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「『僕のチーム』になるくらいが理想」…常勝軍団復活のカギを握る“新司令塔”樋口雄太

2022.05.05

鹿島アントラーズに所属する樋口雄太 [写真]=J.LEAGUE

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)組が日本離れている間、王者・川崎フロンターレをかわしてJ1首位に浮上したのが、常勝軍団復活を期す鹿島アントラーズだ。

「僕らはあくまでチャレンジャー。首位という感覚もない。目の前の一戦に勝つ、前回出た課題を修正して表現することの連続です」とエースFW上田綺世も気を引き締めて、大型連休中の連戦に挑んでいる。


 4月29日のセレッソ大阪戦を3-0で圧勝し、ホームで迎えた5月3日のジュビロ磐田戦。今季J1復帰組ながらも遠藤保仁ら百戦錬磨の面々が揃うチームに対し、鹿島は確実に勝ち点3を挙げなければならなかった。

 チーム全体が士気を高める中、中盤を着実に統率したのが、今季サガン鳥栖から加入した樋口雄太だ。開幕からリーグ11戦連続スタメンと、ダイナモ的な役割を遺憾なく発揮している。

 この日も序盤から幅広い範囲を動き回り、攻守両面に絡む姿が光った。リスタートのチャンスもたびたび巡ってきて、精度の高いキックで相手守備陣に脅威を与える。最たるものが前半29分の先制点の場面だった。背番号14の右CKがゴール前の絶妙な位置に飛び、ヘッドで合わせたのがアルトゥール・カイキ。樋口にとって新天地でのリーグ戦初アシストとなった。

「やっぱり中でターゲットになる選手が多い分、いいボールを蹴れば合わせてくれるという信頼がある。2トップにしてもカイキにしても、ちょっとズレても合わせられる選手ばかり。それもあって自信を持って蹴れているのが一番大きいと思います」と本人も胸を張る。鳥栖時代にエースナンバー10を背負った男らしい高度な技術が凝縮されたプレーだった。

 さらに樋口は攻撃姿勢を前面に押し出す。直後の34分にはペナルティエリア外からミドルシュートを打ちに行き、直後には上田の2点目につながる起点の縦パスを入れる。これで前半を2-0で折り返すことに成功した。

 後半は前線の2枚替えに打って出た磐田にやや押し込まれ、1点を返される。苦しい展開を強いられたものの、樋口は冷静に戦況を見極め、守備陣と意思疎通を密にする。耐えるべき時間帯をじっと耐え、上田の3点目という最高の展開に持ち込んだのだ。

「相手も勢いを持ってきた中で、綺世がああやって3点目を決めてくれることでチームもまた波に乗って行けた。本当に助かりました」と話す背番号14は、リーグ2連勝で首位固めができたことに安堵感をにじませた。

 今季の鹿島ボランチ陣は三竿健斗ディエゴ・ピトゥカという昨季から軸を担う面々がいたため、樋口の起用法は1つの注目点だった。が、ふたを開けてみれば2人を押しのけ、絶対的中心と位置づけられた。

 当初はピトゥカと組むことが多かったが、その助っ人MFが4月2日の清水エスパルス戦でトラブルを起こし、公式戦6試合出場停止となった。そこでレネ・ヴァイラー監督は和泉竜司をボランチにコンバート。「風間(八宏)さんの時の名古屋で少しやったことがある」とは言うものの、ほとんど経験のない11番をサポートすべく、樋口は獅子奮迅の働きを見せた。

「お互いの特徴を生かしながらやることを考えて、試行錯誤を繰り返しています。中盤が流動的に動くことで、相手も絞りにくくなると思いますし、それが一番いい選択になる。やっぱり鹿島でプレーすることには重みがありますし、その責任感が今はいい方向に出ているのかなと思っています」と中盤の司令塔は日に日に存在感を高めている。

「ボランチはチームの中心ですし、本当に大げさに言えば『僕のチーム』になるくらいが理想ですね。点を取ること、決定的なチャンスを作ることもそう。特別なモデルはいないですけど、自分らしく特徴を毎試合生かしていければいいなと思っています」

 貪欲に高みを目指す25歳のMFは「日本代表を目指している」と公言する。そういう意味で今回、日本歴代最多キャップ数を誇る遠藤との対戦は学びが多かったようだ。

「ボールを持っている時の目線の作り方とか、見ているところがすごく嫌らしいので。自分はまだまだですけど、ちょっとずつ真似できたらいいと思います」

 偉大な先人の巧みな戦術眼を取り入れようとモチベーションを高めた樋口。振り返ってみれば、その遠藤も代表で不動のレギュラーになれたのは、今月1日に逝去したイビチャ・オシム監督時代の26歳の時だった。中村憲剛も初代表が25歳。遅咲きの樋口にも大いにチャンスはあるのだ。

 FIFAワールドカップカタール2022が半年後に迫っているため、ブラジル戦などを行う6月の4連戦は既存メンバー中心で戦うことになるだろうが、国内組で挑むと見られる7月のEAFF E-1選手権は大きなチャンス。彼はその筆頭候補だ。2017年12月のE-1でデビューし、4年半が経過した今、代表のエース級に上り詰めた伊東純也の例もある。樋口にとってはここからが本当の勝負と言っても過言ではない。

 まずは鹿島で中盤を確実にコントロールし、悲願のJ1タイトルの立役者となり、常勝軍団に相応しい男になること。そこから全てが始まる。

 今が旬の男・樋口雄太の一挙手一投足はまさに必見だ。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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