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緊急招集された鹿島MFの武器とは…ハリルも魅せられた永木亮太が放つ“熱”

2016.03.09

日本代表候補合宿に参加した鹿島MF永木亮太 [写真]=兼子愼一郎

 選手ならば誰でも、日本代表チームに対して憧憬の念を抱く。国内組限定の“候補”合宿とはいえ、27歳にして初めて、それも追加で緊急招集されたMF永木亮太鹿島アントラーズ)は、武者震いよりも懐かしさ、緊張感よりも居心地のよさを感じずにはいられなかった。

 千葉県内で7日から開催されている日本代表候補合宿。8日に午前、午後とそれぞれ約2時間ずつ、合計4時間の戦術練習をみっちりと積み、自身にとっての“初日”を終えた永木は「イメージどおりでしたね」と充実した表情を浮かべた。


「ベルマーレで培ってきたものはハリルホジッチ監督のサッカーにすごく合うし、これからも生かされていくと思う。チームにもスムーズに入ることができました」

 予期せぬ吉報は、合宿初日の練習が行われた7日の夕方に届いた。MF米本拓司FC東京)が負傷離脱したことに伴う代替招集。年代別の代表を含めて日の丸に無縁だった永木の胸中には、時間の経過とともに期する思いが込み上げてきた。

「チームがオフで、自分の体もオフモードに入っていたのでビックリしましたけど。移動中にだんだんテンションが上がってきて、ホテルに着いた時には『やってやろう』という気持ちになりました。少しでも可能性があるから呼ばれたわけであり、この場所に来たからには何か爪痕を残したいと」

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督による講義のみが開催された昨年末の“食事会”にも永木は名前を連ねていた。そして今回の合宿メンバーにはFW金崎夢生を始めとする鹿島のチームメートが5人を数え、湘南ベルマーレでともにプレーしたMF遠藤航(現浦和レッズ)やDF丸山祐市(現FC東京)も選ばれていた。もっとも、ハリルホジッチ監督が掲げるスタイルへの予備知識があり、馴染みのある選手たちがいることだけが、永木にちょっとしたデジャブを感じさせた理由ではない。

 合流後すぐに開催されたミーティング。指揮官はコンパクトな陣形を保ち、高い位置からアグレッシブにプレッシャーを掛け続けてボールを奪うソーンプレスを要求した上で、永木によればこんな檄を飛ばしたという。

「前からプレッシャーを掛けに行っているクラブは、湘南と川崎フロンターレくらいだと。各チームとも戦術的には異なる部分があるので何とも言えませんけど、代表が目指しているサッカーは湘南に近いものがあると思わずにはいられませんでした」

 ハリルホジッチ監督自身、湘南のサッカーに親近感を覚えてきた。昨シーズンは幾度となくリーグ戦を視察に訪れ、8月のEAFF東アジアカップで抜擢したU─22日本代表(当時)のキャプテン、遠藤航には「いいサッカーをしているな」と声を掛けている。

 永木が中央大からベルマーレに加入したのが2011シーズン。曹貴裁監督の下で心技体を鍛え上げられ、確実な成長曲線を描きながら、常にA代表を意識してきた。異次元の強さでJ2リーグを制し、1年でのJ1復帰を決めた2014シーズンにはこんな言葉を残している。

「代表はそれほど遠い場所ではないと思っていますけれど、だからと言ってそればかりを意識しても仕方がない。要はどれだけ湘南の力になれるか。ひたむきに頑張っている姿を見てもらえれば、必ずチャンスは巡ってくると思っています」

 そして、J1とJ2を往復しながら切磋琢磨してきた遠藤が、東アジアカップで3試合すべてに先発フル出場を果たした。テレビ越しに盟友を応援し、帰国後はともに湘南のJ1残留に尽力しながら、永木が抱いてきた思いは確信へと変わっている。

「自信をつけて代表から帰ってきた航の姿を見ていると、逆に刺激を受ける。航とはずっと一緒にやってきたので、どのようなレベルの選手なのかはよく分かっている。その航が代表であそこまでプレーできたことで、自分にも置き換えられますから」

 永木にとって日本代表候補としての初練習となった8日の午前中には、横一線に並んだ4人の選手が1本のロープを約7メートル間隔で握りながらプレッシャーを掛け、相手をサイドへ追いやったところで人数をかけてボールを奪うメニューが組まれた。

