FOLLOW US

【スペシャルインタビュー】 中村憲剛(川崎) 「フロンターレはもっと強くなる」/第2回「残心~その後~」

2016.10.22

 ここにきて吹き荒ぶ逆風は、まさに彼の人生を象徴しているのかもしれない。

 悲願の初タイトル獲得を目指す川崎フロンターレ。だが、明治安田生命J1リーグ1stステージは最後の最後で優勝を逃し、2ndステージも終盤に白星と黒星を繰り返して順位を落としてしまった。


 だが、そんな状況にも中村憲剛は決して歩みを止めない。自身をして「よくこんなに踏まれてもやっているな」と振り返るほど多難なサッカー人生を歩んできた彼にとって、いかなる状況でも諦めずに目標達成を目指すのは自分のスタイルだ。

 確実に成長を遂げてきた今シーズン、彼はどんな思いで戦ってきたのか、そしてチームの進化をどう見ているのだろうか。

 全4回にわたるロングインタビューで、今シーズンここまでの川崎フロンターレ中村憲剛の戦いを振り返る。

 第2回は「残心~その後~」というテーマをベースに、今シーズンのチームが見せてきた成長の裏側をキャプテン自らが分析。安定した戦いを支えた背景にあったものとは。

[第1回]「残心」と「前に進んでいく力」
[第2回]「残心~その後~」
[第3回]「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」
[第4回]「すべては自分たちの手の中にある」


意識しているのは、とにかく自分たちの質を日々の練習で上げていくこと


今年発売になった『残心』という書籍は、「これからも中村憲剛のストーリーは続いていく」という余韻を残して終わっているじゃないですか。そう考えたら、今シーズンは『残心~その後~』なのかなと。

中村憲剛(以下、中村) そうですね。結果的に(本を出す)タイミングが良かったと思います。

ここからは、まさに『残心~その後~』の話を聞きたいんですよね。まだシーズン途中ですけど、今年も一冊書けるくらい紆余曲折ありますから。

中村 間違いないですね。第二弾も出してもらおうかな(笑)。

ということで、ここからは今シーズンの話を深掘りしていきますね。

中村 分かりました。

明治安田生命J1リーグ1stステージはリーグ最多の33得点を奪って2位。年間成績でも21勝6分5敗(10月22日現在)で2位につけています。早々に年間3位以内を確定させ、年末の明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ出場権獲得を決めました。シーズンを通じて上位争いをできている結果に関して、率直な感想はいかがですか?

中村 僕たちも今の自分たちを想像して期待もしてましたけど、実際にそこばかりを見てやっているわけじゃなくて、とにかく目の前の、次に来る試合に向けてみんなでやってきた結果だと思います。例えば夏場に15戦負けなしだった時も、ロッカールームで「15戦負けなしだよ」とか「16試合目もいこうぜ」って言葉は全く出てこなかった。誰も意識していない。意識しているのは、とにかく自分たちの質を日々の練習で上げていくこと。もっともっといいプレーをしたいし、自分たちでボールを握って相手を押し込んでハーフコートゲームをやろうというサッカーは、風間(八宏)さんが監督になった時から言っていて、それを徐々に年々具現化できるようになってきた。今年に関しては、それが特にできる試合が増えて、今度はそこでボールを失っても、すぐに取り返しにいくことができるようになってきた。ゆっくりではありましたけど、確実に階段は上ってきていると思います。

昨シーズンまでとの違いが生まれるような変化のきっかけがあったんですか?

