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3枚看板の代役から“勝たせる選手”へ リーガ衝撃デビューの清武、代表での変貌に期待

2016.08.30

合宿3日目のトレーニングに臨んだ清武弘嗣 [写真]=JFA

 台風10号が北に反れたとはいえ、時折、激しい豪雨に見舞われた8月30日の埼玉県内。9月1日に行われる2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選のUAE(アラブ首長国連邦)戦(埼玉)に向けて28日から合宿中の日本代表も3日目のトレーニングは雨中のスタートを余儀なくされた。それでも合流が遅れていた清武弘嗣セビージャ)と原口元気(ヘルタ・ベルリン)も無事に帰国でき、ようやく24人全員が揃った。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督もこの日からメディアを締め出して本格的な戦術確認に突入。約2時間にわたって非公開練習を行った。原口が「今日着いてUAEの映像を見ましたけど、やっぱり10番(オマル・アブドゥッラフマーン)だと思う。ほとんどあいつから(ボールが)出てくるっていうイメージがありますよね」と語気を強め、DF酒井高徳(ハンブルガーSV)も「(メディアのみなさんも)言ってほしいのかなと思いますけど、10番がやっぱりうまい」と冗談交じりに語ったように、選手たちもオマルらUAEの情報をしっかりと頭に刻み込んでいるようだ。

 こうした中、清武は「UAEはいい選手がいますけど、守備の方はすごいスペースがある。前半は難しい戦いになるかもしれないですけど、後半はスペースも空いてくると思う。我慢の試合になると思いますけど、早い時間に点がほしいです。プレッシャーもないですね。今はすごく楽しみです」と冷静に相手の弱点を分析していた。それだけの余裕を漂わせるのも、前回のワールドカップ予選を経験し、さらにニュルンベルク、ハノーファー、セビージャと海外3クラブを渡り歩いた実績によるところが大きいだろう。とりわけ新天地・セビージャで開幕からスタメンを確保。8月20日のリーガ・エスパニョーラ開幕節エスパニョール戦で1ゴール1アシストの大活躍を見せている。28日のビジャレアル戦は途中交代を余儀なくされたものの、自信を深めているのは間違いない。

 本人も「調子がいい」と言い切る状態で代表にやってきた。それゆえに、前回最終予選とは比べ物にならないくらい強烈な存在感を示す必要がある。2012年6月のオマーン戦(埼玉)からスタートしたブラジル大会の最終予選8試合のうち、清武は7試合(うち先発4試合)に出場しているが、あくまで本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)が欠場した時の“代役”に過ぎなかった。ゴールも2012年11月のオマーン戦(マスカット)の1点だけ。アルベルト・ザッケローニ監督もこうしたパフォーマンスの物足りなさを踏まえて、ブラジル本大会ではラスト・コロンビア戦(クイアバ)の残り5分間しか清武を起用しなかったのだ。本人も大きな屈辱感を味わったに違いないが、当時の彼は残念ながらメンタル的にも大黒柱になれる選手とは言い切れなかった。

 しかしながら、今は意気込みが全く違う。「やっぱり負けることは好きじゃない。この前(6月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦=吹田)も負けていい試合じゃなかったけど、今回は絶対に負けちゃいけない試合。ホームの初戦は正直、引き分けもいらないと思ってるんで、厳しい戦いにはなるだろうけど、相手も日本に勝つことはそう簡単ではない。僕たちも自信を持っていい試合ができればいいなと思います。自分がチームを勝たせるという気概? もちろんそういう気持ちはありますし、ピッチに立って試合は出たいです。だけど、最終予選っていうのは全員が一丸となって戦わないと厳しい戦いになる。誰が出てもしっかりといいプレーができるようにみんないい調整ができればいい。途中から入って流れを変えることもすごく必要になってくるし、どっちにしろ気は抜けないかなと思います」と清武は中心選手の自覚を持ちつつ、仮にベンチスタートになった場合にも自分の役割を全うする責務を感じているという。

 彼はブラジル大会で惨敗した後、「ハセ(長谷部誠=フランクフルト)さんみたいに、次のワールドカップではキャプテンマークを巻いてピッチに立ちたい」という誓いを立てた。それを現実にするためには、最終予選をフルで戦い、コンスタントに得点に絡む仕事を見せ続けなければならない。本田、香川、岡崎慎司(レスター)の攻撃陣3枚看板が3度目のワールドカップ予選ということで徹底的にマークされるのが確実だからこそ、清武がゴールという結果を残す必要がある。リーガ開幕戦での一撃でスペイン中を震撼させたように、今回のUAE戦でも得点能力の高さを前面に押し出すことができれば、清武弘嗣は大きな変貌を遂げられるはず。今回の大一番は新たなエースの真価が問われる重要な舞台となるだろう。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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