 味方との距離感を保ちながら、前線や中盤の選手を含めたチーム全体で執拗かつ組織的にボールを奪取する――。自陣に引いて相手のミスを誘うのではなく、自分たちからアクションを起こし続け、高い位置からショートカウンターを仕掛ける戦術は、昨シーズンまで育んできた“湘南スタイル”と酷似していた。

「選手同士の距離感やほんのわずかなポジショニングの修正を、とにかく突き詰めてくる。細部にまでこだわってこそ勝利は近づいてくるという監督の哲学も感じました。サッカーに対してとにかく真摯に向き合っているし、だからこそ少しのミスでも普段なら言われないようなきつい言葉をかけられる。僕自身、すごくいい刺激になりました」

 昨オフに大きな決断を下した。2年続けてオファーを受けていた鹿島への移籍。JFA・Jリーグ特別指定選手として登録された2010シーズンを含めて6年間、喜怒哀楽とともに注いできた熱い情熱を胸に秘めながら、さらに成長することで恩返しとしたいと、永木は慣れ親しんだ湘南から新天地を求めた。

「自分のベースは湘南で培われた。そして鹿島でしか得られないものがある。それはポゼッションであり、ボランチとしてゲームを読む力であり、勝者のメンタリティーだと思っている。特に勝者のメンタリティーは(試合に絡んでいない)現在でもすでに感じるほどなので、これから先はもっと大きくなってくる。自分としてもすごく楽しみだし、そうした経験も生かしながら代表へつなげていきたい」

 底知れぬスタミナで攻守両面においてボールに絡み続け、昨シーズンに2発を叩き込んだ直接フリーキックを含めて、右足から正確無比な中長距離弾も放つ。他の選手とは異なる特徴を持つが、もっとも永木の身体に搭載された武器はこれらだけではない。

 選手たちに対して口を酸っぱくしながらハリルホジッチ監督が常に要求している“デュエル”。一対一の攻防を示すフランス語を最も熱く、激しくピッチで体現するJリーガーの一人が彼である。

 中学生時代から永木を指導してきた湘南の曹監督は、「プレーには人間性が表れる」とよく言う。悲願のJ1残留を決めた昨秋のアウェイFC東京戦。1点リードで迎えた後半終了間際に、攣った足を必死の形相で動ける状態に戻し、まさに執念で守備に戻る永木の姿に、指揮官の涙腺はたまらず決壊してしまった。

 見ている者の心を思わず震わせる魂のハードワーク。遅咲きのダイナモが放つ“熱”に魅せられたからこそ、ハリルホジッチ監督も昨シーズンの段階から永木をリストに加えてきたのだろう。

 そして追加招集ながらチャンスを得た今、永木の心には「今回を最後にしない」という決意にも似た思いが膨らんでいる。

「ハリルホジッチ監督からは『今シーズンの湘南の内容もいいぞ』と言われました。自分を育ててくれたクラブだからやはりうれしいし、代表に選ばれ続けることで恩返ししたいという思いもある。鹿島へ帰ってからも湘南で培ったものをもっともっと出していかないといけないですね」

 指揮官が今シーズンのベルマーレにまで言及したのは、新天地でもっと頑張れという檄も込められているのだろう。宮崎キャンプで右太ももに肉離れを起こした影響で出遅れていた永木だが、5日の明治安田生命J1リーグ第2節、サガン鳥栖とのホーム開幕戦で途中出場。鹿島でのデビューを果たし、遅ればせながらスタートラインに立った。

 百戦錬磨のベテラン小笠原満男、次代を担う柴崎岳とボランチに強力なライバルが立ちふさがる状況こそが、永木が追い求めてきた“自らをさらに成長させられる環境”となる。

「満男さんの存在感というか、ポジショニングが的確でコーチングもすごい。いろいろな経験を積んできた選手なので、勉強することはたくさんあります。岳も落ち着いているし、技術があって視野が広い。自分と似たプレースタイルではないですけど、同じボランチとして尊敬していますし、いいところをインプットしながらプレーしています」

 鹿島で永木に与えられた背番号は、湘南時代と同じ「6」。クラブのレジェンドである本田泰人氏、中田浩二氏の象徴である背番号に自分の色を加えていくことで、鹿島で、そして2年後のワールドカップ・ロシア大会を目指すハリルジャパンで、確固たる居場所を築いていく。

文=藤江直人

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