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【特別対談】籾木結花×吉田亜沙美「私たちに必要なのは結果」

2019.06.04

 取材部屋に入ると、籾木結花がニヤニヤしながら携帯で動画を見ている。これから現れる対談相手のプレーを確認していたらしい。

 この夏、フランスで女子ワールドカップが開催される。なでしこジャパンへの関心が高まるタイミングで、女子サッカーをアピールできないか? 籾木のそんな思いから、今回の対談が実現した。

 慶應義塾大学でスポーツビジネスを学んだ彼女は、所属する日テレ・ベレーザで「5000人満員プロジェクト」を掲げて集客のプロデュースをしたり、参加体験型のイベントを企画したりと、積極的に女子サッカーを発信している。

 今回、彼女が対談相手としてリクエストしたのは、現役引退を発表したばかりの元バスケットボール女子日本代表、吉田亜沙美だった。「女子サッカーと女子バスケって環境が似ていると思う。現状をどう思っていて、普及のためにどんな取り組みをしているのかを知りたい」

 進行役がいらないくらい、籾木が次から次へと質問をぶつけていく。徐々に打ち解けていった二人の会話からは、スポーツに注ぐ情熱が伝わってきた。
(※取材は2019年4月下旬)

籾木結花

対談中、吉田は小柄な籾木を見ながら「かわいい」と何度も言っていた [写真]=野口岳彦

――お二人とも少し緊張しているように感じるので、まずはお互いの印象を聞いてみましょうか。

籾木結花(以下、籾木) 本当に勝手なイメージですけど、私とプレースタイルが似ているなあって。バスケットボール界で、吉田さんは背が高いほうではないですよね? 自分よりも大きい選手の間をドリブルで抜けて行ったり、マークを剥がしながらシュートを打ったりするプレーが、競技は違うけど似ていると思いました。

――吉田さんはいかがですか?

吉田亜沙美(以下、吉田) 普段、私よりも身長が低い人はなかなかいないから、すごくかわいいなあと思って(笑)。何センチですか?

籾木 153センチです。なでしこジャパンの中でも飛び抜けて小さいです。

吉田 かわいい〜!

籾木 (照れ笑い)。えっと、今日は吉田さんにたくさん聞きたいことがあるんです。

吉田 なんだろう。怖いな(笑)。

籾木 まず、バスケのプレースタイルは国によってどう違うんですか?

吉田 アメリカ、オーストラリア、スペイン、中国などは高さを武器にしたプレーが多いです。だから身長が低い日本人はスピードで勝負するしかない。積極的にスリーポイントを狙うのも作戦の一つです。どう頑張っても身長では勝てないので、スピードと遠い場所からのシュートで勝負しています。

籾木 バスケはコートが小さいから、動きも試合展開もスピーディですよね。

吉田 でも足を使ってプレーするほうが大変だと思いますよ。あんな起用に足でドリブルできない(笑)。

籾木 私は手のほうが難しいです(笑)。

吉田 海外のチームと対戦すると、フィジカルが強い選手に吹っ飛ばされることがあります。ここ数年で日本が重点的に強化したのは、相手を抜く瞬間のスピードです。サッカーも相手とぶつかり合うことってありますよね?

籾木 あります。手で押し合ったりとか。

吉田 私だったらキレます(笑)。

籾木 (笑)。吉田さんは司令塔(ポイントガード)のポジションでしたけど、試合の流れを変えたいときはどういうことを意識していましたか?

吉田 いい流れのときは、守備が安定しています。だからちょっとでも流れが悪いときは、マークの仕方や体の寄せ方など守備を修正していました。それと調子がいい選手に積極的にボールを集めてシュートを打たせる。試合時間が進むにつれて乗ってくる選手もいるので、そういう変化を見逃さないようにしていました。

吉田亜沙美

2016年に念願のリオ五輪に出場。ベスト8という好成績を残した [写真]=Getty Images

籾木 24秒以内にシュートを打たないといけないルールって、大変じゃないですか? きっとゴールまでの過程を逆算して組み立てていると思うんです。それを試合の中で何度も繰り返している。それってすごいことですよね。特に司令塔は瞬時に判断することが求められるだろうし、頭をフル回転させないといけないと思います。

吉田 24秒ルールになる前は、30秒だったんですよ。その6秒の差がすごく大きくて、慣れるまでは練習で何度もシミュレーションしました。「ここまで持って行くのに何秒かかる」とか、「ここからフォーメーションを組んだら何秒だな」とか。他のプレーヤーは司令塔の指示で動くから、どう判断して、どう伝えるかがすごく大事なんです。

籾木 その判断に迷いはないんですか?

吉田 ないですね。迷っている時間がないと言ったほうがいいかもしれません。

緊張とどう向き合うか

籾木 吉田さんって試合前にあまり緊張しないイメージですけど(笑)、実際はどうですか?

吉田 よくそう言われます。でも、めっちゃします!(笑)。代表戦のときは前日から緊張して眠れないし、気持ち悪くなってご飯も食べられない。めちゃくちゃ小心者です(笑)。

籾木 えー、そうは見えない(笑)。自分がゴールを決めてやる!っていう感じでプレーされているじゃないですか。

籾木結花

吉田 試合前は誰とも話しません。チームメートもそれを分かっているから話しかけてこないですね。

籾木 じゃあ、緊張しているなかで、何を考えながらシュートを打っているんですか?

