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MF矢島慎也が“託された者”の決意を胸にリオへ「一緒に戦ってきた選手の分も」

2016.07.21

 決心は吉と出た。生まれ育った埼玉から出場機会を求めて岡山へと飛び出したMF矢島慎也ファジアーノ岡山)は、リオ行きの切符を手にした。プロ4年目でのJ2移籍。それは強い覚悟の表れだった。ボランチ起用により運動量や守備意識を高め、プレーの幅を広げた22歳は手倉森ジャパンに欠かせない存在にまで成長を遂げる。

 もともと矢島は手倉森誠監督の“秘蔵っ子”だ。2014年1月のチーム立ち上げから、負傷で辞退した2015年2月のシンガポール遠征、「力は分かっている」(手倉森誠監督)とメンバーを外れた今年3月のポルトガル遠征を除いて全活動に招集されている。今年5月のガーナ戦では、ケガで招集を見送られたMF中島翔哉(FC東京)に代わって10番を託された。そこに指揮官からの厚い信頼を感じることができる。

 矢島は言う。「監督が掲げる目標を達成しないといけない」。1968年メキシコ大会以来、48年ぶりとなるメダル獲得のために、そして自らが夢の大舞台で輝くために――世界と戦う準備は整っている。

矢島慎也
インタビュー・文=高尾太恵子
取材協力=ナイキジャパン

パスの質やパス出しのテクニックは自分の武器

――オリンピックまで1カ月を切りました。今の心境を教えてください。

矢島慎也(以下、矢島) メンバー発表の日から、「これから本番だな」と実感し始めました。とても楽しみにしていますし、自分が“どれだけやれるか”を確かめたいという思いが強いです。

――改めて、矢島選手にとってオリンピックとは?

矢島 貴重な舞台ですね。この1年間、ずっと目標にしていた大会でした。年齢制限もありますし、サッカー選手でも一握りの選手しか出場することができません。オリンピック出場という目標があったからこそ、ここまで頑張ることができました。

――出場機会を求めて、ファジアーノ岡山に期限付き移籍をするという決断もしました。

矢島 そうですね。岡山で出場回数を重ねることで、色々な部分が向上したと感じています。実戦で浮き彫りになった課題を改善するために、次の試合でトライする。さらに新しい課題が出て、それに取り組む。今まではそういうサイクルを経験したことがなかったので、実戦が自分を成長させてくれたと思っています。

――メンバー発表はリアルタイムで見ていましたか?

矢島 見ましたよ。テグさん(手倉森誠監督)のダジャレがキレッキレでしたね(笑)。ミーティングのときもよくダジャレを言うんですけど、その場を飽きさせないというか。でも、締めるところしっかり締めてくれる監督です。

矢島慎也

――印象に残っているミーティングはありますか?

矢島 最終予選に臨む前のミーティングですね。会場に行ったら扉が開いていたんですよ。全員が席に着くと、テグさんが「入ってきたときに扉が開いていただろう?」と聞いてきて。「あれは、リオへの扉だ!」と言って、ミーティングが始まったんですよ(笑)。それから最終予選の間はずっと扉が開いていました。みんなをリラックスさせるためにやってくれたんだと、自分は勝手にそう解釈しています。テグさんの言葉には影響力があるんですよね。響く言葉を選んでいると思います。

――これまで矢島選手の中で響いた言葉は?

矢島 自分はAFC U-22選手権(オマーン)からずっとこのチームに呼ばれていますけど、そのときからテグさんは「目標はオリンピックに出場することではなくて、メダルを取ること。歴史を変えることだ」と言い続けてくれています。自分たちの世代がオリンピックに出て、その先のロシア・ワールドカップの主力にならないといけない。そのことはずっと心に残っていますね。

矢島慎也

――手倉森ジャパン発足から約2年半が経過しましたが、最も成長したと感じる部分は?

矢島 個人というよりも、チームのまとまりですね。日本代表チーム自体のまとまりが強くなったと思います。“良いとき”も“悪いとき”も経験するのがチームですけど、このチームはそんなに“良いとき”を経験していない。ベスト8で敗れたり、悪い経験のほうが多いんです。もっとさかのぼれば、U-20ワールドカップ出場を逃している。あの経験は相当悔しかったですし、同じ敗北を経験した仲間が今のチームには残っています。テグさんも「俺はまだ何も成し遂げていない。だからお前らと同じだ」と最初に言ってくれた。「ここでやってやろう」という思いをみんなが持っていたからこそ、最終予選で優勝できたと思います。

――個人的な成長はいかがでしょう。現時点で矢島選手の最大の武器とは?

