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川島永嗣、空白の6カ月を語る「日本代表が心の支えになっていた」

2015.12.10

川崎のクラブハウスで取材に応じたGK川島永嗣

 師走とは思えない穏やかな快晴に恵まれた川崎フロンターレの麻生グラウンド。スコティッシュ・プレミアシップのダンディー・U入りが間近に迫った川島永嗣が、古巣の仲間とともにトレーニングに精を出していた。

 9日の練習後、クラブハウスで声を掛けると、32歳の守護神は「久しぶりですね」と爽やかな笑顔で応えてくれた。その表情は約半年間の流浪の日々から解放された清々しさ、そして未来への希望を強く感じさせていた。

 所属クラブが決まらない日々――。これまでの人生になかった苦悩の半年間を川島がしみじみと振り返ってくれた。

「7月半ばに日本を出て、9月上旬まではイタリアのノヴァーラにいました。その後、別のチームに決まりそうだったので、フランスやオランダに行ってベルギーに戻り、10月の半ばからは(プレミアリーグの)レスターの練習に2週間参加しました。ちょうどオカ(岡崎慎司)が11月の日本代表遠征(シンガポール、カンボジア)に出る前までいましたね。その後、スコットランドに行って、ようやくクラブが決まった感じです。家族を4カ月以上も日本に置いたまま、2カ月半ほどホテル暮らしをしていましたけど、正直、ホントに大変でした。その間、いろいろなクラブに行きましたけど、『練習参加しながら(取るかどうか)見る』と言われれば期待感も生まれるし、行けるんじゃないかって気持ちにもなる。でも、それが次の日にはうまくいかなくなったりする。一日一日状況が変わるんで、精神的にはかなり難しかったですね。スタンダール(リエージュ)から延長の話をもらったのを断って踏み出したんで、それなりの覚悟を持って夏に日本を出たつもりだったけど、ここまで長引くとは想像していなかった。(移籍マーケットが再び開く)1月まで待たなければいけないのかなと腹をくくった部分もありました。自分の気持ちが試される時間はかなり長かったと思います」

 11月初旬にはダンディー・U入りが明らかになり、クラブ側も獲得を認めたが、英国の労働許可証発行が遅れ、新天地移籍がとん挫するのではないかという見方もあった。2010年の南アフリカ・ワールドカップ直後からベルギーで暮らし、物事が思うように進まない異国生活に慣れていた川島といえども、不安は尽きなかったことだろう。

 それでも「ダンディーは小さなクラブで今までヨーロッパ以外から選手を取ったことがなくて、手続きに手間取ったんだと思います。自分としてはそれまでも長い時間を費やしてきたし、もう心配してもしょうがないと考えて待つしかなかった」と強じんな精神力でじっと耐え続け、12月上旬にやっとビザ発給のメドが立つに至った。

 その一方でうれしいニュースもあった。今月3日に長男が誕生したのだ。労働許可書発行手続きの関係で出産には立ち会えなかったが、川島はクラブ側と相談の上、愛息に会うべく一時帰国。まだ正式にビザが出たわけではないものの、今週いっぱいは現地と連絡を取りつつ、生まれたばかりの我が子との時間を楽しみながら、「戻ってくるたびに自分の家のように感じる」という川崎の練習場でトレーニングを続けることにしている。

「子供は男の子で、体重は3200グラム。とにかくかわいいですね。サッカーは本人が希望すればですけど、もしやりたいって言ったらGKじゃなくてFWにさせます(笑)。親としてはGKを見てるのが辛いですから、(大久保)嘉人みたいなストライカーがいいですよね」と早くも親バカの一端をのぞかせたが、それだけうれしい証拠。“新米パパ”は家族のためにも新天地での成功を誓っている。

 移籍が確実になっているダンディー・Uは目下、スコティッシュ・プレミアシップでダントツの最下位。2部降格の危機に瀕している。クラブとしても守備テコ入れのために日本代表経験豊富な男に白羽の矢を立てたのは間違いない。川島は救世主としての役割を担っているのだ。

「ダンディーは若い選手が多くて、『経験のある選手が欲しい』という監督の意向もあったと思います。僕自身、ベルギーで5年間やってきて、何か還元できることはあるだろうし、そういう環境でチームに何を与えられるかという新たなチャレンジにもなる。『ここだったら新しい挑戦ができる』というのは強く感じましたね。チームに合流して、いつから試合に出られるかは分からないですが、これまでは自分は練習しかすることがなかった。ただひたすら朝も午後も一人でトレーニングしてきたので、身体のコンディションは全く問題ない。自分が今まで積み重ねてきたものも簡単に消えるものではないと思います。ここからは試合をする体やコンディションは整えていかないといけない。今の僕は試合もそうだし、サッカーにも飢えている。早くやりたいという気持ちがすごく強い」と早期デビューへの強い意気込みものぞかせた。

 もちろん、その先には日本代表復帰も見据えている。6月に行われた2018 FIFAワールドカップロシア アジア2次予選のシンガポール戦(埼玉)以降は代表チームを離れているが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はメンバー発表会見のたびに彼の名前を口にし、その動向を気にしていた。川島も指揮官からの期待をひしひしと感じていたのだろう。「監督には状況説明を入れていました」とコミュニケーションをしっかり取り続けていた。

「監督が自分のことを気にしてくれるのは非常にうれしいこと。この半年間、日本代表が自分の中で支えになっていた部分はあるし、(スタンダールを出たのは)ロシアに向けてさらに何ができるのかを考えた上での決断だった。代表は呼ばれるのが当たり前の場所ではないし、選手一人ひとりが勝ち取っていくものだと思う。今後、呼ばれる保証はないという覚悟を持って決断しました。だからこそ、もう一度日本代表に戻れるように努力しなければいけない。自分がこの先、ピッチの上でどういうものを見せられるかが重要になっていくと思います」

 川島が日本代表から離れていた半年間には、遠藤航湘南ベルマーレ)や南野拓実(ザルツブルク)ら若手かの新顔が加わったものの、依然として軸を担うのは長谷部誠(フランクフルト)、本田圭佑ミラン)、岡崎といった経験豊富な選手たちだ。ハリルホジッチ監督も日本サッカー協会の霜田正浩技術委員長もチーム若返りを意識しているものの、シナリオどおりには進んでいないのが実情と言える。川島もその現状を外から冷静な視点で見つめている。

「今は代表チームに入っていないし、どういう雰囲気なのか分からないですけど、若手のポテンシャルは非常に高い。そこにプラスアルファが加われば、もっと良くなると思う。もしかしたら若手にとってベテランの壁は今まで以上に大きく見えるかもしれないけど、彼らは若いがゆえに失うものがない。思い切ってチャレンジできると思います。それに今は日本がもう一度世界で勝っていくために非常に大事な時期。若手だけじゃなくて選手一人ひとりが、そしてサッカー界全体が『その基準』を考え直す必要があるんじゃないかと思います」

 世界で数々の修羅場をくぐってきた男の発言はやはり重い。こういう選手がピッチ上で輝きを取り戻し、大きな刺激を与えてくれれば、停滞感の漂う日本サッカー界も再び活性化されるだろう。空白の半年間を乗り越え、彼は北海に面する人口14万人の美しく小さな町・ダンディーで新たな一歩を踏み出す。家探しもこれからで、しばらくは家族と離れた生活が続くが、ストイックな守護神なら必ずブランクを埋められるはずだ。2016年、川島永嗣の復活劇がいよいよ幕を開ける。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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