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世界一はなでしこへと続く道…宮澤ひなた、万全ではない右足と揺れる感情を吹き飛ばした一撃

2018.08.25

先制点を決めて喜ぶ宮澤と祝福する仲間たち [写真]=Getty Images

 FIFA U-20女子ワールドカップフランス2018に出場したU-20日本女子代表は、決勝のU-20スペイン女子代表戦で3-1と勝利し、U-20女子W杯で初の優勝を決めた。

 日本は前半、スペインが持つボールを意図的に奪うことができず、プレスの位置が定まらないために、前からボールを追い込もうとしてもかわされて、ミスも誘うことができない時間が続いた。しかし、この日本にとって重い空気を変えたのが、MF宮澤ひなた(日テレ・ベレーザ)の一発だった。

 38分、左サイドのMF遠藤純(JFAアカデミー福島)から横パスを受けた宮澤は、ゴール正面でドリブルを開始。「1タッチでシュートを打とうと思ったけど、(目の前に)相手がいたので少し切り返すようにしてボールを持った」と、少し左右に移動しながら、目の前に立つスペインのMFパトリシア・ギハーロが、前に出てボールを奪いに来ないと感じた瞬間、宮澤は右足を振り抜いた。

宮澤ひなた

宮澤の右足が先制点に [写真]=Getty Images

「そこまで日本には決定機があまりなかったので、とにかくしっかり足を振ろうと思った。試合を通して、相手GKが前がかりになっていたことはしっかり見ていたから」

 前半の日本はチャンスをあまり作り出せないながらも、宮澤は目標とするスペインゴールを常に観察していた。宮澤が放ったシュートは、相手GKの右手をかすめるように、ゴール上部のゴールネットをきれいに揺らした。ピッチ上でひと通り先発選手とゴールを喜ぶと、宮澤はベンチへと駆け出す。それは宮澤が日頃から口にしている、感謝の気持ちが起こさせる行動だった。

「U-20女子W杯という舞台で、強い相手と対戦できる喜びを持ちながらプレーしなくちゃいけない。ここに来るまでにも、多くの人が私に関わってくれた。感謝をプレーで示さないといけない」と、今大会に話していた宮澤は、ベンチの面々と自身の今大会初得点を喜び合った。

宮澤ひなた

ベンチでも喜びを分かち合った [写真]=Getty Images

 宮澤は神奈川県の星槎国際高校湘南高校で、昨季のキャプテンを務めた。高校3年の夏の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)こそ、初のベスト4に導いたが、冬の全日本高等学校女子サッカー選手権大会では、3年連続で1回戦敗退。星槎国際は、関東では力をつけてきているが、全国大会という視点では、まだ新興校に分類されるだろう。

 卒業した宮澤は、プレナスなでしこリーグ1部を3連覇中の日テレに今季から加入すると、高卒の新人ながら開幕戦に途中出場し、しかも1得点1アシストの大活躍を見せる。数々のなでしこジャパン選手と肩を並べながら、確かなテクニックを持ってドリブルを仕掛け、自らの色を示した。日テレを率いる永田雅人監督も、宮澤を「変化をつけられる選手」と高く評価する。

 日テレという高いステージで半年間、技を磨いて迎えた今大会。ここでも自分の色を示すつもりだった。しかし。

宮澤ひなた

今季から日テレ・ベレーザでプレーする宮澤 [写真]=Getty Images

「試合に出場している以上、得点を取ることを目標にしていた。まず個人の目標としてはグループリーグで1点でも取って、波に乗りたかったが、(取れなかったので)焦らずにやっていこうと考えを変えた。結果的に、最後の最後で結果を残すことができたけど、正直、攻撃のポジションをやっているので、無得点では終われないという思いもあった」

 得点をしたいが、焦ってはいけない。焦ってはいけないが、やっぱり出場するからには得点は取らなければ。そんな揺れ動く宮澤の感情に、追い打ちをかけたのは、万全ではない右足の状態だった。

 宮澤は準決勝の翌日、練習場には姿を見せず、その翌日の練習は別メニューで調整した。おそらく、決勝も万全の状態ではなかっただろう。しかし、宮澤の右足から日本の先制点はもたらされ、チームは初めてU-20世代の頂点に立った。

宮澤ひなた

試合後、ロッカールームで記念撮影 [写真]=Getty Images

「優勝カップを上げた時も、優勝なんて信じられなかった。今、どういう状況なんだろう?って。U-17女子W杯は準優勝で、そこでは泣いて終わって、相手のチームに拍手をしていた記憶しかないから」

 優勝セレモニーでは、暗くなったフランス・ヴァンヌの空に、水色と黄色と青と黄緑の紙吹雪が舞うと、また、暗い部分が空を徐々に侵食していく。

「本当に自分にとって、これをスタートの大会にしないといけない。いつでもなでしこジャパンに呼んでもらえるような準備をしつつ、次はなでしこジャパンに食い込んで、そこでも自分というものをしっかり持って活躍できる選手になれるよう、帰国してからトレーニングを積みたい」

 宮澤が所属する日テレは、日本で最も過酷なポジション争いが、今日も繰り返されている。それは見方を変えれば、なでしこジャパンへの近道でもある。

取材・文=馬見新拓郎


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