2018.10.10

浦和レッズが取り組む、ホームゲームを核とした正の循環作り

橋岡大樹の出身チームである浦和大久保サッカー少年団の子どもたちが試合を観戦した [写真]=浦和レッズ
スポーツライター

 9月30日、浦和レッズ対柏レイソルの一戦が行われた埼玉スタジアム。スタンドの一角で楽しそうに、そして真剣な目つきでピッチを見つめる小学生の姿があった。

 彼らはさいたま市旧浦和地区で活動するサッカー少年団の子どもたち。通常は招待券を出さないことで知られる浦和レッズが実施した「ホームゲーム観戦学習会」、そこに集まってきた小学生たちだった。

 試合は台風24号が近づきつつある中で行われたが、悪天候をものともしない“これぞプロ”というプレーが、子どもたちの目を釘付けにした。

 とりわけ、35分に先制を許した直後に見せた怒濤の攻撃だ。38分に長澤和輝が同点弾を決めると、41分には興梠慎三が鮮やかな技ありループシュートを決めて2-1。先に点を奪われても決して顔を下げないどころか、粋を極めたテクニックで勝ち越しゴールを挙げる姿に、多くの子どもたちが身を乗り出して歓喜していた。

 実は、サッカー少年団の子どもたちは土日にトレーニングや試合を行うため、普段はなかなかJリーグの試合を見る機会を持てないという。そんな彼らにとってプロの生の試合を見る機会はとても貴重なのだ。そして、これこそがクラブの狙いであり、願いだった。

少年団の子どもたちは、土日にトレーニングや試合を行うため、プロの生の試合を見る機会はなかなか持てないという [写真]=浦和レッズ

見つめなおして考えついた一つの答え

 浦和レッズは1993年のJリーグ開幕時から、多くのクラブが行ってきた“招待券による観客動員”という施策とは一線を画し、自らが突き詰めて考えたプロサッカークラブとしての理念を守り続けてきた。それは“お金を払って見に来てくれる来場者に対して報いるプレーをすることこそ、プロサッカークラブの是である”という哲学である。

 この理念をブレることのない軸として据え続けてきた成果は、数字にも表れている。「Jリーグスタジアム観戦者調査2017サマリーレポート」によると、浦和レッズは2位以下のクラブを大きく引き離してJ1最多入場者数を誇るクラブでありながら、「チケットをもらったから」を観戦動機としている割合は、J1とJ2を合わせた計40クラブの中で最も低い。また、2017年度の浦和レッズの入場料収入は、同年にJ1に在籍していた他クラブ平均の3.3倍だ。

 ただ、クラブ創設25周年を迎えるにあたり、創設時に打ち立てた理念をあらためて深く掘り下げ、再考しようというプロジェクトがクラブ内に生まれ、プロジェクトメンバーに限らず、全クラブスタッフが様々な角度から浦和レッズを見つめなおした。

 浦和レッズは地元の人々や子どもたちに夢を与えられているか? サッカーの街浦和でサッカー選手を志す子どもたちに良質なプレーを見てもらうことは、クラブの重要な任務なのではないか?

 その結果として考えついた一つの答えが、「ホームゲームを通じて提供できるものは、もっともっとある」ということだった。

 こういった自問をあえて行った流れの中で、まずはJリーグ開幕時の“中心地”であった旧浦和地区のサッカー少年団を対象に、2016年に第1回観戦学習会が開かれた。今回は3回目の開催。ただ、念のために強調すると、浦和レッズは有料入場へのこだわりを手放したわけではなく、招待実施に舵を切ったわけでもない。未来を見つめるための柔軟性によって後押しされた施策であることが、「観戦学習会」の意義をより深めていると言える。

「地元の子どもたちに夢を与えられているか?」。クラブスタッフが様々な角度から見つめなおした [写真]=浦和レッズ

目に入った驚くべき光景

 前述した通り、子どもたちは興梠の鮮やかな勝ち越しゴールに大興奮し、後半にも2-2から興梠のゴールで突き放した場面では跳び上がるように勢いよく立ち上がり、「やったー!」「すごい!」など叫びながら全力で拍手をしていた。

 試合はそのまま3-2でレッズが勝利し、スタンドで勝利の凱歌「We are Diamonds」の大合唱が始まると、さらに驚くべき光景が目に入った。歌詞を知らないであろう子どもたちも自然と隣の子と肩を組んで、口を動かしていたのだ。歌詞は分からなくても、自分も参加したい。そんな子どももいただろう。心を揺さぶられてタオルマフラーを懸命に回す姿も、純粋な感動に見えた。

 当日、子どもたちを引率して来場した「浦和大久保サッカー少年団」で副団長を務める熱田孝さんに話を聞いた。同少年団は52年前、旧浦和市内に初めて誕生した6つのサッカー少年団の中の1つであり、浦和レッズユースからの昇格1年目シーズンからレギュラーとして活躍している橋岡大樹の出身チームでもある。

 熱田さんは「子どもたちには、この大きな埼玉スタジアムでやっているレッズの選手も、小学校のグラウンドでやっている自分たちも、同じサッカーというスポーツに携わっているのだということを感じてもらいたい。観戦学習会という機会は指導者にとってもありがたいものです。年に1度のこの機会を通じて、少年団にとって浦和レッズがより身近な存在になってきています」と語った。

レッズが勝利を収めると、心を揺さぶられてタオルマフラーを懸命に回す姿もあった [写真]=浦和レッズ

ホームゲームを核とする最高の循環

 熱田さんによると、この日初めてプロのサッカーを生で見たという4年生の男の子が興梠の1点目に感激して泣いてしまったという。子どもが生で見る試合から感じ取るものの大きさは、大人が想像する以上なのだ。

 52年の歴史を持つ大久保少年団で今年、初の女子キャプテンとなった6年生の榎本莉里さんは、チームの仲間とともに柏戦を観戦。「レッズの選手はみんなパス回しがうまく、予測ができていて勉強になりました。今日は多くの経験をすることができたので、この経験をこれからに活かしたい。将来はサッカー選手になるのが夢です」と目を輝かせた。注目した選手を聞くと「橋岡選手です」と話していた。

「僕も将来はサッカー選手になりたい」と力強く宣言した5年生の原田皐平(こうへい)くんは「生で見ると、歓声やボールを蹴る音がテレビで見るのとは全然違う」と感心しき
り。西川周作と橋岡に注目していたと言い、「西川選手の判断の良さや、橋岡選手のスプリントを、自分たちの試合のときにチームの仲間に教えてあげたいと思います。今日学んだことを絶対に活かしたいです」と言葉を弾ませた。

 熱田さんは言う。

「浦和レッズのサポーターが『浦和プライド』と言うように、われわれは『大久保プライド』を持って指導に当たっています」

 だからこそ、良質なサッカーから多くのものを感じ取ってくれる子どもたちが育つ。だからこそ、浦和レッズはもっと質の高いプレーを目指す。ふと気づけば、浦和レッズのホームゲームを核とする最高の循環ができあがっていた。

文=矢内由美子

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