FOLLOW US

日本をタイ撃破に導いた3人 先発抜擢の原口、浅野、山口がチームを活性化

2016.09.07

タイ戦に先発出場した(左から)原口、浅野、山口 [写真]=Getty Images

 9月1日の2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選初戦・UAE(アラブ首長国連邦)戦(埼玉)の黒星を受け、絶対に勝利が求められた6日のタイ戦(バンコク)。負ければ解任危機に瀕する可能性もあったヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、前回先発した岡崎慎司(レスター)、清武弘嗣(セビージャ)、大島僚太(川崎フロンターレ)に代えて、浅野拓磨(シュトゥットガルト)、原口元気(ヘルタ・ベルリン)、山口蛍(セレッソ大阪)の3人をスタメンに抜擢。満を持してピッチに送り出した。

 キックオフ直前に大雨が降るという不安定な気象条件の中、日本は前回とは別のチームのようにアグレッシブに前へ出た。2列目右の本田圭佑(ミラン)と左の原口がタッチライン際にポジションを取って、トップ下の香川真司(ドルトムント)のプレースペースを十分に取ったうえで、サイドバックと連携しながら外を崩していく。特に原口と酒井高徳(ハンブルガーSV)の左サイドは意図的に高い位置を取りながら、裏を狙い続けた。「向こう(タイ)もブロックを敷いているっていうより、ただいるだけのポジションを取っていたんで、僕らは動き方を工夫してボール受けたり、元気にスペースを作ったり、いろいろ意識してました」と酒井高も思い切って攻めに出られたことを前向きに受け止めていた。

 彼ら2人のコンビは相手に脅威を与え続け、原口が6月のブルガリア戦(豊田)以来のゴールを奪うことに成功する。18分に酒井宏樹(マルセイユ)のクロスに飛び込んでヘッドで合わせることができたのも、序盤からサイドの幅を使って相手を揺さぶり続けたからに他ならない。

「幅を使えるというのは僕のよさでもあるので、幅を使いながら他の選手とは違うものをチームにもたらせたかなというのはあります。得点シーンも逆サイドからの入りをすごく意識していた。宏樹からいいボールが来て、うまく相手を外せたのがよかった」と原口は振り返ったが、この1点がなければ日本は重苦しい雰囲気に包まれていたはずだ。

 背番号8のゴールで早い時間帯に先制したものの、2点目が入るまでが長かった。度重なる決定機を外し続け、相手に流れが行ってもおかしくなかった。そこでしっかりとリスクマネージメントに徹したのが山口だ。UAE戦で大島が前へ前へと行きすぎてバランスを失ったのとは対照的に、2014年のブラジル・ワールドカップで3試合に出場したダイナモは、危ない場面で次々とボールを奪い、相手の攻撃の芽を摘んだ。「タイのメッシ」の異名を取るチャナティップ・ソンクラシン(ムアントン)をつぶすシーンも複数回あった。

 本人は「自分の特徴はそういうところ(ボール奪取)にあるから、今日試合に出れば、そういうところを出そうと思っていた。自分のやるべきことをやっただけかなと思いますけど」といつも通り、淡々とした物言いを崩さなかったが、その落ち着きが今の代表にはやはり必要なのだ。「J2にいても能力の高い選手は外せない」と指揮官が語った通りの安定感で、彼はチームに大いに貢献した。

 そして浅野も裏を一発で取るような動きはなかなか見せられなかったが、一番重要な追加点を自分自身で奪ってみせた。76分、長谷部誠(フランクフルト)が出した浮き球のパスを、彼はクリアしようとした相手DFより早く触り、そのままペナルティエリアへ突進。次の瞬間、放ったシュートが好セーブを連発していたGKに当たってゴールに吸い込まれたのだ。

 彼自身は「実は、僕はもう1個早く動き出していて、そのタイミングでボールが来なくて1回止まっていたんですけど、1つ遅れたタイミングでハセさんがくれた。その時、ベンチを見ていて、武藤(嘉紀=マインツ)君が準備していたりしたんで、もしかしたら交代かなと思ったけど、最後の力を出し切って何とか頭で触ったらマイボールにできるかなと。タイミングは合わなかったですけど、自分の特徴が生きたかなと思います」とゴールに至る過程をこう振り返る。

 A代表で1トップに入って初めて先発する中、どうしてもコンビネーション面でズレが生じる部分があったのは確か。それを強引にモノにしてしまうところが彼らしいところだ。この夏、アーセナル移籍(その後、シュトゥットガルトにレンタル移籍)が決まり、タイでも注目される中、ゴールという結果を残したことは、本人の大きな自信につながるのは間違いない。

 これまで岡崎の独壇場だった1トップ競争に完全に名乗りを挙げた浅野。「僕自身、岡崎さんを追いかける立場であって、いろんなところを盗みながら自分の特徴も生かして、岡崎さんに対してホントに恐れられるような選手にならないといけないと思うので、チャンスが巡ってきた時には自分の力を100パーセント出していきたい」と謙虚な姿勢を貫いていたが、若く勢いのあるFWの台頭はチーム活性化に不可欠。武藤も含めて最前線の競争激化が今後の巻き返しにつながればいい。

 先発に抜擢された新戦力3人が存在感を示したことで、ようやく1勝を手にした日本。最終予選の本当の戦いはこれからだ。

文=元川悦子

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO