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【コラム】「世代交代完了」は時期尚早…大一番を経て激化する、ハリルジャパンの定位置争い

2016.11.16

ベンチスタートの本田、香川、岡崎が先制ゴールの歓喜の輪に加わる [写真]=兼子愼一郎

 9月、10月シリーズに続いてMF原口元気(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)とMF山口蛍(セレッソ大阪)が輝きを放ち、FW大迫勇也(ケルン/ドイツ)とMF清武弘嗣(セビージャ/スペイン)も強烈なインパクトを残すなど、ロンドン五輪世代の活躍が目立った11月シリーズ。

 サウジアラビア代表との2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選では、FW本田圭佑(ミラン/イタリア)、MF香川真司(ドルトムント/ドイツ)、FW岡崎慎司(レスター/イングランド)の3人が揃って控えに回ったことで、新時代の訪れを感じさせた。

 だが、これを「世代交代」の完了と捉えるのは時期尚早だし、「本田・香川不要論」にまで発展させたりするのは、あまりに乱暴だ。

 ホームでUAE代表に痛恨の敗戦(9月1日の第1節)を喫したように、何が起こるか分からないのがアジア最終予選。しかもこの先、UAE代表、イラク代表(イランでの代替開催)、サウジアラビア代表とのアウェーゲームを残している。これまで多くの修羅場をくぐり抜けてきた本田、香川、岡崎らの力と経験に頼らなければならない場面は、この先もまだまだあるはずだ。

 そして何より、下からの突き上げを受けた彼ら自身が、奮起を誓っている。

「久しぶりにこういう立場になって、燃え上がるものがある」

 そう言って笑顔すら見せたのは、後半アディショナルタイムからの出場となった岡崎だ。

 以前は「代表とレスターでは求められるものが違う」と話していたが、10月シリーズから「代表でもレスターでも同じだということに気づいた。迷いがなくなってきた」と語るようになっていた。それだけに、11月シリーズでほとんど出番を得られなかったことは痛恨だったに違いないが、「今日はサコ(大迫)が周りを活かしていた。それは、自分もやろうとしていたことだった」と、ヒントを得たようだった。

「ずっと1トップで出ていたけど点を取れていなくて(ヴァイッド・ハリルホジッチ)監督も納得していなかったと思うけど、自分自身も納得していなかった。FWは特に調子がいい選手、結果を出している選手が出るのが当然だと思うから、そういう意味では“また新しい戦いが始まったな”って。今は代表でもがいているけど、きっかけを掴むのは得意なので、頑張ります」

後半アディショナルタイムからの出場となった岡崎慎司 [写真]=Getty Images

後半アディショナルタイムからの出場となった岡崎慎司 [写真]=Getty Images

 10月6日のイラク代表戦に続いてベンチスタートとなった香川も、「スタメン落ちは想定していた」と明かし、今シリーズをポジティブに捉えていた。

「最終予選では結果を残しているわけではないので、そこは素直に、いろんなものがあると思って準備していました。ほんと変な話、(今回のスタメン落ちは)危機感っていうより刺激というか。次の(最終予選の)試合は3月なので、改めて自分がやらなきゃいけないことがはっきりした。この合宿で得られたものは想像以上に大きかったと思います」

ベンチスタートとなり、後半途中からピッチに立った香川 [写真]=三浦彩乃

ベンチスタートとなり、後半途中からピッチに立った香川 [写真]=三浦彩乃

 一方、後半から出場した本田は「みんなが頑張ったから、みんなの話を聞いてやってください」とだけ言い残して、足早にミックスゾーンから立ち去った。

 それが、スタメンから外されたことへの不満だったのか、「本田外し」を騒ぎ立てたメディアへの怒りだったのか、最近しゃべりすぎているために自重したのかは分からない。だが確かなのは、ピッチ内では雄弁だったことだ。

 後半開始直後にはDFラインの裏に飛び出し、49分には清武のFKからゴールを狙った。53分にはDF長友佑都(インテル/イタリア)の、72分には原口のグラウンダーのクロスに飛び込み、78分には左足で強烈なシュートを見舞った。

 ゴールこそ奪えなかったが、得点への渇望を身体全体から発散させてゴールに迫る姿からは、本田の意地やプライドがビンビンと伝わってきた。

 所属するミランでは依然として出場機会を得られていないが、サウジアラビア戦の3日前にはミランを離れる用意があったことを明かしている。今冬に移籍が実現し、新天地で出場機会を掴めば、再び日本代表における確固たる立ち位置を取り戻してもおかしくないし、そこでのポジションがサイドではなく中央になれば、日本代表における中盤の選手構成やポジションの序列も大きく変わる可能性がある。

後半開始時からピッチに立った本田圭佑 [写真]=兼子愼一郎

後半開始時からピッチに立った本田圭佑 [写真]=兼子愼一郎

「(スタメン落ちは)勝負の世界では起こり得ること。1試合外れただけなので、今後どうなるか分からないし、これによって彼らが(心が)折れることもないと思う」

 そう語ったのは、岡田ジャパンの頃から切磋琢磨してきた同世代の長友だ。彼自身、ケガや脳震盪のため、9月、10月の4試合は欠場を余儀なくされた。UAE代表戦ではチームが敗れる様子を外から眺めることになり、「とにかく悔しかった」という。

 サウジアラビア代表戦は最終予選5戦目にしてようやくめぐってきた出場機会。本来ならこれまでのうっぷんを晴らすため、タッチライン際を駆け回りたかったはずだが、ベテランらしく原口のサポートに徹しながら、本田とのコンビネーションによる左サイド攻略から日本の2点目をアシストして意地を見せた。

 山口、原口、大迫、清武らロンドン五輪世代の活躍によって新風が吹き込んだハリルジャパン。そのグループをさらに強固なものにするのは、ベテランたちの巻き返しだ。

 次のゲームは来年3月23日のUAE代表戦となる。中東に乗り込む日本代表に、果たしてどのような競争が生まれるのか――。

 アジア最終予選前半戦のラストマッチ、サウジアラビア代表との大一番を経て加速するのは「世代交代」ではなく、フラットで熾烈な「ポジション争い」だ。

文=飯尾篤史

スポナビライブ

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