2013.10.26

ドラフト会議のないJリーグ…新人獲得におけるプロ野球との違いとは

 10月24日のプロ野球ドラフト会議では、育成枠も含めて89名の選手が指名を受けた。全選手の進路を、3時間半で決めるがプロ野球のやり方だ。

 サッカー選手のJリーグ加入が決まる時期はいつか--。こちらの答えは「1年中」である。2014年度の新加入選手を例に出せば、今年4月2日の磐田が、内定発表の皮切りだった。それから5月、6月とコンスタントに昇格、新加入の発表が続いている。

 Jリーグには2種類の入口がある。一つはアカデミー(下部組織)からの昇格だ。U-18チームで育てた選手は、そのクラブに契約の優先権がある。もう一つは外部からの新卒採用だ。Jを志望する選手は、試験や公式戦がない期間を利用し、各クラブの練習に参加することが多い。“インターンシップ”で適性やお互いの相性を確認したのち、プロ入りが決まっていく。

 野球選手の立場で考えると、ドラフト制度には、自分の意志で進路を選べないデメリットがある。進路決定を秋に引っ張ることで社会人チームの内定、大学の推薦を取り逃がすリスクも無視できない。そこでトップレベルの選手でも早めに入社、進学を決めてプロを避ける例が多い。アメリカなら大卒後の選択肢はプロしかないが、社会人野球が盛んな日本ではドラフト制度に穴が生まれている。

 話をサッカーに戻すと、自前で育てられる、相性を見て契約できることは、Jリーグにドラフト制度がないからこそ得られるメリットだ。一般的に自由競争のデメリットとされる獲得コストの上昇も、Jでは生じていない。プロ野球の各球団は全国各地にスカウト網を張り巡らしている。欲しい選手をドラフトで指名し損なうリスクを考えれば、獲得予定者数の何倍もリストアップする必要があるからだ。しかしJリーグの専任スカウトは、J1でも1クラブ1,2名がいいところ。契約金に相当する支度金は、独身選手なら380万円以下と決まっている。1億5千万円以下のプロ野球に比べると、比較にならない安さだ。

 ただし、これには契約制度の違いも絡む。プロ野球の選手はフリーエージェント(FA)の資格を得るために、メジャーリーグを目指すなら9年、国内移籍でも7年の在籍が必要だ。しかも前所属球団への補償が必要なため、相当な大物選手でないとFA制度による移籍は難しい。一方のサッカーは、1年でフリーエージェントになる選手もいる――。これは言葉のアヤだが、実はフリーエージェントを日本語にそのまま訳すと“自由契約”の意味。戦力外選手にとって自由契約は悪夢だが、一流選手にとっては朗報になる。自由に各クラブと交渉し、報酬を増額させるチャンスだからだ。

 プロ野球には「自由契約」「任意引退」という2種類の退団方法がある。自由契約は制約なしにどこと交渉してもいい状態。任意引退は自己都合退職に相当し、前所属球団の同意がなければ他球団に移籍できない立場だ。野茂英雄は94年に任意引退扱いのまま渡米し、ドジャースに入団したが、今は国外という抜け穴も埋まっている。つまり選手が自由に取れる行動は任意引退止まりで、球団の同意なく移籍することは許されない。サッカー界では契約期間が終わったら、移籍金なしで自由に移籍できる国が大半。逆に言うとクラブが選手を縛れないのなら、高額な契約金が生まれる余地もない。

 ドラフト制度を採用しているプロサッカーリーグが、アメリカと韓国にある。この両国は学生スポーツが盛んで、アマチュアからいい選手を獲ることが容易だ。加えてリーグ戦に降格がないため、「1部に入ったのに3部でプレーさせられる」というような心配がない。ただし韓国(Kリーグクラシック)のドラフトには、海外移籍という大きな穴が浮上している。特に日本は絶好の“逃げ場”になっており、ロンドン五輪の韓国代表はJリーガーが7名もいた。そのような弊害を受けて、韓国は既にドラフト制度の廃止に動いている。

 Jリーグにとっても、海外クラブへの人材流出は懸念材料と言い得る。中京大中京高からアーセナルに進んだ宮市亮はその先駆的存在だ。FCバルセロナのカンテラに所属する久保建英のように、10歳の若さで国外へ雄飛した選手もいる。ただし“お金だけ”が理由ならともかく、レベルで上回る海外クラブにチャレンジするとことは、アスリートとして当然の行為だ。経験はいずれ日本に還元されるという、プラス面もある。

 自由競争の弊害として指摘される「戦力の不均衡」も、Jリーグを見る限りは目立たない。直近の10シーズンで誕生したJ1の優勝クラブは7チーム。11年にはJ2から昇格したばかりの柏が優勝するなど、実力的に接近したリーグ戦が日本では行われている。むしろビッグクラブの不在が、Jリーグの課題として囁かれるほどだ。

 もちろんJリーグとプロ野球は歴史と置かれた立場が違い、制度の優劣を論じるつもりはない。とはいえ両リーグを比べてみれば、Jリーグの新人獲得制度が自然で合理的な仕組みだと、お分かりいただけるだろう。

文●大島和人
大島和人(ツイッターアカウント@augustoparty)
1976年生まれ。外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年ころからライター活動を始める。ヴァンフォーレ甲府、FC町田ゼルビアの取材を活動の柱としつつ、野球やラグビー、バスケット、バレーの現場にも足を運ぶ“球技ライター”。「サッカーだけを強化しても、サッカーは強くならない」が持論。日本がバスケ強国のスペイン、バレー王国のブラジルのような“球技大国”になることを一生の夢にしている。

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