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アギーレとオシムの類似点…受け継がれる「日本代表の“日本化”」への試み

2014.10.31

2006年から日本代表を率いたオシム氏(左)と現日本代表監督のアギーレ氏(右) [写真]=Getty Images

 2015年1月に開催されるアジアカップで、日本代表は大会最多記録を更新する5度目の優勝、そして2度目の大会連覇を目指し、オーストラリアでの大会に臨む。

 アルベルト・ザッケローニ監督の後任として、日本代表の新監督に就任したハビエル・アギーレは、初戦となった9月のウルグアイ戦前日会見で、「選手を試すことと勝つことは両立するのか」という質問に対し、「それが代表監督の仕事です。選手を試しながら勝たないといけない。それが私の仕事になります」と答えた。代表チームは限られた時間で結果を出さなければならないし、常に新陳代謝も迫られる。その難しさを、メキシコ代表の監督として二度のワールドカップに出場し、熟知しているからこそのコメントである。

 アギーレ監督の就任に際し、記者からは懐疑的な質問が相次いだ。4年前は岡田武史監督が南アフリカ・ワールドカップでベスト16に進出した。そのあとを引き継いだザッケローニ監督は、セリエAで優勝を果たすなどクラブチームの実績は十分だっただけに、ワールドカップ予選突破はもちろん、ベスト8進出の期待も膨らんだ。歓迎ムードでの監督就任だった。

 しかし結果はグループステージで敗退した。そこでアギーレ監督には、世界との差やブラジル・ワールドカップで勝てなかった理由、日本人には何が欠けているかといった質問が飛んだ。4年前とは大きな違いである。それでも経験豊富な指揮官は、自信にあふれた態度で受け答えした。

「守りも攻めもできる、バランスの取れた選手、攻守両面をこなせる選手が必要だと考えている。特に守備ができるのは重要だ。ボールを奪って、それをできるだけ的確に扱いながら攻めていく。本当の意味で守るのは、守備陣だけの話ではなく、FWにもMFにも同じことを求めたい。相手からボールを奪い、その試合で目指すことに貢献する。GKもFWも含めて11人全員が守って攻められるチームを目指す」

 まずは守備をしっかり構築すること。そのためのキーワードとして「『コミットメント』すること(責任を全うすること)」を掲げた。それは初戦のウルグアイ戦で早くも発揮された。ボールポゼッションにこだわるのではなく、時と場合によっては前線へロングボールを入れる。

「相手チームのプレッシャーがかかっている状況で余計なプレーをしてはいけない。皆川がいるので、プレッシャーのかかっている状況ではそこに入れるようにした。毎回、同じプレーだと相手に読まれることもある。つなぐ場面と長いボールを入れる場面と両方があった試合だった」

 ウルグアイ戦では初招集の長身FW皆川佑介(サンフレッチェ広島)にロングボールを入れ、そのこぼれ球を細貝萌(ヘルタ・ベルリン)、本田圭佑(ミラン)、岡崎慎司(マインツ)、田中順也(スポルティング)らが囲い込んで奪ったり、カウンターを回避したりするプレスを見せた。そしてベネズエラ戦では岡崎の競ったこぼれ球を武藤嘉紀(FC東京)が拾ってドリブル突破から同点ゴールを決めた。これまでの日本にない得点パターンだった。

 ウルグアイ戦はサプライズ招集の坂井達弥(サガン鳥栖)のトラップミスから先制され、酒井宏樹(ハノーファー)のクリアミスで追加点を奪われ0-2で敗れた。続くベネズエラ戦でも水本裕貴(広島)のパスミスとGK川島永嗣(スタンダール・リエージュ)のキャッチミスから2点を許し、2-2のドローに終わった。それでもアギーレは試合後の会見で笑顔を見せていた。

「ミスもサッカーのうち。(ミスの)一番の責任者は私だ。ミスがあっても選手の判断したことは尊重している」

 そう語りながら、収穫も口にした。

「新しい代表が良いプレーをして結果を残した(武藤と柴崎岳〈鹿島アントラーズ〉の代表初ゴール)。良かったのは新しい血が注入されたこと。それは将来があるということだ」

 こうした受け答えにはベテラン監督だけに余裕を感じた一方、2006年から日本代表を指揮したイビチャ・オシムに通じるものも覚えた。

「私は日本の選手たちに枠から飛び出して自分のプレーを自由にしてくれと言った。ある形は与えるが、発展させるのは選手だ。ピッチ内で選手が考えながらやっていくもの。ピッチ内で考え、判断することを選手に求めていく」

 それがアギーレ流の指導ベースになるのだろう。ロングボールを入れ、それを拾うスタイルは歴代監督でも初めてだが、そのための運動量を求めたのはオシムに通じる。前線からの守備とショートカウンターはハンス・オフトやアルベルト・ザッケローニの指導と類似点がある。いずれも日本人の抱えるフィジカルという弱点を補い、世界と戦うためのメソッドだった。

 オシムは5色のビブスを使った練習がトレードマークだったが、アギーレもオシム同様5色のビブスを使った戦術練習を採り入れている。両者に共通しているのはそれだけではない。アギーレは「Jリーグの強化が代表の強化につながる」と、国内組をベースにチーム作りをスタートさせ、それまで一度も代表に呼ばれたことのない選手を発掘している。オシムは「日本代表の“日本化”」を試みたものの、残念ながら道半ばにして病に倒れた。この流れを受け継ぐのがアギーレと言っていい。

文=六川亨

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