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「日本の強みは速さ」…手倉森監督が目指すスピード感のある攻撃のキーマンとは

2016.07.25

アラカジュで直前合宿を行うリオ五輪日本代表

 リオ五輪日本代表の練習開始時刻の30分以上前に着くと、練習会場であるスタジアムの中からなぜか大歓声が聞こえてきた。

 中に入ると、ピッチには日本の選手たちの姿はなく、ブラジル3部リーグの公式戦が繰り広げられていた――。

 ブラジル北東部の海岸沿いに位置する人口約50万人の新しい街、アラカジュ。リオ五輪日本代表がこの地で直前合宿をスタートさせて3日目を迎えた。

 この合宿は暑熱対策も兼ねているのだが、思いのほか涼しいために初日を終えたあと、比較的遅くに設定されていた開始時刻を1時間半近く前倒しすることが決まった。ところが、この3日目だけ変更されていなかった背景には、公式戦があるため、練習時間を早めることができないという事情があったのだ。

 そんなわけで、気温26度、湿度65パーセントと涼しい環境のなかで、3日目のトレーニングがスタートした(ちなみに試合はホームチームが1-0で勝利。このチームの監督は、なんと元ベルマーレ平塚のベッチーニョだ)。

 発熱のために出発を1日遅らせた井手口陽介(ガンバ大阪)も元気な姿を見せたが、一方で、大島僚太(川崎フロンターレ)の姿が見当たらない。前日までは元気に練習に参加していたのだが、この日になって発熱と腹痛を訴えたという。熱は37度3分と微熱だが、疲労も蓄積しているため、この日はホテルで静養することになった。

トレーニングを行うリオ五輪日本代表の選手たち

トレーニングを行うリオ五輪日本代表の選手たち

 ジョギングとストレッチのあと、4人ひと組でスクエアになってパス回し。さらにワンツーや斜めのくさびなどのバリエーションを加えていくと、次第に秋葉忠宏コーチから「しっかり落として!」「丁寧に! 丁寧に!」といった声が響く。

 パス回しの練習のあとは、攻撃陣と守備陣が分かれてトレーニング。攻撃陣はふたりのMFとひとりのFWによるパス交換からシュート。守備陣はサイドからクロスを入れ、それを戻りながらクリアしたあと、プッシュアップしてこぼれ球を拾って前方にパス。サイドから厳しいクロスが放り込まれるたびに、真ん中でクリアする岩波拓也(ヴィッセル神戸)や塩谷司(サンフレッチェ広島)が「厳しいなあ!」、「厳しくない?」といった声が発せられた。

 さらに守備陣が4人でディフェンスラインを組み、相手のボールがどこにあるかでラインの上げ下げ、横ズレのタイミングをすり合わせると、攻撃陣はグラウンダーのクロスからのシュート練習を行った。

 仕上げは、ペナルティエリアのライン上にゴールを置き、狭くしたピッチで行なわれたゲーム形式のトレーニングだ。白のビブス組とビブス未着用組とに分かれたが、ビブス組は11人、未着用組は9人という構成で、ビブス組の攻守における確認作業に重きが置かれた。

 メンバーも約5分程度で次々と入れ替わったが、その意図について手倉森監督は「オーバーエイジの隣で多くの選手を絡ませたかった」と説明。1トップの興梠慎三(浦和レッズ)、左サイドバックの藤春廣輝(G大阪)、センターバックの塩谷をチームに早く組み込ませたい狙いがあったことを明かした。

 頻繁にメンバーの入れ替わったこのトレーニングにおいて大きな意味を持つのは、4-2-3-1が採用されたビブス組の1トップに興梠が一貫して起用されたことだろう。4-2-3-1の採用と興梠の1トップ起用について指揮官が言う。

「全員で守る意識と、取ったあとに誰が出て行くんだというところをはっきりさせた形。それで出て行くスピードのある選手が試合に出るということ。(興梠は)やっぱりターゲットに成り得る。(遠藤)航とのホットラインもあるし、くさびだけでなく、ダイレクトプレー、一気に裏を突く動き、このチームが意識してきたことの質を上げてくれる」

 その言葉どおり、ビブス組がボールを奪うと素早く前線の興梠に当てて、その落としを受けたトップ下が相手ディフェンスラインの裏を突き、サイドハーフが飛び出していくパターンが数多く披露された。指揮官が再び語る。

「2列目の真ん中、サイドをやれるのが浅野(拓磨)、南野(拓実)、(中島)翔哉、矢島(慎也)と4人いますから。配置と組み合わせによって違う色を出してくれるだろうと思っています」

 7月1日のメンバー発表会見で指揮官は「日本の強みは速さ」だと宣言した。ポストワークに長けた興梠とバラエティに富んだ2列目の掛け合わせによるスピードの創出――。初の戦術練習を行なったアラカジュ合宿3日目で、指揮官の思い描く「速さ」のイメージの一端が明らかになった。

文=飯尾篤史

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