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ピッチで男泣き…“監督不在”の穴を必死に埋めた主将DF鈴木大誠の戦い

2015.01.12

星稜の主将を務めるDF鈴木大誠(左)[写真]=瀬藤尚美

「星稜高校の強さの秘訣は?」

 優勝チームに対するありがちな質問に対し、星稜の主将を務めるDF鈴木大誠は間髪入れず、そしてキッパリと応えた。

「河崎監督です。それ以外にないです」

 星稜を率いる河崎護監督は大会直前に交通事故という奇禍に遭い、入院を余儀なくされていた。鈴木は「最初はすぐに帰って来るものだと思っていた」と言うが、実際は違った。選手たちに対してあえて情報は伏せられていたが、すぐに現場復帰できるような容態ではなかったのだ。

 鈴木が最初は軽く考えていたという「監督不在」の影響を感じ始めたのは大会の2日ほど前だという。レギュラー選手と控え選手の間に温度の差がある状態。「出られない不満や、自分のプレーが思うように出ないことへの苛立ちが態度に出てしまっていた」(鈴木)。

 普段なら監督が何か動く状況だ。「河崎先生は全体に話している振りをしながら、実は特定の何人かに語り掛けていることがよくあって、それが本当に上手いんです」(鈴木)と言うものの、その頼れる監督がいないのだ。

 鈴木はすぐに他の3年生とも話しながら、控え選手への声掛けを意識的に始め、もう一度チームワークの大切さを再確認し、全員の目標をそろえる作業に入った。練習でチームのまとまりや一体感を取り戻せたと鈴木が実感したのは、「本当に直前も直前でした」。監督がいない中で、“もしも監督がいたら、どうしているだろう”と思った主将が率先して動いて、大会直前でチームが壊れる流れをせき止めていた。

 決勝直前、ロッカーアウトの5分前という段階で河崎監督から選手たちへのメッセージが木原力斗監督代行より読み上げられた。涙ぐみながら読み上げた木原監督代行を含め、多くの選手が涙を流してその話を聞く中で、鈴木は「俺は一人、『自分は泣くな泣くな泣くな』と念じていました」と笑いつつ、最後は「絶対、監督のために勝つ!」と鼓舞してチームをまとめた。いなくなって初めて分かる不在の大きさを皆が感じていたからこそ、そのメッセージは響いた。

 一度は逆転を許す最悪の流れの中でも、「ここでやらなあ、いつやんねん!!」と、「ひたすら気持ちを上げることだけ言い続けた。(プレーは)言わなくてもわかり合っている。苦しいからと気持ちが下がるようなやつはこのピッチに立っていない。後は気持ちを上げるだけだった」と語った主将は、試合後勝利の喜びを噛み締めながら、試合前にぐっと我慢した涙を存分に流した。

文=川端暁彦

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