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なでしこ活躍の理由は“計画的な育成”の成果…協会、高校、ユースの好循環が一つの形に

2018.09.04

今夏、U-20女子W杯を制したヤングなでしこ(上)と、アジア大会を制したなでしこジャパン [写真]=(上)Getty Images、(下)ロイター/アフロ

 第18回アジア競技大会の女子サッカー決勝が8月31日に行われ、なでしこジャパンが中国女子代表を下して金メダルを獲得した。8月24日にFIFA U-20女子ワールドカップフランス2018で優勝を決めたばかりのU-20日本女子代表の活躍もあり、日本女子サッカーにおいては明るい話題が続いている。

 日本の女子サッカーは今、なぜ結果を残しているのか。年齢制限のない女子W杯、U-20女子W杯、U-17女子W杯の全世代で優勝した唯一の国となり、4月のAFCアジアカップヨルダン2018と、先のアジア大会を制覇し、なでしこジャパンが来年の女子W杯フランス2019に向けて弾みをつけた今を節目として、少し考えてみたい。

 日本の女子サッカーが結果を残せているその理由は、育成システムがうまく機能しているからと言える。

 日本サッカー協会が舵を取るJFAアカデミーは、個の育成を目的としたエリート選手を養成する機関で、男子部門も存在するが、女子部門は早くから代表選手を育成し、その成果を示してきた。

 例えばU-20日本女子代表でJFAアカデミー福島所属の高校3年生・MF遠藤純は、チーム最年少ながら大会中にレギュラーの座を掴み、優勝の立役者とも言える活躍を見せた。JFAアカデミー堺の1期生にはU-20女子W杯で大会準MVPを受賞したFW宝田沙織(セレッソ大阪堺レディース)がいる。

JFAアカデミー出身の宝田(左)と遠藤 [写真]=Getty Images

 また、アジア大会の準決勝・決勝で優勝に導く得点を決めたFW菅澤優衣香(浦和レッズレディース)は、JFAアカデミー福島の1期生だ。

 将来のなでしこジャパンのGKを発掘・育成するプロジェクトである、女子GKキャンプも、その成果が出始めている。これは選手の強化・育成の重要な時期である中学生年代前後に絞って、全国から女子GK選手を集め、JFAナショナルコーチングスタッフの指導のもと、トレーニングキャンプを行っていくもので、過去にはなでしこジャパンのGK山下杏也加(日テレ・ベレーザ)や、U-20日本女子代表のGKスタンボー華(INAC神戸レオネッサ/JFAアカデミー福島出身)も、女子GKキャンプに参加している。女子GKキャンプは年に4回ほど実施され、直近では8月31日から9月2日まで新潟県で行われている。

 日本が優勝を決めたU-20女子W杯決勝戦の後、JFAの今井純子女子委員長が、フランス・ヴァンヌの試合会場で、努めて冷静に話した。

「トレセン制度、JFAアカデミー、GKプロジェクトを経験している選手が、ここのU-20日本女子代表チームに入っており、その育成システムは確実に機能しているなと感じる。しかし、一部にそういうところを通らずにここの代表まで入った選手もいるので、そのように(選手が)育ってくることも大事なところ」

 例えばU-20女子W杯で6試合中5試合に出場したFW村岡真実(オルカ鴨川FC)は、ナショナルトレセンこそ経験しているが、それまでの世代別代表は経験せずに、今回のU-20日本女子代表にたどり着いた。彼女は、いわゆる『うまい』選手ではない。同世代の選手には村岡以上の足元の技術を持つ選手は多くいるが、他選手にはない爆発力のあるロングシュートを放てるなど、特化した武器を持っている。そんな選手がU-20女子W杯の決勝のピッチに立ったことは、非常に興味深いところだ。

U-20W杯優勝に貢献した村岡 [写真]=Getty Images

 JFAが仕掛ける育成システムに沿ってキャンプや遠征を単発で経験するだけでは、もちろん選手は育たない。所属チームで日々の練習と継続した試合出場は欠かせないところだ。なでしこジャパンの高倉麻子監督は、「代表と国内リーグは両輪」とよく口にする。

 なでしこジャパンともなると、プレナスなでしこリーグやリーグカップ、皇后杯があるために不自由はしないが、近年は育成年代の試合環境の整備が進んできた。

 2014年からはなでしこリーグ、チャレンジリーグ所属の下部組織チームが出場する、U-15なでしこアカデミーカップが始まった。これから整備が進んでいけば、U-18世代の全国リーグも実施する方向に進むだろう。

 高校の女子サッカー部においては、年末年始の全日本高等学校女子サッカー選手権大会がテレビ中継されたことにより、さらに注目度が高まっているが、夏の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)も2012年から開始された。

2017年度の全国高校女子サッカー選手権を制した藤枝順心高校 [写真]=吉田孝光

 それに伴い、高校の女子サッカー部に入部する選手が増えたことで、危機感を覚えたのがクラブチームだ。特にクラブの女子ユースチームは、これまで冬に「JOCジュニアオリンピックカップ 全日本女子ユース(U-18)サッカー選手権大会(現・JFA 全日本U-18女子サッカー選手権大会)」が、主な全国大会として存在するのみだった。しかし、それでは全国規模の真剣勝負の場が少ないために、今夏には日本の女子クラブユースチームのNo.1を決する、『日本クラブユース女子サッカー大会2018』が開催された。これは、男子の『日本クラブユースサッカー選手権大会』に相当する大会だ。

 今年のU-20日本女子代表選手を見ると、21人中14人がクラブユース出身であるため、クラブユースの試合環境整備は喫緊の課題であったし、群馬県前橋市で開催された大会出場選手に話を聞くと、やはり待望の全国大会だったと言う。遅ればせながら、クラブユースの試合環境も、いよいよいい方向に動き出した。

 ふたつの日本女子代表で明るい話題があった今夏だが、その前段階には意図的な選手育成システムがあり、もちろん選手やその周囲にいるスタッフの地道な努力があったことは言うまでもない。

 とはいえ7、8月のアメリカ遠征で、なでしこジャパンはアメリカ、ブラジル、オーストラリアと3戦して全敗していることからも分かる通り、来年の女子W杯で好成績を収められる保証はどこにもない。強化の速度と精度をさらに高めていくしかないだろう。今週末の9月8日と9日には、プレナスなでしこリーグ1部が各地で再開する。真剣勝負の連続で毎週の90分間を価値あるものにしながら、来年の夏も女子サッカーから明るい話題を聞きたい。

文=馬見新拓郎

By 馬見新拓郎

10年以上にわたり女子サッカーを追いかける気鋭のライター

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