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大宮アルディージャと『TSUBASA+』が生んだ新しいコミュニケーションのカタチ

2021.03.27

 大宮アルディージャが、リアルワールドゲーム(位置情報ゲーム)である『TSUBASA+』を使って、サポーターとの新しいコミュニケーションの場を作っている。そんな情報を耳にした。

 しかし、「Jリーグのクラブがゲームアプリを使ってコミュニティを形成する」ということに、どうにもピンとこない。その狙いと現状を明らかにすべく、大宮アルディージャでデジタルマーケティングを担当する美馬彩子さんに話を聞いた。


インタビュー・文=関口 剛

――さっそくですが、『TSUBASA+』を使ってどんな施策を行っているのかを聞かせていただけますか?
美馬 まずは「これまで何をしていたか」をお話ししたいんですが、昨年はシーズンをとおして「橙広場オンライン」という施策をやっていたんです。試合日に4、5時間の生放送番組をYouTubeで配信するという。キックオフの1時間半前から番組を始めて、その日のプレゼンツマッチパートナーの企画をしたり、スタジアムグルメを紹介したり、試合中は2名のMCが試合を見ながら副音声のように話をしたり、試合に勝てばそのまま選手を登場させたり。現地に行けない方々に向けて、スタジアムとは別のコミュニティを提供したいと思い、そうした番組を年に25回実施したんです。

――スタジアムに行けないサポーターにとってはうれしい施策ですよね。その一方で「運営が大変そう」とも感じてしまいますが……。
美馬 昨年はここに賭けたというか、費用も人員もかけて運営していましたね。

――今年2月に出されたリリースには「2020シーズンに実施していた仮想ファンコミュニティ『橙広場オンライン』の後継施策として、『橙広場 feat. TSUBASA+』を実施することになりました」という記載がありました。きっと「橙広場オンライン」もサポーターに好評だったと思うんですが、なぜ“後継施策”として組み立て直すことにしたのでしょう?
美馬 一つはフェーズが変わったからです。

――フェーズ?
美馬 アルディージャだけではなく、他のクラブでもそうだと思うんですが、「スタジアムで観戦する習慣がなくなってしまった方々をどう呼び戻すか」というのは大きな課題になっています。昨年までの「とにかく安全が第一。無理はしない」というところから、今年は「できる限りスタジアムに戻ってきてほしい」、「活気を取り戻したい」と変わってきた。

――世の中も「対策は取りながらも、少しずつ日常を取り戻そう」という流れに変わってきていますからね。『TSUBASA+』は位置情報ゲームですから、オンラインの要素を持ちながらも、実際にどこかに足を運ぶことでしか得られない体験もある。その意味で、フェーズの移り変わりと、クラブがかなえたいこと、そして『TSUBASA+』のゲーム性がうまくマッチした。
美馬 そうですね。位置情報ゲームであり、選手が実名で登場するというゲームそのものの魅力は感じました。それと、もう一つは予算です。「橙広場オンライン」にはファンコミュニティを形成するというだけではなく、新型コロナウイルスで実施できなくなってしまったパートナー企業の広告媒体やスタジアム企画をオンラインに代替することで収入を確保するという命題がありました。だからこそ、相応のコストを割いていたわけです。今年はスタジアムで行える企画も増えつつあります。その点、『TSUBASA+』はすでに完成されているプラットフォームですから、クラブの持ち出しで構築する必要はない。アプリで気軽に誰でも参加できて、運営する側としても最小限のコストで運用できるというのは魅力に感じました。

――では、満を持して最初の質問に戻るんですが(笑)、『TSUBASA+』を使ってどんな施策を行っているのでしょうか?
美馬 まだ手探り状態ではあるんですが、開幕戦の水戸ホーリーホック戦のときは、クラブアンバサダーの塚本泰史さんと大宮アルディージャVENTUS(今年開幕を迎えるWEリーグに参戦する女子チーム)のスタンボー華選手、久保真理子選手と一緒に試合を観戦する企画を実施しました。

――『TSUBASA+』ではユーザーが「サポーターチーム」を選ぶことができ、同じ「サポーターチーム」を選んだ人たちが集まれる掲示板のような機能がありますが、そこにアンバサダーや女子選手が参加した形ですか?
美馬 そうです。実際、あるサポーターの方は「自分がした質問に日本代表であるスタンボー選手が答えてくれた!」ってすごく喜んでくれていました。掲示板では試合時以外もスタッフから「このイベントは何時までやっていますよ」というアナウンスをしたり、サポーター同士がコミュニケーションをしたりしています。ホームゲーム時には、ゲーム上にバーチャルなNACK5スタジアム大宮が現れるので、そこでアルディージャの実在の選手と対戦して仲間にできる。いずれは「大宮アルディージャの全選手を集めた方にオリジナルグッズをプレゼント」といった企画も実施しようと考えています。

(左)ゲーム内の掲示板でサポーターやクラブスタッフが交流 (中央、右)ホームゲーム時にスタジアムに行くと、大宮アルディージャの選手が登場。対戦で勝利すると選手が仲間になる

――「橙広尾オンライン」は「クラブ側からコンテンツを発信する」という色が濃かったと思いますが、『TSUBASA+』を使った施策は「サポーターとクラブが一緒に作っていく」というものも多くなっていきそうですね。
美馬 そうですね。ただ、「橙広場オンライン」から継続している企画もあるんです。それらは残しつつ、『TSUBASA+』ならではの施策を新たに加えていくイメージでいます。実際、「橙広場オンライン」のときに使っていたユーザー名をそのまま『TSUBASA+』でも使用している方もいますね。

――そういう意味で、“後継施策”と言えるわけですね。
美馬 『TSUBASA+』ならではというと、試合のないときにサポーターの方が掲示板に集まって会話をしている様子は、「橙広場オンライン」では見られなかった光景ですね。週末の試合に向けて話をしていることもあれば、全く試合とは関係のない会話をしていたり、「リオネル・メッシをゲットした!」というようなゲームにまつわる会話をしていたり。YouTubeライブと違って24時間開いている場所なので、そこで皆さんがつながって仲間をつくり、「次の試合は一緒に応援しよう」と新しいコミュニティがいろいろなところで生まれてきたら、クラブにとってすごくいいことだなと感じます。

――コロナ禍によって、今はクラブにも、サポーターにも様々な制限が生まれています。そのなかで、クラブとしてサポーターとのコミュニケーションに関して心がけていることはありますか?
美馬 大宮アルディージャは、サポーターの方とスタッフとの“リアルでのつながり”を大事にしてきたクラブなんです。お互いに名前も顔も知っていて、スタジアムで会えば会話も交わす。そういうアナログなつながりを大事にしている。それがコロナ禍によって物理的な距離が生まれたことで、こちらの意図が正しく伝わらなかったり、意図とは違った形で受け取られてしまったりしたことがあったんです。だからこそ、「丁寧に誠実に伝える努力をしよう」、「たとえ文字の量が多くなっても誤解なく伝える努力をしよう」ということは改めて意識するようになりました。それと、“人が見える”こと。「橙広場オンライン」では、スタッフが配信に登場して食レポをしたり、お店紹介をしたり、名前と顔とキャラクターを出して発信していました。そうした“人が見えるコミュニケーション”は、『TSUBASA+』でも継続して大事にしていきたいと考えています。

By 関口剛

1984年、埼玉県生まれ。2014年のブラジルW杯開幕直前にフロムワンに入社。2019年10月から雑誌『SOCCER KING』編集長に。2023年に退社し、雑誌以外の世界へ活躍の場を広げる。

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