ファンの声援に応える遠藤 [写真]=Getty Images
全世界で人気のサッカーゲーム『FIFA 23』に3月からアメリカのナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ(NWSL)が、選手含めて実名で実装されることになった。
なでしこジャパンMF遠藤純は2022シーズンから、そのNWSLに所属するエンジェル・シティFCでプレーしているが、ゲーム登場に際し、今回はアメリカでの生活やリーグ環境、自身の変化などについて聞いた。
インタビュー=小松春生
―――アメリカでの1年目が終わっての手応えはいかがでしたか?
遠藤 昨シーズン通して、積極的なプレーが増え、それが大きく評価されたことはすごく良かったですし、その積極性などは日本代表でも常に出し続けなければいけないなと改めて感じました。
―――昨シーズンは1ゴール3アシストでした。数字的な部分はいかがでしょう。
遠藤 攻撃の選手として、すごく少ないと思います。初めてのシーズン、初めてのアメリカでしたし、チームもNWSLに参加する初めてシーズンで、チームのやり方も定まらない中、リーグが終わってしまいました。今シーズンは反省を生かしてチームとしても、自分自身も変わってきていると感じるので、昨シーズンよりもいいスコアを取りたいです。
―――「変わってきている」というのは環境やピッチにも慣れ、遠藤選手自身の良さを出せる気配があるし、チームメイトとの連動も充実してきた感覚があるからですか?
遠藤 チームメイトとピッチで話すことや、練習後のロッカールームで喋ることが増えました。より自分の意見を伝えることや、チームメイトの意見を聞いて、それをトライすることが増えたので、自分のプレーに、より自信を持てるようになったし、そこがチームとしても変わってきているところだと思います。
―――日本でプレーしているときから積極的に仕掛けるスタイルでしたが、アメリカに移籍し、「もっと積極的にいかないといけない」と感じることもあったでしょうし、「状況を判断してプレーできる日本人の特性」を生かす心掛けをした部分もあると思います。
遠藤 どちらもおっしゃる通りです。全体を見ながらプレーすることはすごく増えました。日本ではコレクティブに戦うことがベースとしてあり、自然と組織的にプレーできていましたが、アメリカでは日本人は自分ひとりですし、全体でのプレーをむしろ意識するようになりました。一方で、ペナルティエリア内では「絶対に自分で行く」という選手が多いので、その積極性は自分も持っていましたが、そういう気持ちが強い選手がたくさんいるからこと、自分もより積極的になれたと感じます。
―――プレー面でフィフティな場面であれば、積極的に仕掛ける選択が増えましたか?
遠藤 フィフティのときは迷いなく打つことが増えました。1対1の局面でも今までは後ろや100%フリーな選手にパスしていましたけど、特にサイドの攻撃ではパスより自分でゴールに向かって仕掛ける選択肢が、パッと出てくるところは変わりました。
―――メンタル面での変化はいかがでしょう。
遠藤 今は少しずつコミュニケーションできるようになりましたが、英語を流暢に話せるわけではないので、最初は一人で時間を過ごして、チームメイトともなかなか話しませんでした。でも、そういうところでもチャレンジしていきたいと感じて、積極的なコミュニケーションをすることがきっかけで自分のプレースタイルも、さらに自信が持てるようになりましたし、メンタル的に前向きになったと感じます。
―――ご自身のSNSの投稿では日本時代はチームや日本代表のことを投稿していましたが、アメリカ移籍後はチームメイトとのプライベートや個人トレーニングに関してなど、パーソナルな投稿も増えました。そのあたりにも変化を感じます。
遠藤 自分が好きなことは日本から変わっていませんが、それをSNSで発信する頻度はかなり増えました。自分自身をより知ってもらうこともそうですし、プライベートで何をしているのか、アメリカに来てからよく言われたりもするので、すべてではないですが、私生活でも何でもオープンにできるように過ごしたいと思っています。
―――アメリカのファンやチームメイトの影響がかなり大きいと。
遠藤 チームメイトはオンもオフも載せていて、見ている自分もすごく楽しくて、それで自分もやってみたいと思いました。日本にいたときもそうだったんですけど、文化などは日本とアメリカでまったく違いますし、その文化や場に応じて、ということを常に心掛けてきました。その中でアメリカに来てから、さらに自分の素を出せるようになり、サッカーでもプライベートでも、常に自分らしく、素を出せるようになったので、そこが大きな違いですね。
―――プロスポーツ選手の振る舞いやプロスポーツの捉え方で日本とアメリカの違いは感じますか?
遠藤 試合に見に来るお客さんの数や、そのチームのファンの数が圧倒的に違います。日本では何千人、何百人という試合もありますが、アメリカに来ての初戦は2万人入って、一気に何倍にもなりました。その中でプレーして実感しましたし、プレーする側もプロとしての自覚が常に高く、どんな状況でも自分を主張しますし、ファンとの距離もグッと近く感じます。
―――プロとして自分の居場所を確保するという点でプロフェッショナリズムを感じると。
遠藤 そうです。あとはチーム主催イベントで、どこかに出向いて子どもたちと一緒にサッカーをすることが一番ですね。日本でもサッカー教室などはありますが、アメリカでは週に何回と開催され、そこで子どもたちが選手と近づけることで、「サッカー選手」という職業が子どもたちの夢、目標になるんだなと思います。
―――逆に日本の良さを感じたところは?
遠藤 オン・ザ・ピッチでは、組織的にボールを後ろから繋いでゴールを決めることですね。アメリカでは日本に比べてスピードのある選手が多く、その特長を生かすために、後からどんどん蹴って走るスタイルが根付いています。私としてはもっと繋いでほしい、蹴らずに繋げば前に行けると感じるシーンでも蹴ってしまうので、そこは日本の良さですし、日本サッカーの特長、ストロングポイントですね。
―――少しゲームについてもうかがえればと思います。『FIFA』シリーズをかなりやっているとうかがいました。
遠藤 はい!最近は毎日やっています。実はこちらで犬を飼っていて、ゲーム機を壊されてしまい(笑)、そこで一度離れたんですけど、最近また新しく買い、そこから馬鹿みたいにやっています。家族にお兄ちゃん2人、お姉ちゃん1人いるんですけど、お兄ちゃんが昔からやっていたので、自分でもやり始めました。
―――昔からやってきたゲームに自分が実装されることはいかがですか?
遠藤 不思議な感覚ですね。すごく面白いと思いますし、それこそお兄ちゃんが「ゲームに妹が出る」と驚いて騒いでいたみたいで、そういうのを見ると、やっぱりゲームに登場できることは、すごいことなんだなと改めて感じました。
―――レーティングでペースが「88」とかなり高いですが、評価としては?
遠藤 「そんなに高いんだ」と正直、思いました。日本においてはスピードがストロングであると思いますが、アメリカに来てからは、自分以上に速い選手がたくさんいるので、そう感じなくなって。だからこそ日本でやっているコレクティブなサッカー、DFとFWのラインをうまくつなげるために、どこのポジションを取ったらいいかなどを、すごく考えるようになりました。そこからむしろスピードより、組織的にボールを動かすことがアメリカでのストロングポイントになったので、日本での積み重ねも良かったと思っています。
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長