中村 メンバーが毎年10人くらい入れ替わる中で、今年に関しては、特に守備の補強が大きかったと思います。(チョン)ソンリョンとか、(エドゥアルド)ネット、奈良(竜樹)ちゃんもそう。そこに途中からエドゥ(アルド)が入ってきた。そこからハマってきて、今まで持っていた攻撃性能の良さに、守備での頑丈さがプラスされたところがあるなと。


みんなが何をすべきかを理解できるようになってきたのが大きい


正直、フロンターレの持ち味として守備が挙げられるようになるとは思っていなかったです。

中村 一人ひとりがモヤモヤを抱えながらやっていないことも大きいと思います。それぞれ状況に応じたプレーが分かってきた。まず大前提としては、ボールを握りましょう。ボールを失ったら奪い返しましょうって感じで、先に守備があるわけじゃじゃない。そういうスタイルでずっとやってきた結果、自分たちでボールを握って陣地に押し込んだらどうなるかが本当の意味で分かるようになってきたんだと思います。

今シーズンはパスを回しながら押し込んで、ボールを失ってもすぐに奪い返したり、苦し紛れにロングボールを蹴らせたりして再びマイボールにすることが多いですよね。で、そのままハーフコートで攻め続ける。

中村 もちろん試合の流れで押されることもあります。でも、その時にもちゃんと守れるようになってきました。

そこは具体的に今までと何が違うんですか?

中村 今までだったら、ずっと押し込んでいた時でも、「えっ?」っていう形でポロっとやられたりしていたんです。でも、今シーズンは一本のカウンターでやられちゃうパターンが本当に減った。もちろん自分たちでリスクマネジメントできるようになったことに加えて、押し込む質の高さも変わったと思います。攻から守に切り替える部分が特に。前線の選手の切り替えは本当に早くなった。苦しい時でも、そこに全員が立ち帰ることができる。後ろから一言伝えるだけで、みんなが何をすべきかを理解できるようになってきたのが大きいです。「えっ、どうすればいいの?」って戸惑う選手はいないから。

今までは新加入選手が風間さんのサッカーを理解するまでに時間が掛かっていましたよね。

中村 掛かりましたね。

今シーズンは守備陣やセンターラインに新しい選手が多かったですが、うまくチーム作りが進んだ背景は?

中村 今シーズンも確かに時間はかかったんですよ。1stステージのセンターバックは奈良ちゃんとエドゥのコンビが多かったんですけど、守備陣が思った以上に守ってくれた。あの二人が入ったことで後ろからつないでいくという本来の良さはちょっと少なくなったんだけど、その一方でカウンターを食らった時にしっかり守れるし、自分たちでブロックを作った時に最後のところで跳ね返してくれる。そうすれば攻撃陣がいつか点を取れるだろうと。そのサイクルがどんどんハマっていった感じですね。最初からフィットした選手はあまり多くないし、ネットなんかは最初なかなか合わなかったけど、その中で新戦力の選手も徐々に出場機会を増やしていくわけで。


僕らが面白ければ見てるほうも面白い


中盤でネットが相手を潰して、そこから縦パスをビシッと入れる。今シーズンの一つの武器だと思います。

中村 そうですね。あれでチームがワンランク上がったと思います。若手や中堅が自信をつけているのもそう。(小林)悠とか(谷口)彰悟、(大島)僚太、(車屋)紳太郎なんかが、すごく良くなってる。そういう意味ではうれしいですよね。そういう選手がメディアに対してチームのことを考えた発言をするようになったし、ちょっとずつ自分たちが中心でやっていくという気概を見せられているシーズンなので。僕としては最近、すごく気が楽です。そういうチームを作ると風間さんが一番最初に来た時から言ってたんですよ。僕が力をセーブして周りに合わせるんじゃなくて、100パーセントの力でやれるチームを作る。自分の考えやひらめきに周りがついてこれるようにするって言ってくれて。今はそれ以上のものになってきているから、そこは結果が出せるようになった一つの要因だと思います。

今、すごくサッカーが面白いんじゃないですか?

中村 面白いですよ。面白いし、僕らが面白ければ見てるほうも面白いだろうし。そういう意味では楽しめています。最近は仕上げの部分に集中できることが多いから、前で点に絡むことに意識を傾けられますし。

もう安心できるようになってきた?

