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[東久留米総合]土から出直した空色のユニフォーム…東久留米総合は“1点差”で勝負【高校サッカー選手権】

2019.12.26

チーム一丸で選手権予選を勝ち抜いた東久留米総合 [写真]=平野貴也

 東京都予選の準決勝、試合の撮影準備をしている部員の様子を見に行った都立東久留米総合の加藤悠監督は、iPadを見てハッとしたという。普段は別の機材を使用しているが、西が丘サッカー場はスタンドの高い位置から撮影が可能だったために機材を変えていた。ところが、そのiPadが指揮官の脳裏にあった記憶を呼び起こした。

 現在のチームがスタートを切ったときのことだ。昨年度は都予選の2回戦で敗退。3回戦以上に進出したチームが得る次年度の関東大会予選の地区予選免除が消滅し、地区予選の新人戦からスタートを切ることになった。しかし、まだ3年生は東京都1部リーグも戦っている最中。加藤監督は、3年生チームのリーグ戦の指揮を執り、2年生チームの新人戦は、ほかのスタッフに任せ、撮影してもらった映像を帰宅してから確認した。

加藤悠監督 [写真]=平野貴也


「うちの学校は、新人戦の時期はC級ライセンスの講習会を行っているんです。齋藤(登、前監督)と私がインストラクターを務めているから。普段なら、うちの選手は自分たちの校庭の人工芝グラウンドで試合をできます。でも、自宅に持ち帰ったiPadの映像を見たら、東久留米総合の空色のユニフォームが、土のグラウンドで戦っていたんです。多分、初めてのことです。僕は、やっちまったな……と思いました。でも、その中で一生懸命に戦う選手たちの姿がそこにあって、本当にここから這い上がらないといけないなと思って、やってきました」

 2回戦敗退が、どれだけ想定外の早期敗退だったかを意味するエピソードだ。関東大会の地区予選には出ないことが慣例だから、ライセンス講習会の会場になっていたのだが、それが覆ってしまい、すでに予定が入っていたホームグラウンドを使えなかったのだ。都立東久留米総合は、中村憲剛(川崎フロンターレ)を輩出した都立久留米高校が前身のチームだ。都立駒場や都立三鷹とともに、私立校に対抗し得る都立校として活躍してきた歴史がある。OBである加藤監督は、恩師の齋藤前監督からチームを引き継いで、今年で2年目。就任した年にいきなり厳しい結果を突きつけられたのだった。

 今年もリーグ戦では、3勝3分12敗で10チーム中9位と苦戦。シードで準々決勝からの出場だったインターハイ予選も初戦敗退と苦しんだ。しかし、加藤監督だけでなく、選手も思い通りに行かない中から這い上がってきた。選手権予選では、堅守と伝統のサイドアタックを徹底。最終ラインが何人になっても守り切り、わずかなチャンスをモノにして勝ち上がった。主将の下田将太郎と長身の岩田蓮太の2枚のセンターバックを中心に守り、右の佐藤海翔、左の野口太陽が前へ運び、最後はドラマチックストライカーの松山翔哉(いずれも3年)が得意のミドルシュートを狙うスタイルだが、誰もが最初から主力だったわけではない。

 下田とともに最後の砦として活躍している岩田について、加藤監督は「スタッフから見れば、あの蓮太が試合に出ているのか……と涙が出るくらい。背は高いけどヘディングができない、パスは相手に渡してしまう……、そんな選手だった。でも、人望があるし、よく練習する。7月頃からチャンスをつかみ始めて、ぐんと伸びた。(攻撃の)ビルドアップなんて、ほかの上手い選手と比べたら目も当てられないですけど、前に出てインターセプトを狙う意識はあるし、長い足で相手のボールを突くとか、自分の特長を生かして頑張っている」と、目覚ましい成長を認める。東京都予選の決勝戦では、延長戦の後半に左CKから岩田がヘディングシュートで得点。直後に試合終了の笛が鳴る劇的な展開で優勝を飾った。

劇的な展開で選手権出場を勝ち取った [写真]=平野貴也


 劇的弾をアシストしたのは、高精度のキックを誇るMF足立真(3年)だが、新チームスタート時にはCチーム。土のグラウンドにさえ立っていなかった。

「自分は学校生活で疎かな部分があって、みんなが土のグラウンドでやっていたときは、応援席でした。遅刻をしたり、授業での態度が悪かったりですね。サッカー部を辞めることも考えていましたけど、加藤先生と話をして、『もう1回サッカーのために頑張れ』と言われて、続けることにしました。あのとき、辞めなくて良かったです。当たり前のことって、本当に大事だったんだなって、サッカーの面でも学校生活の面でもこの時期に気付くことが多くて、後悔していることは結構あります」(足立)

 チームとしての成績が出ない中でも、公立高の部活動らしく、選手の成長に目を向けて拾い上げてきた成果が、最後の最後で一つの花となった。チームのために戦う選手の集団になり、全国切符を勝ち取った。厳しい試合になることが予想されるが、加藤監督は「圧倒するとか、2点差をつけるとかはできない。リーグ戦も選手権予選も、勝った試合は全部1点差」と覚悟の上だ。

 全員でゴールを守り、必死に1点を奪う。土から這い上がって来た空色のユニフォームは、一丸で勝利を目指す。

取材・文=平野貴也

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