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松本が“伝家の宝刀”でライバル清水を撃破。歓喜の裏側に隠された選手たちの一瞬の判断とは

2016.09.25

工藤浩平のゴールを祝福する松本の選手たち [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 勝ち点4差で迎えた4位清水エスパルスとの大一番。負ければ1差に詰められる一戦で、松本山雅FCが誇る“伝家の宝刀”が炸裂した。しかも、十分に警戒する相手の裏をかく形で。

 25日に行われた2016明治安田生命J2リーグ第33節。勝ち点61でJ1自動昇格圏内につける松本が同57の清水を松本平広域公園総合球技場(アルウィン)で迎え撃った一戦。持ち前のハードワークで守備から主導権を握った松本は24分、中盤やや後方から左ストッパーの喜山康平がプレースキックを前線に送り込むと、これをファーサイドの山本大貴がヘディングで折り返し、中央に走り込んだ工藤浩平が右足で押し込んで先制。直接FK、PKを含めて今季44ゴール中20ゴールを決めていたセットプレーで貴重なゴールを奪った。試合はこの一発が決勝点となって松本が勝利。“十八番”の展開でホームチームに凱歌が上がった。


 松本は反町康治監督が入念にセットプレーのバリエーションを準備することでも有名だが、このシーンでは選手たちの“臨機応変さ”が値千金のゴールをもたらしていた。

 ボールをセットしたキッカーの喜山康平が前線を見渡す。ファーサイドには身長188センチのFW高崎寛之と同187センチのDF飯田真輝が待機。さらに同183センチのDF後藤圭太も待ち構えていた。通常なら折り返しを狙うパターンは彼らをターゲットにするところだが、当然ながらヘディングの強い選手には相手チームも空中戦に勝てる選手を当ててくる。そこでペナルティエリア内の状況を確認した喜山と目が合ったのが、のちにゴールをアシストすることになる山本だった。キッカーを務めた喜山が狙いを明かす。

「飯田くん、高崎くん、圭太くんにはヘディングの強い選手がマークについていたんですけど、ヤマ(山本大貴)のところはミスマッチが起きているように見えた。(前線を)見渡した時に目が合って、あいつが(ボールを)欲しそうにしていたので、そこに蹴ったらうまく頭で落としてくれて、そのこぼれを(工藤)浩平くんが決めてくれた。相手はヤマを狙ってくるとは思わなかったんじゃないですかね」

 ゴール前で巧みな動き出しから値千金の決勝点となる一発を決めたのは工藤。かねてから「こぼれてこい、こぼれてこい」と狙っていた彼のところに絶好のボールが落ちてきた。しっかりとフィニッシュを仕上げたヒーローは、「セットプレーはうちの強み。山本、飯田、ヒロ(高崎寛之)もそうですけど、誰かが折り返してくれると思った。走り込んだところにボールが来たので決めるだけでした」と冷静に振り返った。

 昇格争いのライバルを下す一撃は、喜山が下した瞬時の判断から生まれたと言っていい。セットプレーを入念に準備する反町監督だけに、絶対的に指揮官のトレーニングどおりにプレーすることが求められるかと言ったら、決してそうではないという。喜山が話す。

「今回はヤマと目が合って、うまく決まってくれましたけど、長く一緒にプレーしている選手が多いので、その瞬間瞬間の判断で共通認識が持てるんですよ。反町さんもピッチ内で判断していいと言ってくれていますし」

 ピッチ内で起きていることを、ピッチ内で解決する。それは簡単なようで、なかなかできないことでもある。もちろん指揮官が入念に行っている事前スカウティングが選手たちの判断を後押ししているのも事実だ。ライバル清水を下すことになる貴重なゴールは、チームを挙げて取り組んできた戦略と選手たちの“臨機応変”な判断から生まれていた。

文=青山知雄

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