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川崎Fとの上位決戦で惨敗の中、広島MF野津田が見出した希望

2022.09.12

野津田(右)と家長(左) [写真]=金田慎平

 8月3日のYBCルヴァンカップ準々決勝、横浜F・マリノス戦から公式戦8連勝という快進撃を見せ、J1、天皇杯、ルヴァン杯の全タイトルに手が届く位置につけていたサンフレッチェ広島

「(ミヒャエル・スキッベ)監督は選手を年齢で見ることはない。実際、やっていてすごく刺激がある」と35歳の柏好文も前向きにコメントしていたが、今季の彼らはチーム内でいい競争が展開され、試合をこなすごとに完成度が高まっている印象だった。


 こうした中、迎えた9月10日の川崎フロンターレとの上位対決。川崎Fは前節の湘南ベルマーレ戦を1-2で落とし、リーグ3連覇に向けて痛い黒星を喫していた。だが、この1週間は原点回帰を図りつつ、広島対策を講じる時間が持てた。そこは天皇杯準々決勝のセレッソ大阪戦から中2日で敵地に乗り込んだ彼らとの大きな違い。スキッベ監督はスタメンを大幅に入れ替えて挑む決断をした。

 過密日程の中でも序盤からアグレッシブなプレスを仕掛け、攻めの姿勢を鮮明にした広島。24分には野津田岳人の左CKに絶好調の川村拓夢が飛び込む決定機を作るなど、ゴールの匂いも感じさせた。しかし、25~30分あたりから徐々に押し込まれ、気づいてみれば完全な守勢に陥ってしまう。そして34分に名手・家長昭博の一撃を浴び、1点のリードを許すことになった。

「最初は(守備が)ハマっていた部分があったんですけど、家長選手がサイドから中央に下りてきて、そこで混乱してしまった。僕らはマンツーマン気味に行くというプランを立てた中でズラされて、相手のパスワークや空いたところを使われ、押し込まれてしまった」と野津田は苦渋の表情を浮かべた。

 その流れは後半に入ってさらに加速し、広島はさらに3ゴールを献上してしまう。終わってみれば、0-4というまさかの惨敗。かつてドイツ代表に携わり、ギリシャ代表を率いた名将も「現状では横浜FMと川崎Fは自分たちより力が上だ」と潔く認めるしかなかった。

 とりわけ、圧巻のパフォーマンスを見せたのが2得点の家長。ガンバ大阪アカデミー時代から将来を嘱望されながら、大分トリニータセレッソ大阪、マジョルカ、蔚山現代などを渡り歩き、大ケガにも苦しむという紆余曲折の20代を経て、30代で大きくブレイクしたレフティだ。偉大な先人と似たような系譜を辿ってきた野津田は、その一挙手一投足を目の当たりにして、大いに感じるところがあったようだ。

「家長選手は僕とは全然レベルが違いますけど、プレースタイルも好きだし、憧れに近い部分もあります。少し面識もあるんですけど、本当にカッコいいなと。今日はいいようにやられてしまったので、自分が違いを見せられるようにならないといけないと強く感じました。実際、チームが苦しい時にああいった存在がいるか、いないかはすごく大きい。彼のように30代になって活躍する選手も沢山いるので、僕もそうなりたいと思いました」

 28歳になった背番号7は神妙な面持ちで言う。アルビレックス新潟清水エスパルスベガルタ仙台ヴァンフォーレ甲府と期限付き移籍を繰り返しながら、ようやく広島でボランチとして地位を確立し、日本代表デビューも果たしたのだから、ここから大輪の花を咲かせなければいけない。家長との邂逅によって、野津田は自分の進むべき道を改めて明確に見据えることができたようだ。

 36歳のレフティに肩を並べるべく、野津田がやらなければいけないことはいくつもある。その1つがタイトル獲得だ。リーグ戦は2強との差が開き、やや厳しくなったものの、天皇杯とルヴァン杯はどちらも4強入りしている。ベテランの柏も「ファイナルを戦いたい」と熱望していたが、それはチーム全体の悲願。日本代表の森保一監督が率いていた黄金期に主力になり切れなかった野津田にしてみれば「自分がチームを勝たせる」という強い思いが湧き上がってきて当然だろう。

「川崎Fに負けたのは本当に悔しかったですけど、あれだけアッサリやられてしまったので、逆に清々しいというか、切り替えるしかないという気持ちになれました。このままではダメだと教えられた試合だと思うので、これを糧にして僕たちは強くなれると信じています」

 こう語気を強める技巧派レフティは、中盤の要として攻守両面でチームを動かしていく必要がある。2020・21年J1王者に圧倒的に押し込まれた事実を受け止め、いかにして自分たち主導の戦いに持ち込んでいくのか。それを具現化することが課せられた最大のタスクと言っていい。

「スキッベ監督からは、周りを見ながらやることの重要性を言われている。まずは守備の部分で全体のバランスを見たり、ポジショニングを確認したり、行くところ、行かないところをコントロールする部分を常に強調されています」と、7月のEAFF E-1選手権の際にも語っていたが、その精度を高め、攻守両面で敵を凌駕できるような強固な組織を構築することが肝要なのだ。

 そのうえで、彼自身の強烈な左足でゴールやアシストを体現できれば理想的。得点にダイレクトに絡めるボランチほど怖いものはない。そうなれるだけのポテンシャルがあるのだ。

「川崎F戦の敗戦があって強くなれたと振り返れるようにここからの時間を過ごしたい」という言葉通り、今季終盤には大きな成果を残すこと。苦労人の野津田に今、それを強く求めたい。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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