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【スペシャルインタビュー】 中村憲剛(川崎) 「フロンターレはもっと強くなる」/第3回「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」

2016.10.23

 ここにきて吹き荒ぶ逆風は、まさに彼の人生を象徴しているのかもしれない。

 悲願の初タイトル獲得を目指す川崎フロンターレ。だが、明治安田生命J1リーグ1stステージは最後の最後で優勝を逃し、2ndステージも終盤に白星と黒星を繰り返して順位を落としてしまった。


 だが、そんな状況にも中村憲剛は決して歩みを止めない。自身をして「よくこんなに踏まれてもやっているな」と振り返るほど多難なサッカー人生を歩んできた彼にとって、いかなる状況でも諦めずに目標達成を目指すのは自分のスタイルだ。

 確実に成長を遂げてきた今シーズン、彼はどんな思いで戦ってきたのか、そしてチームの進化をどう見ているのだろうか。

 全4回にわたるロングインタビューで、今シーズンここまでの川崎フロンターレ中村憲剛の戦いを振り返る。

 第3回のタイトルは「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」。高みを目指し続ける川崎フロンターレに生まれた“変化”に触れながら、彼自身の思いに迫る。

[第1回]「残心」と「前に進んでいく力」
[第2回]「残心~その後~」
[第3回]「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」
[第4回]「すべては自分たちの手の中にある」


本気で優勝を意識したのは鳥栖戦


今シーズンの川崎フロンターレは、勝利を重ねてきたことで、より「勝ちたい」という気持ちを抱くようになったと思います。これだけ勝利を求めていくようになったターニングポイントや試合を挙げるとすると?

中村憲剛(以下、中村) やっぱり開幕戦じゃないですかね。アウェイのサンフレッチェ広島戦。やっぱり前年度王者のホーム開幕戦で注目されたカードだったし、そこに向けてキャンプからしっかりと準備をしてきて1-0で勝つことができた。うちは基本スロースターターなので、あの試合ですごく自信がついたと思います。相手は昨シーズンのチャンピオンでしたから。

決勝点を決めた時間帯(84分、小林悠)も素晴らしかった。

中村 狙いとしたところで点が取れました。でも、本当にあれで勢いに乗ったと思いますよ。どれだけいいサッカーをしても、勝ち点3が一番の特攻薬だから。あの勝利は大きかった。

ただ、続く湘南ベルマーレとのホーム開幕戦は……。

中村 4-4の試合ですよね。あれが逆に「そんなに甘くないぞ」って戒めになりました。そこから名古屋グランパスとヴァンフォーレ甲府に勝っていくんですけど、その後のサガン鳥栖戦(1st第6節)でギリギリの戦いを制したのも大きかったと思います。

あの試合はなかなかフロンターレらしさが出せてなかった。

中村 そうですね。ただ、今まではそういう展開で負けてきましたけど、我慢を覚えて、それを打ち破った。(1stステージ第5節)鹿島アントラーズ戦の引き分けもそうですね。今までは我慢が足りなかったと思います。

外から見ていて、鳥栖戦は「こういう勝ち方ができるチームになったか」と思いました。

中村 たぶん、本気で優勝を意識したのはあの時だと思います。それまでももちろん意識はしていたはずだけど、「これはもう勝てるチームの流れだ」と感じた部分はあったと思いますから。

本当に最後の最後で決勝点をもぎ取って勝った。

中村 そうですね。別にずっと押されていたわけじゃなくて、僕らがボールを持ってたけど、思ったような攻撃ができなかった中で、ああいう粘り勝ちができるようになった。相手からしたらすごく嫌だろうし、自分たちにとってはすごく大きな自信になりました。


相手に引かれても「うわっ!」とは思わなくなってきました


ただ、ホームでの浦和戦(1st第8節)には完敗しました。

中村 あれは結果的に向こうがいろいろと上回った試合だったと思います。もっとメンタルの持ち方や臨み方でやれたことはあったと思うし、僕たちもホームで絶対に勝つという気持ちで準備して臨みましたけど、最終的には向こうが上回った。そういう意味ではすごく悔しかったし、2ndステージにアウェイで借りを返せたのは良かったと思います。

アウェイの浦和戦については後ほど聞かせてもらうとして、1stステージのポイントは他にもありましたか?

