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サッカーはJリーグのみにあらず。僕らの「ホーム」はどこにでもある

2014.07.12

[写真]=白井誠二

 週替わりで複数の論者が一つのテーマを論じ合う『J論』。今週のテーマは「W杯の日々から思う、Jリーグという日常」。いよいよW杯もクライマックスを迎えているが、J1リーグも7月15日から再開を迎える。この「僕らの日常」についてあらためて考えてみたい。今回は、ネットメディアをリードするフモフモ編集長がJ論に初登壇。JリーグがW杯の「代替物」には決してなれないと断じつつ、「日常としてのサッカー」について大いに語ってもらった。

■W杯の延長上にJはない


 W杯でサッカー熱が高まって、うっかりJリーグに行ってしまう。しばらくの間、そういう人がそれなりに発生することでしょう。W杯が終わった→サッカー見たい→よしJリーグだ、というのは自然な発想です。しかし、残念ながら、それは必ずしも幸せな選択とは言えないように思います。

 身も蓋もない言い方になりますが、JリーグとW杯はまったくの別物です。W杯気分を引きずって観に行っても面白いもんじゃありません。ロッベンやネイマール、あるいはメッシのような、誰が見ても驚くほど速く・上手く・強い選手はJリーグにはいませんし、ワールドクラスのスーパープレーはそうそう飛び出しません。負ければ終わりという覚悟で、全身全霊をこの一戦に捧げる。そんな試合も滅多にありません。同じ0-0でも淡々と試合が終わったりさえします。世界のスターが死力を尽くし、勝利に涙し、敗北にうなだれるような「非日常」はJリーグにはないのです。

 多くのサポーターがW杯からJリーグに回帰するのは、彼らがすでにJを心の拠り所としているからです。言い換えれば、彼らにとってJは「ホーム」なのです。もともとJリーグをホームとしている人が、非日常の祭を終えて日常に帰るから、「あぁJリーグがあって幸せだな」「やっぱりホームは落ち着くな」「日本代表より俺らがチームのほうが楽しい」という話になっているわけです。

 現時点で、特にJリーグに何の思い入れもない人が、「W杯の代替物」としてJリーグ観戦に行っても、前述のような「非日常のないものねだり」になることでしょう。それはハワイの映像を見て、スパリゾートハワイアンズに行くような話であり、「何か違うな」となって当たり前。こうした不幸な行き違いこそが、「Jリーグはレベルが低い」的なイチャモンとなったり、「ニワカは来るな」という拒絶につながったりしているように思うのです。

 サポーターたちは「レベルが高い」からJリーグを見ているわけでも、「有名人がいる」からJリーグを見ているわけでもありません。サッカーに限らず、ファンとはそういうものだと思いますが、「好き」だから見ているのです。好きになれるかどうか。自分の心の拠り所とできるかどうか。まずそれを考えることが、今のサッカー熱を正しい方向に向ける術ではないでしょうか。

 ならば、選択肢は「Jリーグ」のみにあらず。

 少年たちは世界のプレーに憧れ、「自分もああなりたい」と思ったことでしょう。そのサッカー熱は、観戦よりも実践に向けたほうがいい。「実践」という意味では、Jリーガーを見るよりもチャンピオンズリーグのビデオを見た方が有益かもしれません。いっそ、現地に行ってみたらより刺激になるかもしれません。そこで盗んだテクニックを、学校のグラウンドでぶつけたら最高に楽しいでしょう。

 熱狂するサポーターに驚き、「あのお祭り楽しそう」と思った人は、そういう場所を選んで出向いたほうがいい。有名選手がおらず、カテゴリ的にもトップではないけれど、サポーターの熱さで名高いJ2松本山雅のホームスタジアムに行ってみるとか。勇気を持って、浦和レッズのサポーター席に飛び込むのもいいでしょう。

 日本代表を応援するときのように、我が事として勝敗に一喜一憂したい人は、その対象が本当に「川崎」や「広島」や「横浜」なのか、もう一度考えたほうがいい。何となく有名で、何となく強そうだったら愛せるものなのか。自分に縁も所縁もない街の兄ちゃんの試合を、我がこととして見つめられるのか。自分の母校のサッカー部や、近所の草サッカーチームのほうが、自分を熱くさせたりはしませんか。

 僕自身はJリーグと結構な距離感があるタイプで、「Jリーグという日常」「Jリーグがホーム」といった感覚は正直持っていません。僕が一番「ホーム」を感じるのは、家から歩いて5分のところにホームスタジアムを構えるJFLのチームに対してです。

■あなたの「ホーム」はどこですか?

 ご近所の兄ちゃんの試合を、ご近所の紳士淑女と眺める。近隣の商店が提供する弁当を食べ、芝生席で寝転ぶ。試合のレベルは高いとは言えないけれど、僕の暮らす街にチームがある。その喜びこそが僕の「ホーム」であり、そこで過ごす暖かな週末こそが、僕が帰る日常なのです。日本代表もいませんし、客も少ないですが、そこではW杯でもJリーグでも決して感じることができなかった、「ホーム」を感じることができるのです。

 Jリーグだけがサッカーではない。

 無理にJリーグを見る必要はない。

 Jリーグを見ているからエライわけでも、Jリーグを見ることが日本サッカー発展の唯一の道でもありません。

 胸に灯ったサッカー熱をぶつける先をこれから探そうとしている人は、「Jリーグを見に行く」という発想は一度捨てて、ゼロベースで自分の「ホーム」はどこなのか考えてみてはいかがでしょうか。一番近所の草サッカーチームこそが、自分の「ホーム」かもしれません。あるいは自分が公園でボールを蹴ることこそが、自分の「ホーム」かもしれません。逆に、遠い遠い異国の地に「ホーム」を見つける人もいるかもしれません。

『J論』というサイトを訪れる、Jリーグおよびサッカーに精通した皆様におかれましては、「ホーム」を探してJリーグにやってきた人々を温かく迎え入れ、「何か違うな」となっていたら適切な場所へ導いていただければ幸いです。「スイスのバーゼルという街に行ってください」とか、Jリーグに限定されない広い選択肢・広い心でもって。

 Jリーグに新たなお客を取り込めなくても、W杯をきっかけにサッカー好きになってくれたら、それでいいじゃないですか。サッカーが日常の一部になってくれたら、それでいいじゃないですか。きっと、そのほうが、みんな幸せになれると思うのです……。

文●フモフモ編集長

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