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視界良好だったはずのフットサル界…W杯出場権を逃し激動の時代へ

2016.02.22

日本代表はプレーオフでキルギスタンに敗れW杯出場を逃した [写真]=河合拓

 フットサル界にとって、節目の1年となるはずだった。2006年に開幕したFリーグは、今シーズンで10周年を迎える。その年にコロンビアで行われるフットサルワールドカップで、フットサル日本代表はベスト8に入るべく、強化を続けてきた。そして、ミゲル・ロドリゴ監督が、監督に就任してから7年、日本代表は、史上最強のチームに仕上がっていた。

 このチームには、2人のキャプテンがいる。その一人であるFP滝田学(ペスカドーラ町田)は、「僕は最後方でプレーすることが多いですが、これだけ自信を持って1対1を仕掛けて、勝てる選手がそろった日本代表は、初めてだと思います」と、話した。もう一人のキャプテンであるFP星翔太(バルドラール浦安)も「順調に成長すれば、世界トップ4を狙えるポテンシャルがあると感じている」と、自信を見せた。

 そして、W杯予選を兼ねたアジア選手権を前に、日本国内ではコロンビア代表を招待しての親善試合が行われた。コロンビア代表は、2012年のW杯でベスト4に進出した強豪国であり、今年のW杯の開催国として強化を続けてきた。そんな強豪国に対し、日本は2連勝を収める。上位5チームに与えられるW杯の出場権獲得はもちろん、アジア選手権3連覇にも大きな期待が集まった。

 日本はグループステージ初戦のカタール戦に苦しみながらも1-0で勝利。第2戦のマレーシア戦では、前半だけで10得点を挙げて、11-1の大勝を収めた。グループステージ最終戦となったオーストラリア戦では、FP逸見勝利ラファエル(ベンフィカ)、FP森岡薫(名古屋オーシャンズ)、FP仁部屋和弘(バサジィ大分)と、点を取るべき選手たちがゴールを決め、3-1で勝利。3連勝で決勝ラウンド進出を決めた。

 第2戦のマレーシア戦以外は得点こそ少なかったものの、ミゲル監督が就任して以降、磨きをかけてきたプレッシングは機能していた。準々決勝のベトナム戦に勝利してW杯出場権を獲得する。そして準決勝では、勝ち進むことが予想されていていた過去13回のアジア選手権で10回の優勝を誇るアジア最強国のイランを相手に、自分たちの力を図る。また、今大会の日本代表戦は全試合、日本国内でも衛星放送で生中継されていた。これまでフットサルを見たことのない人たちにも、強い日本代表に興味を持ってもらえる。そんなきっかけになるのではないか。日本でフットサルにかかわっている人たちの多くは、そんなプランを描いていたはずだ。

 だが、現実は甘くなかった。準々決勝のベトナム戦、日本は仁部屋のゴールで先制し、森岡も追加点を挙げて2点をリードする。1点を返された後にも、仁部屋がこの試合2点目となるゴールを決めて、再び点差を広げた。守備力に定評のある日本は、残り時間を1失点で守り切れば、4大会連続となるW杯の出場権を獲得し、イランの待つ準決勝に駒を進められた。ところが、試合終了間際にカウンターから1点差にされると、GKをFPが務め、自陣のゴールをがら空きにしながらも数的優位をつくって攻めるパワープレーを仕掛けてきたベトナムに、同点ゴールまで決められた。

 地力で勝る日本は、短い残り時間で攻めることはせず、勝敗の行方を延長戦に持ち込む策をとる。そして実際に延長の立ち上がりには、森岡のゴールで3度目となるリードを奪った。このリードこそ守り抜きたい日本だが、今度は延長戦の後半終了間際に再びパワープレーから失点し、同点に持ち込まれた。ジャイアントキリングを狙うベトナムの思惑にはまった日本は、各チーム3人ずつが蹴るPK戦で、この試合2ゴールを挙げていた森岡と仁部屋が失敗し、1-2で敗れてしまったのだ。

 この時点で3連覇の夢どころか、イランと対戦する可能性も潰えた。さらにW杯出場権を獲得するために、5位決定プレーオフに回ることとなってしまう。ミゲル監督は「本当に奇妙なゲームで、試合を終わらせるチャンスは何度もありましが、それがうまくいかずにこういうことが起きました。ロッカールームでは泣いている選手もいて、苦しんでいました。ただ、スポーツはこういうものです。今から死に物狂いになってやるしかありません。5位になります」と、悔しさを滲ませながらも、W杯の出場権だけは確保することを誓った。

 準決勝であれば、中1日で戦えた日本だが、5位決定プレーオフの1回戦は準々決勝の翌日に行われた。対戦相手は、前日の準々決勝でイラン代表に0-7と大敗を喫していたキルギスタン。2002年大会以降、一度も敗れていない相手であり、日本にとっては勝たなければならない相手だった。

 ベトナム戦終了直後、ミゲル監督から「いま、この瞬間から明日の試合のために切り替えて、W杯に出場すれば問題ない」と声をかけられていた選手たちは、試合前夜にミーティングを行い、試合当日には監督もミーティングを行った。準決勝に進めなかった悔しさを持ちながらも、このキルギスタン戦に一戦必勝の心持で臨んでいたという。

「立ち上がりはチャンスもつくったし、悪くはなかったと思います」と、滝田が振り返るように、日本は何度かキルギスタンのゴールに迫った。しかし、GKエルモロフを中心としたキルギスタンの体を張った守備に阻まれて、得点を挙げられない。逆にキックインから滝田がマークを外してしまい、先制点を許してしまう。

 今大会初めてビハインドを背負う展開になった日本は、その3分後にもCKの流れから追加点を許してしまう。相手のシュートを一度はGK藤原潤(バルドラール浦安)が防いだが、そのこぼれ球に4人のFPは誰も反応できず。FPイリアスに楽々とゴールを決められた。

「試合は最初の10分で決まっていたと思います。相手のGKは私たちのシュートを抑え、無失点を保ちました。0-2にされてからメンタルは平常ではなくなり、仮に私たちの攻めるゴールがサッカーのゴールであっても、今日はゴールが入らなかったのではないでしょうか」

 2点のビハインドで前半を折り返した日本は、後半の開始からFP小曽戸允哉(シュライカー大阪)にGKユニフォームを着せて、パワープレーを仕掛ける。「試合のリズム、ムードを変えたかった」というミゲル監督の思惑通り、左サイドからの折り返しにゴール前で小曽戸が飛び込むというチャンスを立て続けにつくった日本だったが、このチャンスも生かせない。24分には無人のゴールにシュートを決められ、3点を追いかけることとなった。

 その後、逸見が1点を返すものの、さらに2点を追加される。試合終盤には星が1点を返したが、直後にも失点を喫して、結局4点差をつけられたまま、2-6で敗れた。この瞬間、2004年のチャイニーズタイペイ大会以降、3大会連続でW杯に出場していた日本が、2000年のグアテマラ大会以来4大会ぶりにW杯に出場できないことが確定した。

 試合後の公式会見では、7年にわたってチームを率いてきたミゲル監督が、「私にとってはこの試合が日本代表監督としての最後の試合になるので、この4年間を振り返り、感謝の言葉を伝えました」と、今大会を最後に日本代表の監督の座を離れることを発表した。ミゲル監督は日本代表の指揮を執っていただけではなく、指導者育成プログラムの作成などにも幅広く携わってきた。コロンビアW杯出場を中心に、多くの明るい話題に包まれているはずだったフットサル界だが、急転直下、激動の時代を迎えることとなった。

文=河合拓

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