中村 アウェイの柏レイソル戦(第11節)ですかね。ネットがリーグ戦初スタメンの試合で、そこからチームとしていろいろと成熟していった感じはあります。おそらく“ゼロ”が増えていくのはそこからなんですよ。もともと無失点に抑える試合は多かったけど、より意図的に“失点ゼロ”が増えたのはそこからだと思います。

やっぱり相手も“フロンターレ対策”をしてきますよね。

中村 それはしてきますよね。ただ、されていると言っても、前からガッとプレスを掛けてボールを取りにくるか、ラインを下げてブロックを作るかのとちらか。それでも自分たちのサッカーで崩したいとは思っています。

相手にベタ引きされても問題にしていない印象があります。

中村 そうですね。よっぽどじゃない限りは苦にならなくなってきています。そこのクオリティは上がってきたし、より緻密になってきました。5バックで臨んでくるチームもありますけど、相手が(守備を)締めていても崩せるようになっています。逆にそれだけ下がってくれれば、うちにとっては本当にハーフコートゲームができるチャンスなわけなので、相手に引かれても「うわっ!」とは思わなくなってきました。

反対にガンガンくるチームは嫌じゃないですか?

中村 ガンガンきてくれれば、逆にスペースが空いてきますから。2ndステージの湘南戦(第6節=3○2)は3-0になってからの戦い方が非常にまずかったけど、もっとクオリティを上げられる部分はあった。求め続けたらキリがないけど、「もっともっと」と高みを突き詰めていくほうがいい。無敗記録を追い求めるんじゃなくて、自分たちのクオリティに目が向いているのはいいことだと思います。もちろん試合に勝っても課題は残るけど、勝たないと先に進めないですから。湘南に3-2で勝った後には喜ぶというよりは「どうしてあそこでミスが起こるんだ」って話し合いばかりでした。あそこまで追い上げられる試合をしてしまったのは悔しいし、ただ勝つだけでは満足できない集団になってきていると思います。


自信に溢れたメンタルで、みんなが堂々とやらなければ相手を凌駕できない


そうなってきたのは今年から?

中村 もともと高みを目指すところはありましたけど、なかなか結果が出ていなかったですから。いいサッカーをしても、結果が出なければ確信を持って前に進めない。途中で半信半疑になる選手も出てくるし、そういう選手が一人でも出てくると、どうしてもうまく回らなくなる。自信に溢れたメンタルで、みんなが堂々とやらなければ相手を凌駕できないんです。今シーズンに関して言えば、結果が出ていることで得た自信はすごく大きいと思います。

フロンターレのサッカーを考えると、ピッチ内で一人ひとりが自信を持って動き直さなければいけないわけですしね。

中村 そうですね。ミスが続いたからといって、「もうやれません」と相手の背後に隠れちゃったら、フロンターレのサッカーにはならないわけです。そういう意味では「ミスを何回しても、何回でもやります」ってチャレンジする選手が増えてきたと思います。スペースに顔を出して、ちょっとした角度をつけてパスを出すことで流れが変わることの良さを全体が理解できるようになってきています。

確かに今シーズンは角度をつけたパスが増えているように感じますね。

中村 間違いなく増えています。“フリー”の定義が、みんなの頭の中がそろってきていのは感じます。「相手がいるから出せません」じゃなくて、相手がいても「自分がサポートに行けば、2対1になってパスが出せる」ってことを理解できるようになってきたから、どんどん足下につけるようになってきた。出すパスの質も変わってきています。

短い距離でも角度のあるパスが増えているように見えます。

中村 増えてますね。そういうパスを出しながら追い越した選手の足下に入れることで相手を置き去りにしたりとか、いろいろなことができるようになってきました。そうすると面白いように崩せる。

パスを出せば、相手が寄ってくる。それでマークやスペースがズレれば、そこを数的有利な状況で使えばいい。その繰り返しということですか?

