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プレーの幅を広げた2020年…田中碧が中村憲剛の後継者に名乗り

2020.12.23

移籍交渉でチームを離脱したMF田中碧 [写真]=J.LEAGUE

「同じJリーグでプレーしている選手や監督に評価してもらったのはすごく嬉しいですし、1年間通してやってきて本当によかったと思います」

 2019年のJリーグベストヤングプレーヤー賞に続き、2020年はベストイレブンに名を連ねた田中碧。史上最速でJ1を制覇した川崎フロンターレから9人が選出されたが、31試合出場5ゴール・プレー時間2184分という彼の実績は中盤でも大いに光っている。22歳の若きMFはこの1年でそれだけの進化を遂げたと言っていい。


「昨シーズンまではダブルボランチのポジションしかやってこなかった中で、今年は4-3-3のアンカーとインサイドハーフの2つのポジションを経験しました。その中で、よりサッカーを大局的に考えることが増えたのが一番の変化かなと感じます。
『どうすれば自分たちが前進できるのか』『誰かが幅を取ってるから自分はここに立つんだ』『チーム全体の配置がこうなっているから自分はこの立ち位置を取るべき』『ローテーションしながら誰がどう打開するのか』といった細かい部分を意図的にできるようになりました。相手が嫌がるんじゃないかというプレーを選択し、ピッチ上で数多く表現できるようになったのがよかったと思います」

 こうやってディテールにこだわり、ピッチ上で修正を加えながら、卓越した“止める蹴る”の技術を駆使して相手の綻びを突く「戦術眼」というのは、中村憲剛の十八番だ。今季限りでユニフォームを脱ぐ偉大な先輩の強みをアカデミー時代から間近で見て吸収し、ピッチ上でトライ&エラーを繰り返しながら自らの糧にしようとしている田中の姿は、その後継者に相応しいものがある。

「僕自身は憲剛さんになることはできないけど、一緒にプレーすることで素晴らしさを体感することができました。今の自分に憲剛さんの特徴をプラスアルファしていければ、より大きな選手になれる。憧れであると同時に越えたい存在でもあるので、自分の力でもう一段階二段階レベルアップしていきたいです」と、貪欲に高みを目指す若武者は語気を強めた。

 思い返してみると、22歳当時の中村憲剛は本人も言うように「ただの大学生」だった。練習参加でチャンスをつかんで川崎入りし、2003~04年はJ2で戦った。そのタイミングで関塚隆監督にボランチへとコンバートされ、持てる才能を大きく開花させた。そんな先人に比べると田中ははるかに恵まれた環境にいる。18歳だった2017年にトップ昇格し、20歳でプロデビュー。21歳で早くも強豪クラブのレギュラーを勝ち取り、前述の通り、ベストヤングプレーヤー賞を受賞した。さらには2019年にはEAFF E-1選手権でA代表も経験。日本サッカー協会から「将来のA代表主軸候補」と位置付けられるまでになっている。

 この成長曲線をさらに引き上げ、憲剛がA代表入りした25~26歳で代表のボランチを担うのはもちろんのこと、世界トップレベルの舞台に羽ばたいていなければならない。意識の高い田中は誰よりも強くそう考えているに違いない。

 そのためにも1年延期された東京五輪には必ず出場する必要がある。

「五輪のことは自分たちにはどうしようもない。僕にとって五輪は世界のいろんなチームとやれる大会で、それが1年ズレただけ。世界とできるならいつでもいいし、どの大会でもいいという感じです」

 新型コロナウイルスの影響でリーグが休止状態に陥っていた3月、彼はこんな発言をしていた。だが、あれから9カ月が経過し、心境も微妙に変化しているのではないか。22日から千葉・幕張で約1年ぶりの東京五輪代表合宿が行われているのだから、その動向も気になっているはず。今回、森保一監督は今季Jリーグで台頭した安部柊斗や金子大毅、郷家友太らボランチ候補を大量招集し、新たな可能性を模索している。数多くの人材がいる激戦区で、田中は自身が「絶対的な存在」であることを示し続けていくことが肝要だ。

 今回ベストイレブンに選ばれ、国内組の中では高評価を得た格好だが、海外に目を向ければ10・11月のA代表4試合に参戦した中山雄太や板倉滉らもひしめくだけに、うかうかしてはいられない。

「世界では同じ世代がワールドカップだったり、A代表で戦っている。自分が目指しているのはそういう舞台。彼らと差があるのは感じていますし、本当に1日1日成長し続けてもっともっと上に行けるように頑張るしかないです。圧倒的な選手にならなきゃいけないし、毎試合安定して力のあるプレーを示してかなきゃいけない。そうなるために、1日も無駄にできないと思います」

 強い危機感を抱く成長株が見据えるのは、直近の天皇杯優勝だ。今季2つ目のタイトルを取って中村憲剛を最高の形で送り出してこそ、自身の輝かしい未来も開けてくる。27日の準決勝、そして元日の決勝ではゴールに直結する仕事をこなし、本人の言う「圧倒的なインパクト」を存分に見せつけてもらいたい。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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