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武藤嘉紀、強烈なまでの努力が生み出した必然の日本代表初ゴール

2014.09.12

武藤の代表初得点は、持ち味が凝縮されていた [写真]=兼子愼一郎

 ベネズエラ代表戦後のミックスゾーン。幾重もの人垣の先で、武藤嘉紀が矢継早の質問を受けている。わずか半年前にプロの扉を叩いたルーキーは、ハビエル・アギーレ体制における日本代表の初ゴールを挙げたことで、一躍時の人となった。

 現役慶大生という姿やFC東京U-18時代にトップ昇格の誘いを自信のなさから断った過去は、広く知れ渡った。端正な顔立ちも相まって、まさにシンデレラ・ボーイの如く飛躍を遂げている。

 ただ、「決めちゃったんだという感じ」との初々しい言葉とは裏腹に、得点は武藤の武器が凝縮されていた。

 後半から投入されて6分後。岡崎慎司と相手DFの競り合いからこぼれたボールを中盤で拾うと、一気にスピードを上げる。後方からファウルまがいのタックルを跳ね除けると、右足でゴール正面に持ち出し、豪快に左足を振り抜いた。

 一連の動きで目立つのはスピード溢れるドリブルだが、デビュー戦だったウルグアイ代表戦を経て、「ドリブルや緩急で相手を抜くことは世界と戦っても通用する」と手応えを得ていた。次にロベルト・ロサレスのタックルを振り切り突進する身体の強さだが、プロで活躍するためにと、大学時代に精力的に取り組んだ筋力トレーニングの成果が見て取れる。

 フィニッシュに関しても、「とにかく(ボールを)ふかさないことを意識して、速く低い弾道を狙ってやっています。中断期間に(所属するFC東京の指揮官である)フィッカデンティ監督からずっとアドバイスされていた」ということに加え、「Jリーグの前半戦でかなりシュートを外してきたので、シュート練習を毎日かかさずにやってきたことが実を結んだのではないかな」と明かしている。 

 もう一つ挙げるのであれば、所謂“ゾーン”に入っていたのではないか。

 サッカーに限らずあらゆる競技のアスリートが極限の集中に達した状態を示すが、「時が止まったという感じ」と、ゴールの瞬間を振り返る武藤の言葉が興味深い。

「あまりスタジアムの歓声は聞こえなくて。入った後も歓声はあまり聞こえなかったです。今まで経験したことがない感覚ですね。シュートは入ったところくらいしか見えなくて、弾道がすべて見えたというより、吸い込まれたところくらいです。やっぱりすごく集中していたんですかね」

 強烈な努力を下地に、決まるべくして決まったとも言えるが、彼の笑顔が苦労をすっかり覆い隠してしまっているようである。いずれにせよ、注目は過熱の一途を辿るだろう。熱狂の渦に巻き込まれることでパフォーマンスに影響を及ぼす可能性も懸念されるが、武藤に関しては杞憂なのかもしれない。

「生活や取り上げられ方がガラッと変わった」というプロでの半年間だが、「今、こうやって注目して頂いていることを、プラスの力に変えていきたい」とも語る。熱気が充満したミックスゾーンで、記者一人ひとりの質問に体の向きまで変えて丁寧に答える対応は、選手が全員通り過ぎて広報担当者に終了を促されるまで続いた。


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