中村 そうですね。サッカーは選択と判断の連続ですから。相手や周りの予測を上回ることもできるようになってきました。

風間さんもベンチ前で見ていて、「そこを突破するか」って思うことが出てきたと言ってました。ただ、それだけの手応えがありながら、1stステージは……。

中村 自分のせいで取れなかったと思っています。情けないです。


福岡戦を今のメンバーが経験できたのは、チャンピオンシップで生きてくる


腰痛で欠場した第16節福岡戦が引き分けに終わって、最終節を前に首位陥落。そのままステージ優勝を逃してしまったわけですけど、そこがまさにタイトル獲得に向けた『残心』だったのかなと。

中村 ただ、いつまでもそこに向き合っていても仕方がないので。もし本気で向き合ったら、あの1週間は立ち直れないくらいのショックだったし、自分で自分に腹立たしかった。結果的に周りにそう言われる結果になってしまったのは事実ですから。

絶対に出たい試合で、首位のまま最終節を迎えたいゲームだったと思います。

中村 でも、無理でした。動けなかった。ちょっとやそっとだったらやってます。(2nd第2節名古屋戦で負った)4週間のケガを2週間で治して出るくらいだから、やる時はやる。だから試合をできなかったことはすごく腹立たしかった。結局1週間後の大宮アルディージャ戦に出ることができて、一部では「そこでできるんだったら、どうして福岡戦に出られないんだよ」って言われたけど、違うんです。トレーナーのみんなが必死にケアをしてくれて、自分でもケアをして、何としても大宮戦に出るための可能性を追求した結果だった。2ndステージの名古屋戦でケガをしたあともそうでしたけど、トレーナーを含めた周りの人たちがオフを返上したりして本当に復帰に向けて力になってくれた。だからこそ両方ともあれだけの短期間で復帰できたし、そこに関しては本当にしかない。その気持ちに結果で応えたいと思うんです。

その悔しさと感謝がまた新しいパワーに変わっていると。

中村 ポジティブに捉えるしかないですからね。もし1stステージを取ってたら、緊張感を保ったままでプレーできていないかもしれないですし。自分としてはあの悔しさが今も続いているし、もっと高いクオリティのサッカーを見せなければいけないと思うようになっている部分はあります。実際、フロンターレで優勝争いをしたことのある選手がほとんどいなくて、タイトルに近付いたのは2009年が最後。僕と井川(祐輔)、タサ(田坂祐介)、ノボリ(登里享平)くらいだと思うんですよ。そういう意味では1stステージの福岡戦を今のメンバーが経験できたのは、必ず2ndステージ以降、そしてチャンピオンシップで生きてくると思います。

初めての経験を若い世代ができたというメリットもあった。

中村 それを経験できたのは、長い目で見たら悪くないのかもしれないと思います。

チーム内でもあの福岡戦はみんなが心に刻んでいる?

中村 そう思います。あえて誰も言わないけど、それぞれ得るものは多かったんじゃないかなと。自分としては結局チームに迷惑を掛けたわけだし、ここからチームに貢献していくしかない。出られなかったのは僕自身の落ち度だと思ってるから、あの悔しさは今のモチベーションの一つになってます。

取材・構成=青山知雄
写真=新井賢一、Getty Images

第1回「残心」と「前に進んでいく力」
第2回「残心~その後~」
第4回「すべては自分たちの手の中にある」

■Information■

【書籍情報】
『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』発売中

著書/飯尾篤史
発行・発売/株式会社 講談社
定価/1,500円(税別)
Jリーガー中村憲剛の生きざまを描いた人物ノンフィクション。
南アフリカ・ワールドカップで残した大きな悔いを、ブラジルの地で晴らしたい。そのために中村は「日本代表」と「川崎フロンターレ」、2つの車輪で前進しようとするのだが――。苦悩と歓喜の日々の先に待っていたのは、代表メンバーからの落選だった。
高い壁にぶつかり、それを乗り越えたと思ったら、今度は落とし穴に落っこちて、這い上がる。その繰り返しだった。それでも中村は、その経験をバネにして、未来を手繰り寄せてきた。
「だからね、未来は常に明るいんですよ」
挑戦と挫折を繰り返し、35歳を迎えた今なお「サッカーがうまくなりたい」と悪戦苦闘を続ける、プロアスリートの物語。

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