吉田 あ、試合が始まってしまえば大丈夫なんですよ。でも実業団に入ったばかりの頃は緊張で自分のプレーができなくて……。それが2、3年くらい続きました。だから緊張することはいつものルーティンなんだと考えるようにしたんです。それからは緊張に慣れたというか、「あ、これはいつもの自分だな」と思ってプレーできるようになりました。

籾木 最近、なでしこジャパンのメンタルトレーニングで「緊張することは決して悪いことではない」と教わりました。全ての感情に間違いはなくて、その感情をどう受け入れて、どうアプローチするかが重要だと。だから緊張を受け入れて、世界で結果を残されている吉田さんはメンタルコントロールがうまいんだと思います。

吉田 いやいや、緊張ってめんどくさいですよ? 籾木さんは緊張しますか?

籾木 全くしないんですよ(笑)。ワクワクしている間に試合が終わっちゃう(笑)。ちょっとは緊張したほうがいいかなって思うくらい。

吉田 いや、そんなことないと思います(笑)。

吉田亜沙美

結果を出すしかない

籾木 最後に1番聞きたかった質問をしてもいいですか?

吉田 どうぞ。

籾木 バスケもサッカーも、男子より女子のほうが結果を残しているじゃないですか? でも、男子のほうが注目されるという現状がある。確かにパワーやスピードでは男子サッカーに劣ります。でも女子サッカーには、女子サッカーの魅力がある。ボールを後ろから一つずつつないでゴールを目指すところは、魅力の一つだと思っています。女子バスケの魅力はどのようなところにありますか?

吉田 私たちも魅力はチームプレーです。サッカーと同じように、男子と比べて注目度が低いことに悔しさはあるけど、女子もまだ結果を残せていない。例えば、オリンピックでメダルを取ったら環境は変わるかもしれません。まずは女子バスケの楽しさを知ってもらいたい。現役時代もそういったことを意識しながら発言してきました。

籾木結花

繊細なタッチと多彩なキックが武器の籾木(左)。彼女にとってW杯は「憧れの舞台」[写真]=Getty Images

籾木 女子サッカーの魅力を発信するとき、こちらが思っている魅力と、求められている魅力とがマッチしないと感じることがあります。選手の“見た目”が分かりやすい例です。自分たちに目を向けるためには、まず表面的なところから発信しないといけないのは分かっています。でもそこにジレンマを感じてしまうというか……。一番の問題は、せっかく注目してもらっても、次につなげるアクションを起こせていないことです。こちらに目が向いているうちに、自分たちの本当の魅力を発信しないといけないのに……。女子バスケをいろいろな人に見てもらうために、具体的に取り組んでいることはありますか?

吉田 私は結果を出すしかないと思っています。リオ五輪に出たとき、こういう大舞台に当たり前に出られるようになって、なおかつ結果が出せるようになったら、周りの反応が変わるかもしれないと感じました。メダルを取るか、取れないかは本当に大きな差です。東京五輪でメダルを取るためには、リーグ全体のレベルを底上げしないといけない。個々の意識を高めて、誰が日本代表に入ってもおかしくないリーグにしないといけないと思っています。

籾木 なでしこリーグも、プロリーグではありません。1部と3部のチームが同じ環境でサッカーをしていたら、上を目指す選手はなかなか出てこないんじゃないかと思っています。それにプロではないことが、どこかで逃げ道になってしまうような気がして……。

吉田 プロは結果が出せなければ切り捨てられる。そういう環境にいれば、自然と危機感を持つようになりますよね。女子バスケも1位と最下位のチームで大きな差があって、結局いつも上位4〜6チームが優勝争いをしている。その差をどう埋めるか。例えば、アメリカはドラフト1位の選手があえて最下位のチームに入ったりするんですよ。でも日本は優れた選手が強いチームに行く。アメリカのように、それぞれのチームの実力を同じくらいにしたら、もっとリーグがおもしろくなると思います。サッカーはどうですか?

籾木 バスケに似ています。近年は私が所属している日テレ・ベレーザとINAC神戸の2チームで優勝を争っています。アメリカの女子サッカーはリーグができた当初、代表選手を各チームに振り分けました。そういう試みはおもしろいと思います。

吉田 環境がとても似ていますね。

籾木 さっき吉田さんがおっしゃったように、女子サッカーも結果を出し続けることが大事だと思います。「サッカーを文化に」という言葉をよく聞きますけど、日本にスポーツが根づくとは考えにくい。本当はポジティブな発言をしないといけないと思うんですけど(苦笑)、そこはあまり期待できないと思っていて。じゃあ、どうすべきかと言えば、少しでも興味を持ってもらえるように結果を残すしかない。2011年にワールドカップで世界一になって、その4年後は2位になった。2大会連続でファイナリストになったけど、称えられることはないんです。前回大会で2位になったことなんて、みんな忘れている。世界一を取ったからには、もう世界一しか求められていないんだなと感じます。

籾木結花

吉田 バスケも女子代表はオリンピックにも世界選手権にも出ている。それでもなかなか取り上げられないということは、今以上の結果が求められているんだと思います。

籾木 現役を引退されましたけど、今後はどうされるんですか?

吉田 指導者を目指すつもりです。これからもバスケットボールには関わっていきますよ。

取材・文=高尾太恵子
写真=野口岳彦、ゲッティ イメージズ

籾木結花(もみき・ゆうか)
1996年4月9日、アメリカ(ニューヨーク)生まれ。2012年、高校在学時に日テレ・メニーナからベレーザにトップチーム昇格を果たし、以降中心メンバーとして活躍。各年代別代表にも選出され、2017年からなでしこジャパンに選出されている。今年6月に開催されるFIFAワールドカップフランスでは中心選手として活躍が期待される。身長153センチ。

吉田亜沙美(よしだ・あさみ)
1987年10月9日、東京都生まれ。東京成徳高校卒業後の2006年から、JOMO(現・JX-ENEOSサンフラワーズ)に所属。日本代表の司令塔として活躍し、リオ五輪出場を果たす。2019年3月に現役引退を発表。身長165センチ。

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