2017.04.28

【ライターコラムfrom甲府】病気と向き合い戦う畑尾大翔 恩人や仲間に捧げるプロ初ゴール

畑尾大翔
セレッソ大阪戦で得点し、喜ぶ畑尾大翔 ©J.LEAGUE PHOTOS
サッカーはもちろん、バスケや野球、ラグビーにも精通する“球技ライター”。

 Jリーガーにとって、プロ初ゴールは特別なものだ。ただし26歳のセンターバックが感じた喜びや思いは、他の選手と少し種類の違うものだった。

 4月22日の明治安田生命J1リーグ第8節・セレッソ大阪戦で、畑尾大翔は新井涼平の負傷によって15分からピッチに入り、まず今季のリーグ戦初出場を遂げた。49分にはC大阪の先制ゴールを許したものの、62分にCKから得意のヘディングを決める。プロ初ゴール後は最終ラインの中央で守備を統率し、勝ち点1の立役者になった。

 いくつかの媒体が第8節のJ1ベスト11に選ぶような活躍だったが、それもゴールという結果があったから。DFの仕事はやはり相手にゴールを与えない、チャンスを作られないことで、そこについては物足りない部分もあった。彼の自己評価も「6割くらい。平均点」というもの。だから内容の振り返りを求めると、畑尾は自身とチームの出来についてやや辛口の評価を下す。

「課題が収穫かなというのもある。質の高い選手たちが多い相手に対して、バイタルエリアのところで細かいパスをつながれて、そこからシュートに行かれてしまっている。キーパーと1対1になっているような状況もあった。ああいうシーンをもっと減らさないといけない。横の選手とコミュニケーションを取りながら、リーダーシップを取ってやらないといけない」

畑尾大翔

©J.LEAGUE PHOTOS

 しっかりコンパクトに、ムラのない形を作り、相手のスペースを奪う。成功確率の低いプレーに追い込む……。畑尾はそもそもそういった統率、駆け引きに長けたセンターバックだ。そこは彼がいう通り30日のヴィッセル神戸戦に向けて意識付け、コミュニケーションで深めていけるチームの『伸びしろ』でもあるだろう。

 一方で畑尾は自らのゴールをこういう理由で喜ぶ。「サッカーに興味がない人にも、一番分かりやすい形。一番華やかだし一番分かりやすい結果だと思うので、そういう意味ではよかった」

 彼が感じている使命が、肺血栓塞栓症という病気に関する啓蒙だ。肺血栓塞栓症とは肺の血管に血が詰まってしまう病気。これに「急性」がつくと、皆さんもよくご存じの“エコノミー症候群”と同じ意味になる。ゴールはサッカーのルールや戦術を理解していなくても伝わる結果。C大阪戦のプロ初得点は、そんな病気から復活できるということを伝えるいい機会でもあった。

 畑尾は早稲田大4年のシーズンをキャプテンとして迎えたが、開幕直前から深刻な不調に見舞われていた。彼が病院に向かったのは開幕から6試合を終えた12年の5月。「全然動けないし、(試合が)終わった後に咳が止まらなかったりした。流石に病院に行ったら、その日に入院しろと言われた」と畑尾は振り返る。そのまま公式戦から遠ざかることになり、13年冬のインカレ制覇もピッチサイドから見守らざるを得なかった。

 プレーが困難になった彼は、就職活動も念頭に入れて大学に籍を残していた。ただ幸いにして良き医療機関、医師との巡り合わせがあり、手術の適応が判明。13年9月に最初の手術が行われた。その後の経過は良好で、半年ほどは早稲田ユナイテッドの練習参加などで徐々に身体を慣らし、14年3月からヴァンフォーレ甲府の練習に合流する。プロ契約は同年の6月27日。1年半の浪人期間を経てのプロ入りだった。

 そんな困難を乗り越えた活躍には、他の選手とはまた少し違う価値がある。同じ症状の人を勇気づけ、症状に気づいていない人の早期発見を促す意味もある。畑尾はこう述べる。

「この病気になったからと言って夢を諦めなければいけないかと言ったらそうじゃない。僕は本当に人の巡り合わせがあって、こうやって治ってプロになれたからこういうことが言えるし、一概には言えないですけど……。でも病気になったからといって、夢は諦めないで欲しい」

 今も薬の服用を続けており、日常生活も気を使う部分は多い。「水分をしっかり摂る」「同じ姿勢を続けない」といったことは特に注意している部分だという。

畑尾大翔

©J.LEAGUE PHOTOS

 また今もシーズンオフになると“かかりつけ”の国立病院機構岡山医療センターに通い、泊りがけの検査入院を行なっている。採血、レントゲン、CT、肺活量の検査などを済ませて、締めに行われるのが6分間歩行。「息が一気に上がり過ぎないかとか、脈や酸素の値を調べる」(畑尾)という一般患者にとっては重要な検査だ。ただ彼は「僕は6分間歩行とか意味がないです」と苦笑する。ピッチ内で90分間走り回れるレベルまで回復した彼に取って、6分間の歩行はあまりに負荷が軽すぎるからだ。

 C大阪戦後には色んな知り合いから連絡が来たというが、彼から真っ先に報告したのが担当医にあたる岡山医療センターの松原広己先生。「先生は忙しいですし、岡山にいます。結果は見てくれているみたいなんですけど、ずっと試合に出ていないから調べてなかったかなと思ったので」と畑尾は苦笑まじりに説明する。

 畑尾にとってみればC大阪戦はまだ今季の一歩目。山本英臣、新井涼平の負傷があってようやく得た出番だった。得意のヘディングは早速C大阪戦で結果に結びついたが、統率力を活かすには、連携をもっと深めなければならない。「受けた選手が苦しいようなパスは出したくない」というこだわりのロングフィードも、動き出すアタッカーとの関係があってこそ生きる。

 しかし恩人にいい報告ができた、同じ病気の仲間を勇気づけられたということはゴールの大きな価値だろう。プロ4年目の初得点という結果は「畑尾が頑張っている」という事実が、サッカーとはあまり縁がない人にも伝わる尊い成果だった。

文=大島和人

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