FOLLOW US

大ケガ乗り越え、迎えた新たな試練。「こういう時の方が強くなれる」|青山敏弘(サンフレッチェ広島/MF)

2020.03.30

リーグ開幕戦で先発出場を果たした青山敏弘 [写真]=Jリーグ

「今は試合がないですけど、家族とゆっくり過ごして、サッカーもできている。(海外の選手に比べると)僕らは比較的、いい方じゃないですか。試合ができればいいけど、できないものは仕方ないので。こういう時こそ、チーム力や個人の経験が生きると思うので、落ち着いて構えています。今はチーム力が試されますよね。しっかり締めていきます」

 3月25日にJ1の再々延期が決定した。ここまで通常通りのトレーニングをこなしてきたサンフレッチェ広島も、27日のガイナーレ鳥取との練習試合の後、6日間のオフに入った。ベテラン・青山敏弘は今年に入ってケガなく、公式戦でフル稼働できる状態を維持してきた。それだけに残念さを感じたようだが、すべてをポジティブに捉えて5月9日に向かっていくという。


「もう次は決まってるんでね。対策を打って再開するということなので、自分たちはそこに向かっていくだけですよ。そのスケジュールとコンディションを共有しながらやっていけばいいと思うし、今のウチはケガ人もいない。僕自身も調子はいいですよ。大丈夫」と、とにかく前向きに取り組んでいく構えだ。

 前代未聞の異常事態でも、青山がここまで冷静でいられるのは、数々の困難を乗り越えてきた経験値が大きい。思い起こせば、作陽高校2年時の高校サッカー選手権岡山県予選決勝・水島工業戦。青山の豪快なミドルシュートを主審に「ノーゴール」とされ、夢にまで見た全国切符を逃したのが、サッカー人生の苦難の始まりだった。

 プロ2年目の2005年春にはヴィッセル神戸とのサテライトリーグの試合で左ひざ前十字じん帯を断裂。さらに2008年には、最後の最後で北京五輪代表入りを逃す屈辱を強いられた。それから地道に努力を重ねて凄みを増した。広島が2012、2013年にJ1連覇を果たす原動力となり、2014年ブラジルワールドカップの代表入りを勝ち取った。しかし、悲願のスタメン出場を果たしたグループリーグ最終節コロンビア戦(クイアバ)で1-4の惨敗。彼は人目をはばからずに号泣することになった。

「今頃こんな高いレベルに来るんじゃ遅すぎる。ワールドカップってところは、それを経験しに行くところじゃない」と涙する青山の姿は周りを取り囲んだ複数のメディアに衝撃を与えた。それでも不屈の闘志を抱く男は復活した。2015年には広島の王者奪回に貢献するとともに、JリーグMVPを獲得。2018年には森保一監督率いる日本代表に復帰を果たし、同年9月の現体制初陣・コスタリカ戦(吹田)ではキャプテンマークを託されるほどになった。

 しかしながら、2019年アジアカップ(UAE)の途中に再び左ひざを負傷。大会途中に帰国を余儀なくされた。それから半年間の戦線離脱を強いられ、ピッチに戻ってきたのは昨年7月3日の天皇杯2回戦・沖縄SV戦。ここでも青山は不死鳥のように蘇った。これを境に着実に出場時間を伸ばし、9月14日のJ1・横浜F・マリノス戦でJリーグ先発復帰を果たす。シーズンラストには絶対的ボランチの座を奪回。満を持して34歳の新シーズンを迎えたのだった。

「大きなケガを乗り越えた? そういう時の方が強くなれるし、成長できるって自分が一番よく知っている。それに今年の方がパワーアップしていると思う。年齢を重ねて自分のプレースタイルだったり、チームに求められるものも変わってくるけど、そこにフィットさせなきゃ自分自身が試合に出られない。そこもまた一つの伸びしろかなと。去年のケガがまた一つの伸びしろになったかどうかは、今年結果を出した時に言えるんでしょうね。今はまだ早いと思います」といかにも彼らしい言い回しで青山は現状分析してみせた。

 自分がさらに一段階飛躍したという実感をハッキリと手にするためにも、早く公式戦のピッチに立ちたいところ。コロナ騒動が落ち着き、サッカーを楽しめる日常が取り戻せるように、彼は広島を代表する選手として努力を続けていくつもりだ。

「この難しい状況でも成長できると思うし、だからこそしっかり結果を出さないといけないと思っているんです。サッカー選手としてだけじゃなく、人間としても大きくならないといけない。今だからできることもあると思う。すべては自分次第だと思いますね」

 数々の苦境を乗り越えてきた彼ならば、コロナショックに見舞われ、大いなる不安に包まれるチームをいい方向に導けるはずだ。再開後のリーグが超過密日程になるのは間違いない。だからこそ、2月23日の今季J1開幕・鹿島アントラーズ戦で3-0と会心の勝利を収めた感覚を忘れず、さらにチームを飛躍させていくことが肝要だ。

「今後は1チームじゃムリだと思う。しっかり2チーム分の戦力を整えていかないといけないと思うんです。山あり谷ありのシーズンになるだろうから、そのうえでどう戦うか。僕らは失敗もしてきてるけど、継続して戦える底力がある。足元を見ていつものプレーを続けて、やり続けた先に優勝がある。そこは勘違いしないで取り組みたいですね」

 そうやって冷静沈着に先を見据えられる34歳のボランチがいることに、城福浩監督も感謝しているに違いない。彼が中心となって広島はかつてないほど強固な一体感を作り上げ、来るべきJ1再開を迎えることができるはずだ。

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO