とうまくスペースを共有しているという証拠です。逆に、守備で取り切れなかったという時は、その前の動作がうまくいっていなかったということ。一対一で抜かれるという状況は、その前ですでに一対一で抜かれる状況を作らせてしまっているんですよね。

ガルシア

マルセイユで指揮を執るガルシア監督

――ポジショニングや間合いがよくなったな、と見ていて感じるのは、そういう指導があったからなんですね。
間合いに関しては味方との連係ですね。僕が相手の近くにいられるのは、味方のプレッシャーや後ろからのカバーがあるからです。それがうまくいってないと間合いを開けざるを得なくなる。そうなってしまうと、ボールを持たれた時に前を向かせてしまうし、良い間合いで相手に仕掛けられてしまうので、うまく(相手からボールを)取れる確率は2、30パーセントになってしまう。だけど、自分がうまく間合いを取れている時は、7、80パーセントの確率でボールを自分のものにできるし、それをまた味方に提供できる。それはものすごく大きな違いだと思います。

――味方との連係で抜かれることがかなり減ったという点には、相当手応えがあるのでは?
そうですね。味方の選手も、守備の連係部分では信頼してくれています。(相手に)さぼってほしくないと思ったら、自分はさぼったら絶対にダメなんですよね。自分の姿勢を見せた上で、「さぼってほしくない」と言えば相手に通じると思っています。

――そういう意識を強く持てるようになったのも、ガルシア監督の指導の影響が大きいと感じますか?
そう思います。ハノーファー時代のカウンターを受ける時の自分の姿勢やポジショニングは、今見返したとしたら「ひどい!」と思います。だから、あえては見ないですけど!(笑) 多分、(いるべき位置が)全然違う。サッカーでは1メートルがすっごく大きな差なんですよ。でも当時は、3メートルくらいいるべき位置が違っていたと思います。そこに気づけたことはすごく大きかったですね。

最近よく使われる「デュエル」も、最初は一対一のことだけだと思っていたんです。直訳したら、「球際のせめぎ合い」という感じですから。でも、実際は「ボールを取り切る」という作業のことを表現していると思うんです。「一対一で勝負する」という感覚では、アフリカ系やフランスリーグのドリブルがうまい選手に対して絶対に勝てない。取り切る方法は何十通りもあって、その精度を高めることが大事だと気づきました。

――一対一の認識自体が違っていた?
そうです。今は一対一になる前から一対一だという意識です。実際に一対一になった状況では、もう負けています。

――確実に自分が有利に立てる場所で一対一になるように、手前のアクションから持っていくこということでしょうか?
はい。もちろん、それが失敗することもあります。人数が足りていると思って前に出たら、実は足りていなくて、危険な場面に陥るとか。でも、「何でこんな状況になったんだ」と原因がきちんと分かるから、次はもっと周りをしっかり見て、何人残っているというのをしっかり確認した上でポジションにつかないといけない、という修正ができるんですよね。

酒井宏樹

柏レイソルの下部組織で育った酒井(左)。2009年にトップチームに昇格した [写真]=Getty Images

――日本でプレーしていた時は、どちらかと言うと、豪快なオーバーラップやその後の精度の高いクロスなど、攻撃参加の部分で評価の高いサイドバックという印象でした。
攻撃的なサイドバックと言われていたのは柏レイソルの時だけですね。ドイツに行って、自分は特別なことを攻撃でできる選手ではないと分かりましたし、フランスに来てなおさらですね。モナコの(ジブリル)シディベや、チームメイトのブナ(サール)を見ていると、「こういう選手が攻撃的サイドバックなんだな」と思います。

――昨シーズンの終わりにガルシア監督に「ヒロキの課題は?」と聞くと、「ゴールだ」と即答され、「ディフェンダーなのに?」と驚きました。
それは捉え方であって、ゴールというよりは、ゴールに直結するプレーやゴールに絡む回数を増やしていけ、という意味なんだと思います。まあ、ゴールは決めたいですけどね(笑)。

――酒井選手のプレーは「入魂!」というか、いつも気持ちが入っていると感じます。
僕としては、まず自分が見せないと、自分の注文に応えてはくれないという思いがあるので。ましてや僕は、遠く彼方のアジアから来ているわけで、その選手が何もしていないのに偉そうなことだけを言っていても、それに相手が応えてくれるわけはないですしね。まずは自分が100パーセント以上のものをちゃんと提供した上で、70パーセントくらいのものをやってくれ、ということを彼らに求めるのはまったく問題ないと思う。彼らもしっかり聞いてくれるから、70パーセントでも応えてくれれば、あとは自分でやるっていうくらいのスタンスでやれれば、僕も全然ストレスにならない。

でも実際、マルセイユの選手たちはきちんと100パーセントで応えてくれるんです。僕がそういうキャラクターだというのを分かってくれるので、誰と組んでもちゃんとやってくれる。フロー(トーバン)も「守備は嫌い」と言っているけれど、彼は彼できちんとやってくれているのが分かります。

酒井宏樹

まずは自分が100パーセントを示すことが大事だと語る [写真]=Getty Images

――お話を聞いていると、このチームが大好きだということが伝わってきます。
好きですね。僕を拾ってくれたチームであり、成長させてくれたチームだと思っています。技術面が上がったとはまったく思っていないですけど、精神面や覚悟の部分で成長させてくれたチームです。

――覚悟とは?
プレッシャーに対する整え方ですね。このとんでもないプレッシャーに。

――やはり、マルセイユのプレッシャーはとんでもない?(笑)
すごいですね。0-0で満足している人はいない。ファンや記者はもちろん、今日もガソリンスタンドに洗車に行ったら、「勝てなかったな……」と。街の人は勝敗に左右されているので、負けた試合の後は外を歩けないですよ。この街の人たちに嫌われてしまうと、もう一度好きになってもらうには、かなりの時間がかかる。僕は家族がいるので、子どもと妻がしっかり生活できるように自分が良いプレーをしないといけない。そう思うと1試合、1試合、気が抜けない試合になります。

>>後編へつづく
https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20180516/758277.html

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