再始動した日本代表。ハリルホジッチ監督は細かい守備戦術を確認した [写真]=野口岳彦
2016年最初の日本代表活動となる国内組候補合宿が7日に千葉県内でスタートした。前日のJリーグで負傷した六反勇治(ベガルタ仙台)を除く25人がまず宿舎に集合。昼食と体脂肪率計測の後、夕方からのトレーニングに姿を現した。恒例の練習前のミーティングでは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が今回も身振り手振りで熱っぽく全員に語り掛けた。
「今日は2組に分かれて、一方はフィジカルテストを行う。そしてゾーンプレスの確認をする。湘南(ベルマーレ)や川崎(フロンターレ)も時々やるが、A代表は全く違うやり方をする。それを3日間で理解してほしい。私が就任して2年目。今年からA代表も2段階目に入った。ただ、私の我慢にも限界がある。全員でしっかりやっていこう」と指揮官はあえて危機感を煽るような言い方で選手たちを力強く鼓舞した。宇佐美貴史(ガンバ大阪)も「去年は途中出場が多かったけど、スタートから出て勝利に貢献する役割を任せられるように、危機感を持ってやりたい」と語気を強めていた。
練習はハリルホジッチ監督の言うように、前日の試合に先発出場した槙野智章(浦和レッズ)や森重真人(FC東京)らフィールドプレーヤー10人がクールダウン、西川周作(浦和)らGK3人と柴崎岳(鹿島アントラーズ)らフィールド10人がフィジカルテストを実施。負傷の金崎夢生(鹿島)は別メニュー調整となった。米本拓司(FC東京)もケガで欠席。最終的にこの日夜に離脱し、永木亮太(鹿島)が追加招集されることになった。これまでもケガで代表入りのチャンスを逃してきた米本は今回もまた同じ事態に陥ってしまった。
フィジカルテストが終了した1時間後の時点で練習も一区切りになると思われたが、熱血指揮官がそんなに甘いはずがなかった。24人の選手をピッチ上に集めてボールを使ったサーキットトレーニングをさせ、さらにはハーフコートでゲーム形式での守備戦術確認まで踏み込んだのだ。守備側はボールの動きに合わせて、25×25メートル四方のブロックを動かさずにスライドさせるという形を繰り返す。「コンパクトにしよう」という声が飛びかうなど、公式戦翌日の練習とは思えないほど白熱していた。槙野が「たぶん初めてじゃないかな。(ハリルホジッチ監督が)こういう意識づけのトレーニングをやったのは」と言うほど、細かいディテールにこだわったメニューが30分続き、その後の体幹強化も含めて合計2時間の長時間練習がようやく終了の時を迎えることになった。
指揮官が「今日から第2段階だ」と強調した最初の具体例が、自身が「ゾーンプレス」という言葉で表現したコンパクトなプレッシングだ。「前からボールを奪いに行きたいと監督も言っている。チームとしてコンパクトに行く時は行くし、下がる時もコンパクトにするところなんで、スキを作らない、穴をあけない守備を目指しているんだと思います」と守備陣のリーダーの1人である森重が説明した通り、いかに連動して組織的かつ強固なブロックを作りながら、高い位置でボールを奪うかが肝心なのだ。ブロックの距離感は相手の実力や出方によっても変わるが、一発のサイドチェンジやロングパスでカウンターにさらされる危険性も高く、完成への道は容易ではない。
湘南でプレッシングサッカーを長年、体現してきた遠藤航(浦和)は「日本サッカーのプレッシングのかけ方やゾーンの作り方がヨーロッパに比べたら全然物足りないという話はしていました。コンパクトな守備を成功させるためには、走力はもちろんく距離感も大事。コンパクトにしないで100メートル(自陣に)帰る方がきついだろって話もあったから。奪われた後もすぐに奪い返して攻撃に転じるようなことも求められると思う」とハリルホジッチ監督の言わんとするところを分かりやすく説明してくれた。
国内組が欧州組より先にこの基本戦術を理解し、ピッチ上で表現できるようになれば、これまでの日本代表欧州組至上主義的な傾向も変わるかもしれない。昌子源(鹿島)も「海外組のいない今が国内組にとってはチャンス。しっかりアピールしていく時だと思います」とこの合宿の重要性を今一度、強調していた。
彼らには8日、9日で3回のトレーニングが用意されているが、その限られた時間をいかに有効に生かすかが、今後の代表生き残りのカギになる。ハリルホジッチ監督の要求に答えられるのは果たして誰なのか。第2段階の最初の関門で、選手たちはインテリジェンスと実践力が問われる。
文=元川悦子
By 元川悦子