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【コラム】司令塔として光る存在感…1ゴール2アシストの清武、サウジ戦へ高まる重要性

2016.11.12

1ゴール2アシストを記録し、存在感を放った清武弘嗣 [写真]=兼子愼一郎

 2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選の行方を大きく左右する15日のサウジアラビア戦(埼玉)に向け、11日のキリンチャレンジカップ2016・オマーン戦(鹿嶋)は重要な最終調整の場。10月に行われたイラク(埼玉)・オーストラリア(メルボルン)2連戦の後、所属のセビージャでチャンピオンズリーグ・グループステージ第4節ディナモ・ザグレブ戦(11月2日)の終盤15分間のみピッチに立っただけの清武弘嗣 (セビージャ)にとっては、実戦感覚を取り戻す貴重なチャンスだった。

 その清武だが、「思った以上にボールが滑って、そこにちょっと戸惑った」と本人も言うように、序盤はミスが目立った。10番を背負って絶対的な主軸として君臨したハノーファー時代に比べると、やや動きのキレを欠いている印象もあった。

 そういう懸念は感じさせたものの、山口蛍(セレッソ大阪)、永木亮太(鹿島アントラーズ)の両ボランチ、右サイドの本田圭佑(ミラン)、トップの大迫勇也(ケルン)らが清武と距離感を近づけ、彼にボールを預け始めると状況は一変。日本の攻撃がスムーズに回り出し、目に見えて連動性が向上した。「キヨ君に入ったところからチーム全体のスイッチが入ったし、そこから左右裏にすごいいいボールが出た。今日の攻撃の起点はキヨ君やった」と常にタテパスを預けていた山口も断言した通り、清武の一挙手一投足が攻めのリズムを確実に変えていく。その1つの成果が、彼の絶妙クロスを大迫がヘッドで決めた32分の先制点。日本は膠着状態をようやく打ち破ることに成功した。

 42分の大迫の2点目も、清武の卓越したセンスが凝縮されていた。彼は本田とのワンツーから中央に流れてボールを受け、左足で鋭いスルーパスを前線へ供給。次の瞬間、大迫が相手DFアブドゥル・サッラム・アルムハイニ(13番)を巧みなフェイントでかわして右足を振り抜いたのだ。「やっぱりサイドに人数をかけるとボールウォッチャーになって中が空いてくるし、あのシーンはDFが僕に食いついちゃったんで、攻撃的によかったと思います」と清武が言えば、「ああいうふうに自分とキヨが絡んでワンタッチで出すシーンは最近、皆無だった」と本田も満足感を吐露するなど、クラブで苦境に立つ2人が息の合ったプレーを見せたことは、チームにとって大きな収穫だったと言える。

 さらに後半には、本田と代わった浅野拓磨(シュトゥットガルト)が首尾よく得たPKを自らの右足でゴール。6月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦(吹田)以来の代表4目を手に入れる。この活躍でお役御免となり、清武は71分にベンチへ下がった。代わって初キャップの久保裕也(ヤング・ボーイズ)が入り、日本の布陣が4-2-3-1から4-4-2に変わった。

 ボランチも山口と小林祐希(ヘーレンフェーン)のコンビになったが、それまでのように得点チャンスに直結するパスが出なくなってしまう。前線に岡崎慎司(レスター)、浅野、久保、齋藤学(横浜F・マリノス)というタテの推進力の高い4人がズラリと並び、中盤との距離が離れすぎてしまったのもあるが、「やっぱりトップ下でキヨ君が気を使って顔を出していたから、そういう選手がいなくなった分、出すところは苦労した部分があるのかなと思います」と山口はストレートに指摘した。やはり全体を円滑に動かせる清武の存在価値は大きい。それを再認識させた終盤の戦いぶりだった。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も「清武は所属クラブでプレー機会が少ないが、彼を信じていいんだなというものを示した」と記者会見で公言したが、高度な技術で相手を揺さぶりつつ、繊細な配慮で周りを動かせるこの男は、やはり次のサウジアラビア戦に必要不可欠だと言っても過言ではない。香川真司(ドルトムント)が右足首のケガを抱えていることを視野に入れると、彼の重要性はより一層高まったのではないか。

 10月の2連戦を振り返っても、清武はイラク戦で先発し、原口元気(ヘルタ・ベルリン)の先制点をお膳立てするとともに、山口の劇的決勝弾を誘発する左CKを蹴っている。この活躍ぶりで2試合連続先発の期待が大いに高まったが、指揮官はオーストラリア戦で香川を選択。2人を併用していく構えを見せた。この扱いには本人も悔しさを感じたに違いない。2016年ラストマッチとなるB組首位サウジアラビアとの大一番には、何としても自分が出場したいという思いは強いはずだ。

 次戦も山口、酒井宏樹(マルセイユ)、酒井高徳(ハンブルガーSV)、大迫らロンドン五輪世代を多数起用するのであれば、この面々の特徴を熟知していて、全員を的確に動かせる感性豊かな司令塔を抜擢する方がベターではないか。15日に行われるサウジアラビア戦で、ハリルホジッチ監督が下す判断の行方が大いに気になる。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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