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初芝橋本|“苦しい世代”との評判を覆せるか…武器はどん底から這い上がるメンタリティ【選手権出場校紹介】

2020.12.25

[写真]=森田将義

 FW大谷澪紅(現・大阪体育大学)と名願央希(現・産業能率大学)の2トップを擁した昨年のチームに比べると、今年の初芝橋本のチーム力が落ちるのは明らかだ。県の新人戦を制した2月の時点でも、阪中義博監督のコメントは厳しい言葉ばかり。選手権予選が始まる直前の9月末も、得点が奪えない試合が目立ち、辛辣な言葉が続いた。

 ただ、初芝橋本の選手たちは逞しい。どん底から這い上がるメンタリティを持っている。中学時代に華々しいキャリアを持つ選手はほとんどいないが、初芝橋本で過ごす3年間によって、心身ともに鍛えられ、逞しくなっていくのが例年の流れだ。ジャンプする際の踏み込みと同様に、より深く沈むほど高く飛べるのと同じで、苦しい経験をすればするほど強くなれると言っても過言ではない。阪中義博監督は、「勝つことがすべてではない。うちみたいなチームは、負けて伸びていった方が良い。変に勝ってしまえば、“僕らはできるやん”と勘違いしてしまう」と口にする。

 今年は、そうした苦しみをより多く味わってきた世代だ。5年ぶりの参戦となったプリンスリーグ関西では6戦全敗に終わったが、「今年はスーパープリンスリーグに出場でき、履正社さんや京都橘さんにいろんな勉強をさせてもらい、力をつけた」(阪中監督)。選手権予選前に行った県外の強豪や大学生との練習試合でも結果を残せなかったが、生まれた課題を修正し、成長した結果が3年ぶりの選手権出場に繋がった。予選後に行った大阪産業大附属とのプリンスリーグの順位決定戦では、持ち味の積極的なプレーができず、0-2で敗戦。「優勝したことで勘違いして、プレーの思い切りがなくなっていた」(MF西淵啓斗、3年)選手たちにとっては、自分たちを再度見つめ直す良い機会になったのは間違いない。ここから選手権に向けて、再び這い上がっていくだけだと指揮官は前を向く。

 昨年の選手と比べると見劣りするだけで、今年も全国で活躍できるポテンシャルを持った選手はいる。跳ね返しに長けたDF尾崎功燿(3年)と、パワフルな突破とシュートを持つFW樫村宝(3年)は選手権を機にブレイクする可能性は十分。俊敏性のある西淵と俊足のMF安藤公揮(3年)によるサイドからの仕掛けも、切れ味は鋭い。ここにきて、188cmの大型FW土手開理(3年)が台頭しているのも心強い。「相手がどうこうではなく、自分たちが力を出せなければ意味がない。自分たちがやりたいことを突き詰めるだけかなと思う」と阪中監督が話す通り、後は持てる力を存分に発揮できるかが鍵だ。全員が初橋らしいハードワークする姿勢を見せつけ、“苦しい世代”との評判も覆してくれると期待している。

【KEY PLAYER】MF西淵啓斗

 兄の寛斗(現・桃山学院大)も、初芝橋本でプレー。学校近くに住むため、入学前からチームの練習に加わり、自らのプレーを磨いてきた。持ち味は俊敏な動きを活かしたドリブルとパスの使い分け。左サイドからのチャンスメイクに加え、身体の無理が効くため、ゴール前での仕事もできるマルチなアタッカーだ。

 今年は主力としての活躍が期待されたが、ゲームメーカー不在のチーム事情もあり、ボランチとしての起用が続いたため、持ち味を発揮できない試合が続いた。テクニックを生かしてゲームを作ることはできたが、ボランチは相手との接触も多く、当たり負けすることも多かった。「プリンスリーグで強い相手と対戦し、通用しない所があった。どうしたら変われるか考えながらプレーしたけど、あまり上手くいかなかった」と振り返る。

 消化不良が続いた一年だったのは間違いないが、高いレベルを経験できたことでプレースピードが速くなったのは収穫だ。本職である左サイドに戻った選手権予選も序盤こそは決定力不足に悩まされたが、試合を重ねるごとに周りとの距離感が良くなり、パスの質も高まっていた。その成果もあり、持ち味のチャンスメイクに加え、準決勝と決勝では貴重なゴールを奪うなど、これまでのうっ憤を晴らすかのような活躍ができているのは大きい。全国でも彼が躍動できるかが、白星の鍵になりそうだ。

取材・文=森田将義

By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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