中村 そうですね。もし展開的に苦しいと思ったら、僕が少し後ろのポジションに下がればいいし、自分のプレーにもいろいろと変化をつけられる。そういう意味でも面白いです。

1stステージ途中からリーグ戦16試合無敗という記録もありました。負けない強さ、勝ち切る強さを身につけつつある背景は、やはり後ろが跳ね返す力をつけてくれたのが大きい?

中村 いろいろ要素はあると思いますけど、それは大きかったですね。あとは90分の中で、みんながイライラすることなく、いい声を掛けられるようになったのが結構大きいとは思います。

それは選手それぞれが落ち着いて試合を見られるようになった。

中村 慌てなくなってきました。1stステージでギリギリのゲームを勝ってきて、それがみんなの成功体験になっているから。こういうメンタリティだったら最後に勝てるというポイントを自分たちでつかんてきたから、「何でこうなるんだよ」という声はほとんど出ないですね。

いい意味で求め合う声がある。

中村 そうですね。質を高めようという声はあるけど、相手を貶めるような言い方はほとんどないですし。


ここ2年くらいは「どうやったらチームとして勝てるか」を考えすぎる時期があった


確かに取材していても選手個々の意識がすごく上がっているように感じます。2ndステージ第2節名古屋グランパス戦で憲剛さんがケガをした後、選手たちは「中村憲剛選手がいないけど?」って聞かれても……。

中村 みんな、「耳にタコができる」みたいな感じだった(苦笑)。

キャプテン不在だった1stステージ第16節アビスパ福岡戦で勝ち切れずに首位の座を明け渡してしまったからか、そう言わせたくないという思いがピッチで出せるようになってきた。

中村 僚太なんて「その話、うんざりしてます」みたいなコメントを残すくらいですから。周りから相当言われてるんだろうなと感じたし、その発言は負けず嫌いでいいと思います。結局、そういうプライドとかメンタルが自立心を育むことになるし、「自分がチームを勝たせる」というコメントが出たり、チームのことを大局的に見える選手が増えてきました。

楽をできるようになったとまでは言わないですけど、自分の持ち味をより出せるようにチームの状況がシフトしてきている?

中村 そうですね。風間さんには最初から「自分のことに集中しろ」って言われていたし、どんどん上を目指していくことを考えた。それと並行して自分が最年長になって、チームのことも考えるようになってきました。ただ、ここ2年くらいは「どうやったらチームとして勝てるか」を考えすぎる時期があったんです。だけど、それを自分が考えすぎても仕方がないかなと気付いたところもあります。

それでも考えてしまう。

中村 もちろん。プレーに影響しない程度にですけど。今はそれよりも自分のプレーに集中しています。「楽って言っちゃいけない」とは言ったけど、今まで背負ってたものから考えると、結構楽にはなりました(笑)。2列目では「みんなが運んできたボールを最後に仕上げる」という仕事に専念できていることは大きいと思います。

取材・構成=青山知雄
写真=新井賢一、Getty Images

第1回「残心」と「前に進んでいく力」
第3回「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」
第4回「すべては自分たちの手の中にある」

■Information■

【書籍情報】
『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』発売中

著書/飯尾篤史
発行・発売/株式会社 講談社
定価/1,500円(税別)
Jリーガー中村憲剛の生きざまを描いた人物ノンフィクション。
南アフリカ・ワールドカップで残した大きな悔いを、ブラジルの地で晴らしたい。そのために中村は「日本代表」と「川崎フロンターレ」、2つの車輪で前進しようとするのだが――。苦悩と歓喜の日々の先に待っていたのは、代表メンバーからの落選だった。
高い壁にぶつかり、それを乗り越えたと思ったら、今度は落とし穴に落っこちて、這い上がる。その繰り返しだった。それでも中村は、その経験をバネにして、未来を手繰り寄せてきた。
「だからね、未来は常に明るいんですよ」
挑戦と挫折を繰り返し、35歳を迎えた今なお「サッカーがうまくなりたい」と悪戦苦闘を続ける、プロアスリートの物語。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO