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【ベストイレブン】「憲剛さんと悠さんという見本が身近にいたので、僕は恵まれていた」|谷口彰悟(川崎フロンターレ)

2020.12.29

[写真]=Jリーグ

 2020Jリーグアウォーズで発表されたベストイレブンでは、優勝した川崎フロンターレから史上最多9名の選手が選ばれた。自身初となるキャプテンを担い、Jリーグ史上屈指のチームを支えたDF谷口彰悟に、ベストイレブン受賞の思いや、今シーズンの出来について聞いた。

取材・文=生駒奨
写真=Jリーグ

――今シーズンのベストイレブンに選出されました。おめでとうございます。自身としては2度目の受賞になりました。
谷口 ありがとうございます。まず、ベストイレブンという賞をいただけたことをうれしく思います。これは1年間続けた結果です。決して受賞するために頑張っているわけではないですけど、選出していただけたことでこの1年間の頑張りが報われた気持ちです。

――川崎フロンターレは他チームを圧倒して優勝を飾りました。今シーズンを振り返ってください。
谷口 なかなか出せないような数字を残せたという気持ちはあります。そこは誇っていいのかなと。選手やスタッフを含め、全員が同じ方向を向いて1年間続けた結果です。数字だけ見ると連勝の記録が目立ちますけど、1戦1戦をしっかり戦い、チャンスをつかんだ選手が活躍した。本当に全員でつかんだ優勝だと思います。

――今シーズンの川崎はどのようなチームでしたか?
谷口 毎試合で誰がスタメンの11人に選ばれるのかというくらい、メンバー争いは本当に激しかったですね。11人に選ばれなかった選手たちも途中出場で結果を出すという意識があったことで、常にチームの競争が激しかった。その競争がここまでチームを強くしたと思います。ベストイレブンに一つのチームから9名が選ばれるなんて、そう簡単なことではないですよね。他のチームの選手たちにフロンターレのサッカーがある程度は評価されたということだと思います。そこは素直にうれしいし、もっと強くなれるようにこれからもやっていきたいです。

――今シーズンから新キャプテンに就任されました。どのようなシチュエーションで任命されたのでしょうか。当時の心境を聞かせてください。
谷口 一次キャンプが終わった3、4日後くらいでしたね。クラブハウスで鬼木(達)監督に呼ばれて二人で話しました。その時に直接「キャプテンを任せようと思う」と言われたんです。正直なところ「はい」と二つ返事をできなかった。自分の中でキャプテンはすごく責任のある役割だと思っていたので、簡単に「はい、やります」と即答できなかった。僕もその場でサッカーに対する思いを包み隠さず監督にぶつけました。監督と長い時間を話していると、「お前の気持ちがよく分かった。でも、もしキャプテンをやらないとなった時に後悔はしないか?」と言われて。確かにキャプテンは誰でもやれる役割ではないと思っているし、いろいろなものが求められる役割です。自分は完璧な人間ではないので、まだまだ足りない部分があるという引け目を感じていたんです。だけど監督は「そんなことは当たり前だし、キャプテンという役割とともに彰悟も成長していったらいいんじゃないか」と言ってくださって。そこで、「ぜひ、やらせてください」と言いました。

――キャプテンが責任のある役割だと認識されていたということですが、フロンターレでは伊藤宏樹さんや中村憲剛選手、小林悠選手と生え抜きの選手が主将を担っています。それが責任感の重さにつながっているのでしょうか?
谷口 もちろんそれもあります。歴代のキャプテンを担っていた選手たちからは、「フロンターレが勝つために」、「フロンターレを強くするために」という姿勢をすごく感じました。そういった思いは代々受け継がれてるんだろうなと。それは憲剛さんと悠さんという見本が常に身近にあったので、僕は恵まれていたと思います。先輩たちに頼りながら過ごせたので、すべてを一人で抱え込む必要がなかったですね。キャプテンを経験した選手たちと一緒にサッカーをやれたのは、僕にとってはすごく助かったし、ありがたかったです。そうやってフロンターレをつないでいくという気持ちを2人からも感じていました。

――キャプテンシーを発揮するやり方はさまざまにあると思います。谷口選手自身はどういう理想のキャプテン像を描いてチームに入っていましたか?
谷口 正直、しっかりとしたキャプテン像というか、こういう風になりたいというイメージはありませんでした。その考えはシーズンが終わった今も変わっていません。むしろ固めなくていいと思います。それぞれの人間の特徴があるし、そういったものを無理やり変える必要がないんだろうなと。前任者の悠さんや憲剛さんを見ていても、その人が色が出ていたと思います。それによって、僕もそれでいいんじゃないかなと。それは始める前から感じていた部分です。自然と“谷口彰悟というキャプテン”はこういうタイプだよねと周りが感じてくれると思います。だから、僕は自分のスタイルはこうだと決めていないです。

――今年はイレギュラーなシーズンになりました。試合が再開しても無観客の期間が続いた。これまでと全く異なる環境で、しかも初めてのキャプテン。そういった状況下で特別に意識していたことはありますか?
谷口 おっしゃる通りでイレギュラーなシーズンになりました。自粛期間中は本当に先が見えない時間がありましたね。そういった意味でも、チームがバラバラになってもおかしくなかったですし、みんなが目標を見失ってもおかしくなかった。だけど、みんなが「ブレずにもう一度サッカーをやりたい」、「いいサッカーをしよう」という気持ちがありました。僕はみんなのその思いを一つの方向に持っていくという役割の一翼を担っていかないといけないなと思っていました。言い訳を探せばいろいろ見つかる年でしたけど、こういう時だからこそ優勝しようという意気込みでリスタートできたと思います。みんながその思いで一つになれたというのは、非常に良かったと思います。文字通り日程もきつかったので、総力戦になりました。一人ひとりが準備をしないと勝てないシーズンだというのはチームの中でも浸透していましたね。

――シーズンを通してフロンターレが圧倒的な強さを見せていました。昨シーズンと比較すると、GKを含めた最終ラインのメンバーを固定できたことが好調を維持した要員だったのではと感じています。DFリーダーである谷口選手はどのように考えていますか?
谷口 今シーズンの自分たちはシステムを変えたり、新しいことにチャレンジする年でした。正直、難しいことだらけだと感じていましたよ。周りからは結果も出ているし、「安定しているな」、「強いな」と思われていたかもしれません。だけど、やっている側としてはもっともっと良くなる、もっと点が取れると思っていました。反省材料も試合ごとにたくさん出てきていた。それを一つひとつしっかりと潰していく作業を続けていた1年でしたね。メンバーを固定できたという要因もあると思いますけど、一人ひとりがどういうサッカーをしたいのか、どう勝ちたいかを突き詰めていった結果だと思います。たくさん点を取りたいし、守備も簡単に点を取らせたくないというこだわりがかなり強かった。守備のやり方やすごくこだわってやっていたので。僕はどちらかというと、誰が出ていたというよりは、こだわりの強さが結果として現れていたのかなと思います。

――ベストイレブンには三笘薫選手や山根視来選手といった加入1年目の選手も選出されました。新加入選手の力を周囲が引き出そうという空気感がありましたか?
谷口 薫や視来だけでなく、それぞれの特長をどんどん生かそうというスタイルでやってきました。各々のストロングをチーム全員で意識して、それをどう生かすか。それぞれがそう考えてやれていたと思います。そういう空気感は見ていて頼もしかったですね。生かされた選手がしっかり結果を残すことで、チームとしても自信になりました。そういうサイクルが作れたのは良かったですね。

――昨シーズンに小林選手が欠場した試合では、谷口選手がキャプテンマークを巻いていました。その時はいつもに増して最終ラインから声を出してチームを統率していると感じていました。今シーズンは声がよく通る環境でした。そこでは谷口選手の声だけが響くというよりも、他の選手同士の声が多かったと感じています。昨シーズンと今シーズンを比較すると、去年のほうがぐっと前に出て行こうとする意識が強かったのではないかと。意識的に変えた部分はありましたか?
谷口 意識的に変えたというのは特にないです。おそらくチームのスタイルもそうだし、出ているメンバーも含めて、今はどう振る舞えばいいのかと考えた結果なのかなと。そういったものは副キャプテンとしてキャプテンマークを巻いてゲームに出ていた時よりも、しっかりキャプテンとしてキャプテンマークを巻いてゲームに出ている時のほうが、より深く考えるようになった。それは間違いありません。やり方を変えたつもりはあまりないですけど、自然と周りを見渡して今どうすべきかを考えた時に、「ここはみんなに任せよう」と判断することが増えたのかなと思います。チームに結果がついてきている時は、みんなが進んでいろいろなことをやってくれるので、改めて自分が何か言う必要はあまりなかった。だから、周りにすごく助けられたという感覚が残りました。そういう1年でしたね。

――来シーズンは中村憲剛選手という偉大な存在がいなくなってしまいます。当然、谷口選手の存在がチームの中でさらに重要になってくると思いますが、そこに対する意気込みを教えてください。
谷口 やっぱり憲剛さんの存在はチームにとってかなり大きなものです。先日のセレモニーを見ている人ならば、それを強く感じていると思います。でも、僕らはいつまでも憲剛さんにおんぶに抱っこでやっていくわけにはいきません。僕らも憲剛さんからしっかり卒業して、また新しいフロンターレを築いていかないといけない。それは僕だけでなく、チーム全員が思っていることだと思います。来年はその思いもシンプルにみんなでぶつけ合いながらやっていけば、僕は大丈夫だと思っています。そうやってチームはでき上がっていく。もちろん憲剛さんの存在感は大きいですけど、自分たちもやれるというところを見せないといけない。また新しく強いフロンターレを見せるというポジティブな気持ちで、また来年に臨んでいきたいと思います。

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