矢島 やっぱりパスですね。色々な種類のパスを持っていると思うし、相手に合わせるのも得意です。誰が入っても、味方の動き出しに合わせる自信はあります。パスの質やパス出しのテクニックは自分の武器だと思っています。

――オーバーエイジの3選手が入っても合わせる自信があると。

矢島 はい。そこへの不安はないです。

――岡山ではボランチ、代表では2列目を任されることが多いですが、どちらにせよ相手をいなしたり、スキを突くために一瞬の判断力が求められると思います。

矢島 そうですね。ただ、攻撃の部分でやることは変わらないと思っています。2列目は得点に絡みに行かないといけないポジションですし、ボランチだったとしても自分の良さを出すためにはゴールやアシストなどの得点に絡む姿勢を見せないといけない。そういった部分では、2列目もボランチもやることは変わらないと思っています。守備面は少し違いますけどね。

――具体的に?

矢島 2列目に入ったときは守備のスイッチを入れないといけないので、自分から発信して守備へ行くことが多いです。一方のボランチは、狙ってボールを奪いに行くこともあるし、スペースを埋める作業もある。時には最終ラインに入ってブロックを敷かなければいけないときもあるので、守備の判断は変わってきます。

――過去のインタビューで「得点力のあるボランチになりたい」と発言されていました。代表でもボランチで勝負したいという気持ちがあるのでは?

矢島 監督が求めるポジションで結果を残すのが第一なので、そこへのこだわりはないですけど、正直やってみたいという気持ちはあります。今でも“得点力のあるボランチ”は目標の一つですから。

矢島慎也

オリンピックという舞台で目に見える結果を残したい

――対世界を考えたとき、戦う上で大事になってくるものは何でしょう。

矢島 トゥーロン国際大会を戦ってみて、自分の中で色々と感じることがありました。相手にスーパーな選手がいると、自分たちが主導権を握っていたとしてもその選手一人で試合を決めてしまう。世界を相手にすると一つのミスが失点につながるので、90分間集中してコンパクトに戦うことが一番大事だと思います。

――リオでは厳しい戦いが待っています。最終的には個の能力で勝たなければならない場面が出てくると思います。

矢島 どれだけいい組織でも、個で剥がされてしまえば組織ではなくなってしまう。一対一の球際で勝つことは大前提です。そういう個の部分は一人ひとりが負けてはいけないところだと思います。

――本大会は短期決戦です。プレーの質を維持すると同時に、メンタルコントロールも大事になってくるのでは?

矢島 最終予選を経験する前は、1失点するだけで「ヤバいな」と焦っていました。でも、2点のビハインドから逆転して勝った韓国戦(最終予選の決勝)を経験したことで、1失点では動じなくなりましたね。先制点を取られたとしても、余裕を持てるようになりました。上手くいかなかったプレーに対して苛立つことはありますけど、「その分、次のプレーに生かそう」という切り替えを意識しています。

――世界を肌で体感できることへのワクワク感はありますか?

矢島 世界で活躍している選手を近くで見られるのは楽しみですね。でも、対戦したいとは思わない。相手に手強い選手がいたら嫌じゃないですか(笑)。

――確かにそうですね。一方で、プレッシャーもあると思います。手倉森監督はメンバー発表会見で「託す側と託される側に分かれる」という表現をされていました。

矢島 考えれば考えるほどプレッシャーを感じるので、今はあえて考えないようにしています。ただ、これまで一緒に戦ってきた選手たちの分も頑張らないといけないと思っています。

矢島慎也

――矢島選手の背番号「9」は新鮮です。

矢島 プレースタイルから言ったら9番ではないですよね(笑)。でも、小学校のときに9番を着けていたことがあるんです。そのときは次々にゴールを決めていたので、縁起がいいかもしれません。

――最後にオリンピックへの意気込みをお願いします。

矢島 チームとしては、テグさんが掲げている「メダルを取って歴史を変える」という目標を達成しないといけないと思っています。“良い経験になった”と言えるのは、その大会で思ったことや結果を次に生かせたとき。だから、しっかりと結果を残して、「あの大会があったから、今ここまで来られている」と振り返られるような大会にしたいです。

――それは、その先のロシアW杯を見据えて?

矢島 いや、それはまだ早いです。この大会では点を取ったり、アシストを決めることが求められていると思います。まずは、オリンピックという舞台で目に見える結果を残したいですね。

By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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